魔王も恐れる勇者様

イガコ

勇者の誕生

「勇者が誕生したぞ!」

僕の世界はこの一言から始まった。

短く言えば、僕は勇者として生まれた。

これから魔王を倒し、世界を救う、ということだ。

だが、僕は例外だ。

絶対に魔王を倒す気などない。


こんな薄汚い人間どものためには。


その考えは変わることはない。


そして、僕は、こいつらの願いなど叶える気はこれっぽちもない。

理由は一つだ。


勇者になる、真実を知っているから。


「お前は強くなるんだぞ!」お父さんにはいつもこういわれている。

だが、毎回思った。


ーーそんなこと、するわけないだろ。


心の中ではそう吐き出していたが、口から出るのは「大丈夫です、お父様」だけだった。

お父さんの機嫌を損ねるとめんどくさいことになる。

僕よりは抜群に強いからだ。勇者でもないくせに。


僕は毎日訓練を欠かさなかった。

自分を守るために、だ。他に理由はない。



10歳になった。

ついに来てしまった。

魔物を討伐することだ。

今までには軽い魔物は討伐したことがある。

だが、今回はもっと強い魔物だ。

そんなことをする気はこれっぽちもない。

したくないからである。

だが、しなければめんどくさいことになることはわかっていた。

とりあえず、今日だけは心にとどめておいて、討伐に向かった。


『グァー!』目の前で魔物が立ちはだかった。

下の魔物、『ボア』だ。四本足で立ち、角がついている。

ボアは思ったより大きかった。集団のボスだろう。

だが、周りには仲間のボアが見当たらない。

突進してきて、角を使って攻撃してくるので良ければ大丈夫だ。


だが、何かがおかしい。


いつもとは違う、気がする。

いや、いつもと違う。


何が違う。おかしいのがわかる。

何かがおかしい。前に戦った時と違う。

何がおかしい…何がおかしい…

「!」

分かった。

頭に小さな宝石が埋まっているのだった。

目も赤い。血がたまっているかのようだ。怒っている。

だが、大丈夫のはずだ。簡単に倒せるはずだ。

ボアが姿勢を下げた。突進してくる。

だが、大丈夫だ。ボアぐらいの攻撃、よけられ…


ドカン!


「え?」

僕は空中に吹き飛ばされた。

馬鹿な…

ボアはもう、突進し終えていたのだった。

早すぎる。普段のボアの速度じゃない。

あんな早くはなかった。早すぎだ。

これがボアのボスの速度なのか?

地面に落ちると、立ち上がり、姿勢を正した。

慌てて兵のほうを見た。確かに、兵がついてきているはずだった。

「いない!?」兵がそこにいた痕跡もなく消えてしまったのだ。

周りを見た。だが、もういない。

声も聞こえなかった。一瞬で消えてしまったのだ。

いったいどこに行ったのかはさっぱりわからない。

だが、今は魔物討伐に集中だ。

「かかって来いよ!」

僕はボアを挑発した。

魔物は人間の言葉はわからないが、何か人間には感じ取れないオーラを感じ取れるらしい。お母さんに教えてもらった。

そして、挑発すれば向こうは腹が立ち、思考が回らなくなる。

そして、むやみの突っ込んでくる。

いつもなら簡単に倒せる。

はずだった。

確かに怒った。確かに暴走した。

だが、すぐには突っ込んでこなかった。

まるで、考えているかのようだった。


ボアは地面を踏み鳴らし始めた。


ドン、ドン、ドン。


地面を踏み鳴らす。何度も、何度も。

ドン、ドン、ドン。

すると、地面に魔法陣が開いた。

色は赤く、魔物にぴったりな魔法陣だ。

「魔法陣!?」僕は木の上へと飛びのいた。


魔法陣とは、強の魔法を使うときに必要とされるものだ。

僕たちも使う。

普通であれば、魔法陣なしで魔法を唱えることはできる。

だが、時には魔法陣がないと唱えることのできない魔法がある。

それは『強』に分類される魔法だ。


魔法はじゃくちゅうきょうに分類される。

弱に分類される魔法であれば、すぐに唱えることができる。

中に分類される魔法は術を唱えれば使うことができる。

強に分類されるものは、魔法陣を開き、術を唱える必要がある。

強は僕たちの使う最も強い魔法で、魔法陣なしで唱えようとすれば、体が耐えられなくて、粉々に消え失せる。


その魔法陣を魔物が開いているのだった。

だが、それにはおかしなことがあった。

「魔法は上の魔物しか使えないはずなのに!」

そう、魔法は、普通、じょうの魔物しか使えない。

の魔物が魔法を使うことはないはずだ。


その時、思い出した。

昔に夢に現れた男の人のことを。


僕が5歳だった時、夢の中に一人の男が現れた。

一瞬のことだった。

男が言ったことは一言だった。

「下の魔物は普通、魔法を使えない。だが、一つの方法だけ、魔法を使う方法がある。」

その男は顔が目が見えなかった。陰で隠されていたからだ。

服装も夢だったので、ほとんど覚えていない。

「人間の助けを得ることだ」


「そういうことか!」

その時、僕はその男の人が言っていたことの意味が分かった。

その時、僕はすぐに周りを見渡した。

「まだいるはずだ…」すると、草が揺れる音がした。

その方向を見ると、何かが去っていくのが見えた。人影だ。

「待て!」僕は大急ぎで追いかけていった。

その人は男なのか女なのかわからない。

黒いマントを羽織っていて、顔が見えない。

足が速く、なかなか追いつくことができない。

するすると森の中をかけていく。この人があの魔物を操っていたに違いない。


だが、その人は思ったより速かった。

あっという間に姿が見えなくなった。

僕の息は荒くなっていた。

いったい誰だったんだ…

僕は森の中を眺めた。

だが、そこにはもう誰もいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る