第3話 洋服タンス
高校生の時に見た事を話します。
私の家の隣には一軒家があり、若い夫婦と小学校高学年のお兄ちゃんと、小学校低学年の女の子の兄妹が住んでいました。
そんなに近所付き合いも無かったので少し挨拶する程度でしたが、隣の子達は私に「お姉さん、こんにちは!」と笑顔で挨拶してくれてたのを覚えています。
私の部屋の窓からその子達の部屋が少し見えたのですが、その部屋には洋服タンスがありました。
タンスの上部分はハンガーで服を掛けるタイプで、妹ちゃんは踏み台がないと届かないような普通サイズの洋服タンスです。
別にそんなにジーっと兄妹の部屋を見る訳でもないし、カーテンを閉めてる事も多かったのですが、ある日曜日の昼間に窓を開けたら洋服タンスの中に笑顔のお兄ちゃんが急いで入って行くのが見えました。
その直後にお兄ちゃんの声で「もう良いよー!」と聞こえたので、かくれんぼをしてるとすぐに理解します。兄弟の部屋も窓が開いていたので声はしっかり聞こえました。
微笑ましい気持ちになりながら私は窓を閉めて昼ご飯を食べにリビングに行き、そこからは兄妹の部屋の様子は見ていません。
夕方になってインターホンが鳴って父か母が出たのですが、私も呼ばれたので行ってみると2人の警察官が居ました。
家に警察が来るとか穏やかじゃないし、私は何もしてないよ!?とか思った記憶があります。
何の用か聞くと、隣の家の子のお兄ちゃんを見ていないかと聞かれました。そりゃ毎日のように見てますけどと答えます。
最後に見たのはいつ?とか、何処で見たとか、聞かれたのです。何かあったのかと心配になりますが、とりあえずは知ってる事は答えました。
「部屋の窓から隣の子がタンスの中に入ったのを見たのが最後です、もう良いよーって言ってたのでかくれんぼしてたんでしょうか」
そう答えると警察官は素早くメモを取り、その途中に私を疑いの目で見たような気がしました。あれは気分が良い物じゃありませんね。
母が隣の子に何かあったのか警官に聞くと、昼間に隣のお兄ちゃんが行方不明になったと答えました。
私が何か関与してるんじゃないかと軽く疑うような目だった気がしますが、結局はその後に何度か話を聞かれたくらいで、私に何かがあった訳ではありません。
あれから10年くらいが経ち、私は結婚して遠くに引っ越したのですが、今もお兄ちゃんが発見されたとか、事件が解決したとかは聞いていません。
隣の家族も引き続きあの家に住んでおり、妹ちゃんも今は大きくなっているようです。
あの日、お兄ちゃんがタンスに入った後に何があったのか、一体どこに行ってしまったのか、今も分かってないみたいです。
不審者が完全犯罪で誘拐したのか、あのタンスに何か曰くがあったのか、それは分かりません。
あの事件以降は隣の窓のカーテンが開いてる所も見た事がありませんし、いつしか私もそこまで気にしなくなりました。近所付き合いも薄いし、あいさつ程度しかしない仲でしたからね。
でも以前に変な噂は聞きました。
事件後にあの家のタンスの木目が酷い形に変化したとか、お兄ちゃんが通っていた小学校で姿を見たとか、そんな無責任で信頼の出来ない噂ですよ。
とにかく“可医螺市男児行方不明事件”は今も未解決のままです。
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