第三章 曇り空の知らせ

合格発表の前日。

「結果は教室に電話するから」と、美幸が言った。

そして、電話の向こうから、かすかな声が聞こえた。

「……だめだった」

第一志望の国公立大学・看護学部、前期試験の不合格。

その言葉は短く、静かだったが、紘一の胸には重くのしかかった。

「そっか」

それ以上、言葉は出なかった。

慰めの言葉は、今の美幸には届かない。

ただ、彼女の気持ちをそっと受け止めるしかなかった。

そのまま美幸は、中期日程の大学を受けるため、電車に乗って行った。

駅のホームに立つ彼女の姿を思い描きながら、紘一は教室の窓から空を見上げた。

曇り空の向こうには、まだ遠く、春の気配がちらりと見えるだけだった。

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