第14話 サラリーマンの社会

 サラリーマン。給料をもらって働く従業員。学校を卒業して進学や起業をする人もいるが、高校・大学を卒業すると就職してサラリーマンになる人が多い。年齢や肩書で上下関係があり、偉い人の命令に従って仕事をした対価として給与を得るのだ。多くの人は生活のために働き給与を得ているから、サラリーマンは生活の糧を失わないように自ら進んでこの秩序に組み込まれる。

 この秩序が正常かつ倫理的に回っていれば何も問題は無いのだが、男性でも女性でも一定数変わった人間がいて、職権乱用やセクシャルハラスメント等の問題がおこる。これは同じ社員同士とは限らない。派遣社員やアルバイト、取引先や客かもしれない。一方が職権や経済力を笠に着て、もう一方を断れない状況に追い込んだのに、あたかも自発的に性的行為を受容したかのように振舞うのだ。多くの場合、立場が上の男性が下の女性を嬲り、器が小さい人間ほどその行為や内容がセコイ。


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 咎革(TOGAKAWA)の毬村編集長への営業に変化が出たのは大学の夏休みが終わる少し前の頃だった。これまではよほど急じゃない限り私がホテルの宿泊予約をして、そこに編集長が訪ねて来る形だったが、編集長が予約した「インターソイルホテル東京」の部屋に呼び出された。ホテルのロビーに着くと既に編集長が待っていて、二人でエレベーターを上がり部屋に入った。「部屋に入ったら、またすぐに入れられるんだろうなー」と思っていたら部屋にもう一人違うおじさんがいた。私が「この人誰ですか?」と聞く前に編集長がソファーに座っているそのおじさんに「専務、この子が前にお話した「フレームズ」の五島カオルです」と私の事を紹介し、私にも「カオルちゃん、この方は咎革の専務取締役、賄腹さんだよ。」教えてくれた。世間知らずの私でも「専務」と呼ばれる人が偉い人なのは何となく分かる。賄腹専務は編集長とは違って身なりがきちっとしていて温和な雰囲気があった。

 「五島カオルさん初めまして。賄腹です。「東京Pedestrian」で大人気なんだってね。」

 「ありがとうございます。」専務はソファーから立ち上がって左手で握手を求められたので、私も左手を差し出した。

 「確かにこうして実物を見ると高身長でスタイルも良くて綺麗だ。まだ大学生なんだろ。」

 「はい。大学からですが一応、慈母メリー女子大学です。」

 「へ~、あのお嬢様大学の。いいじゃないか~。あの東竹芸能の子、確か片丘英里さんだったかな?「ウイークリーネルソン」に不倫をすっぱ抜かれて活動自粛してから毬村君が困っているんじゃないかと思ったら、あっという間にカオルさんのような美人を見つけて来て驚いたよ。」

 「ありがとうございます。」今度は毬村編集長が口頭で答えた。

 「毬村君から聞くところによると、随分熱心に我が社へ営業をしてくれているみたいだね。」

 「え?」私は一瞬答えに困り毬村編集長の方を見ると苦笑いをしている。枕営業の事まで賄腹専務も知っているのか?もしかしたら編集長は社内で枕営業の事を言い触らしているのではないか。

 「安心したまえ。我が社で毬村君とカオルさんの特別な関係を知っているのは私だけだ。あとは御社の雑森マネージャーくらいかな。」

 「…私は「東京Pedestrian」に出演させていただいて嬉しいですし、今後もお仕事をもらえたらと考えています。」

 「そうか。容姿もさることながら素直で良い子じゃないか、毬村君。」

 「はい。仰るとおりです。」

 「カオルちゃん、賄腹専務は俺の前の前の編集長だったんだよ。つまり俺の大先輩ってこと。言っている意味が分かる?」

 「いいえ、よく分かりませんが…。」何が言いたいのか素直に分からず、編集長と専務の顔を交互に見比べる。

 「察しが悪いな~。賄腹専務も編集長時代に若手女優やモデルから営業を受けて、悩みや相談を聞いてあげたってことだよ。」

 「つまり、その…、編集長と同じように、夜に…。」

 「そういうこと。」編集長は気が回らない私に少し苛立っている。

 「カオルさん、怒らないでくれ。私が最近の「Pedestrian」の紙面やネットの評判も見て、一度カオルさんに会ってみたいと毬村君に声をかけたんだ。そしたらこういう関係だと言うから、私も仲間に入れてもらおうとしているんだよ。もちろん私も君の活躍を後押しするよ。」専務はまるでアメリカ人CEOの記者会見ように大袈裟に手を左右に広げたり、私を指さしたりしながら恰好をつけているつもりかもしれないが、下衆な本音は、要するに専務も私を抱きたいということだ。

 「でも、編集長は私に他の男性とお付き合いしたり、エッチな事をしてはいけないって言いましたよね。」さすがに不快だから編集長を睨みつける。

 「専務だけは特別。編集長経験者だし、俺が若手の頃に仕事を教えてくれた方なんだ。まだ学生だから分からないかもしれないけど、俺だってサラリーマンなんだから察してくれよ。」

 「ははは、毬村君はそんな事を言っていたのか。…まあ、カオルさん。私は今専務だし、毬村君が言ったとおり元編集長だ。勘所は分かっているつもりだから悪いようにはしないよ。…それとも「東京Pedestrian」はもう卒業するのかな?」

 「いいえ…。これからも出たいです。」悔しくて俯きながら答えた。

 「そうした方が良い。専務はこれまで何十人もの若手タレントをテレビCMやドラマで活躍するような育成に成功した方だから、カオルちゃんもこれからの出演戦略やキャリアパスを相談するといい。」編集長は私の肩をポンポンと軽く叩きながら言いくるめようとしている。

 「ははは、毬村君あまり持ち上げないでくれよ。…でも、カオルさんは将来有望だから一緒に明るいビジョンが描けそうだな。どうだい?」

 「よろしくお願いします。」私が咎革や出版関係から干されないためにはOK以外の返事はできなさそうだ。

 「では専務、私はこれで失礼します。」編集長が鞄を持って客室の出口の方へ歩き出す。

 「毬村君、取り次いでくれてありがとう。今晩は譲ってもらうけど、君からカオルさんを完全に取り上げようなんて思っていないから安心したまえ。」賄腹専務が編集長の後ろ姿に声をかける

 「承知しました。お気遣いありがとうございます。」と扉の前で一礼して編集長は去って行った。私は物のように引き渡されて不愉快だがどうすることもできない。この二人の男との関係が男性への失望の始まりとなる。


 部屋に賄腹専務がいた事に驚いて今頃気が付いたが、このホテルの部屋は中扉が有り寝室とリビングの2部屋が一続きになっている広くて高い部屋のようだ。専務は私の手を引いて寝室の方へ連れて行き、ベッドに腰かけて座らせる。

 「カオルさんは、まだ男性経験が少ないんだって?」そう言いながらジャケットを脱ぎ、ネクタイを外すなど、余裕たっぷりに順次脱いでいく。

 「はい。」私は俯き服を着たまま座っている。「早く脱げ」と怒られるかと思ったがお構いなしだ。専務は裸になるのかと思えばタンクトップとブリーフ姿で私の隣に座ったと思うと、ゆっくり私の肩を抱いて一緒にベッドに仰向けになった。「さてと、ゆっくり話を聞いてあげるよ。」と言いながら専務の左手がスカートをめくり上げて、そのままショーツの上から私の股間をソフトに撫で始める。

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