赤ずきんと狼、二度目の夜
花守河田
プロローグ(ノクトール視点)
森の闇は、いつもと同じ匂いを放っていた。
湿った土。
夜露に濡れた草。
風に運ばれる獲物の気配。
すべてを嗅ぎ分けるのは、俺にとって呼吸のように自然なことだ。
だが、その中でひとつだけ――
十年のあいだ決して消えなかった香りがある。
甘く、柔らかく。
まだ幼さを帯びていながらも、獣を狂わせる女の匂い。
――赤ずきん。
あの夜、喉元に牙を立てかけた瞬間、俺は気づいてしまった。
ただの餌ではない。
血も肉も喰らい尽くしたはずなのに、あの瞳の光が脳裏から離れなかった。
俺は討たれ、死んだ。
村人たちはそう信じている。
だが獣は夜に呼ばれる。
牙を持つ者は、再び月に引き戻される。
だから俺は、この森に留まり続けた。
飢えにも、渇きにも耐えながら。
ただ――ひとりを待ち続けて。
今宵、風が知らせてきた。
――戻ってきた。
あの娘が。
いや、もう娘ではない。
女となった“赤ずきん”が。
セレベル。
その名を俺だけが呼ぶ。
満月が雲を割り、金の光が森を照らす。
爪が地を掻き、喉が鳴る。
「二度目の夜だな……」
俺の牙は、今度こそ彼女を喰らうのか。
それとも――彼女に喰らわれるのか。
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