第3話 世話焼き後輩と洗体とドライヤー
○漆原の家、シャワー室。
「次は体洗っていくよ」
「先輩って体洗う時はなに使う?」
「ふーん、ボディタオル使ってるんだ」
「スポンジやブラシとかもあるよね。てか、ブラシって海外の映画でしかみないか、あのでっかいやつ。使ったことある?」
「だよねー。ううん、私もさすがにないかな」
「……それでね、私、実は手で洗う派なんだ」
「ボディタオルやスポンジだとゴシゴシ擦りすぎて、肌の必要な皮脂まで落としちゃって、乾燥してガサガサになるから、けっこう前から手かな」
「あ、背中は手が届かないからそこはボディタオル使うよ?」
「ということで浴室には備えつけてるんだけどね」
「私が普段体洗うのに使ってるのを先輩に使うのは気が引けるというか、あんまり綺麗じゃないかなーって……」
「だから、さ。手で直接洗ってもいい?」
「大丈夫、私の手、綺麗だよ。ほら、って目開けたらダメっていってたんだ。ごめんね」
「それに、爪は立てないように優しくするように気をつけるし、どうかな?」
「うん。じゃあ、手で洗うね」
SE:ボディーソープをプッシュする音。
「ボディソープを1プッシュ手に取って。シャンプーのときもそうだったけど、今回も泡立ててから洗うよ」
「そうそう、よく覚えてるね。そうすることで強く擦りすぎないようにして肌のダメージを軽減するの」
「こうして手と手を擦り合わせて……」
SE:ボディソープを手で泡立てる音。
「粘り気が強くなっちゃうから合間に水をぴゅっ、ぴゅっと足して。擦ってまた泡立てる」
「これを何度か繰り返したら……。うん、いい感じに泡立った」
「このたっぷりの泡を使って洗っていくね」
「私はいつも左肩から腕、手先へと洗っていくの」
「どうしてこの順番なのかって、考えたことなかった。うーん、利き手が右手だからこの流れがスムーズなのかも」
// 漆原、左側に回る。
「まずは、左手ね。肩から、腕に向かって下に洗っていくよ。ふわふわ、ふわふわ」
SE:体を洗う音。
「泡を押し付けるように優しく。ふわふわ、ふわふわ」
「ちょっと先輩、なに身をよじってるの? えー、優しすぎて、くすぐったい?」
「だけどこの方が肌にいいのに。でも、このままだと洗うの続けられそうもない、か」
「分かった。ちょっとだけ強く洗うね。ごしごし、ごしごし」
「このくらいでいい? これだとくすぐったくない? そう、これでいくね」
「左手が終わったら、次は右手。でも先輩、怪我してギプス巻いてるから根本だけしか洗えないね」
// 漆原、右側に回る。
「右肩から腕をごしごし、ごしごし。ギプスって蒸れてかゆくなったりするって聞くけどどうなの?」
「やっぱりかゆいんだ。で、その時はどうするの? ひたすら我慢?」
「へー、長い棒とか突っ込んでかいたりするんだ。大変そー。早く治るといいね」
「よし。腕が終わったから上半身、その前側、胸のあたりから。ごしごし、ごしごし」
「わっ、体びくんってなったけど大丈夫?! なんか引っかかった気がしたけど、私、爪で引っ掻いちゃった?! ごめんなさい……」
「ん、違う? なら、どうして」
「え、気にしないでいい? うん、分かった」
// 漆原、後ろに回る。
「そして後ろ。背中、大っきいね。先輩、普段は子どもっぽいのに、なんか頼りがいのある男の人って感じする。ごしごし、ごしごし」
「背中ってただでさえ洗いにくいのに、怪我してたらなおさら洗えないよね。ここは念入りに、ごしごし、ごしごし」
// 漆原、左下に回る。
「次は左足。腰にタオル巻いてるから太ももから足先に向かって、っと」
「指の間も忘れずにね。ここ汚れたまりやすいからさ」
「足の裏は……、くすぐったいからダメ? へー」
「こちょこちょー」
「あはは。ごめんごめん。もうしないから」
// 漆原、右下に回る。
「最後に右足を洗って終わりだね。ふふ、先輩泡まみれじゃん」
「ちょっと眺めていようかなー。うそ、これからちゃんと洗い流すってば」
SE:水栓を回す。シャワーの音。
「最後にシャワーで全身の泡を流してくね。どう? すっきりした?」
「私も頭と体洗うからちょっと待っててね」
「よし、おーわり。早くない、って? 当たり前だよ。先輩にはいつもよりたっぷり時間掛けたんだから」
「私、先出て服着てるね。終わったら声かけるからその後に先輩出てきて」
「そしたら髪、乾かしてあげる」
SE:浴室のドアが閉まる音。
SE:タオルで拭く音。衣擦れの音。
SE:鼻歌。
「にゃ、にゃ、にゃーん。えへへ、先輩といれて今日は楽しいな……」
(間)
「あ、先輩もう出てきていいよ。私は一旦、脱衣所の外にいるから」
◆
○脱衣所、洗面台。
「はい、着替えも終わって残すは髪の毛だね」
「え、このままで別にいい? まさか先輩、お風呂上がりの髪の毛そのまま自然乾燥してるんじゃ……」
「だめだめ! それは絶対だめ」
「せっかく優しくシャンプーしたのとか意味なくなっちゃうじゃん」
「濡れた髪はキューティクルが開いててダメージが入りやすいんだから、ドライヤーでちゃんと乾かしてキューティクルを閉じてあげないと」
「それに地肌も濡れたままはよくないし」
「そこまで気にしなくてもいいっていうけど、先輩がかっこよくなったら私も嬉しいし……」
「でも、かっこよくなっちゃうとあの人たちがもっと先輩のこと気にかけちゃうかもしれないし、ああどうしよう……」
「ん? ううん、なんでもない」
「と・に・か・く、先輩は今日は私に癒されていたらいいの」
(間)
「ドライヤーの前に、洗い流さないトリートメント。これつけるとつけないとじゃ手触りと艶が全然ちがうんだから」
SE:トリートメントをプッシュする音
「このクリームを髪の毛の中間から毛先に、櫛みたいに指を通すようにつける」
「根本につけちゃうと毛穴が詰まっちゃうから要注意ね」
「いい香りでしょ? フローラル系で結構お気に入り」
「先輩、これで私と同じ匂いになっちゃうね。ふふ」
「ちょっと先輩、顔赤いよ? もしかして照れてるの?」
「ふーん。ふふーん。照れちゃってるんだ」
「後輩相手に、意識、しちゃってるんだ?」
「はーい、続きするね」
「手だけじゃ馴染ませられないところを、こうしてさっ、さっ、さっ、さってブラッシングすると乾いたときにいい感じに」
SE:ブラッシングの音。
「ここからドライヤーだね」
SE:ドライヤーの音。
「温風で根本から乾かして、ムラのないようにわしゃわしゃー。わしゃわしゃー」
「
「それに先輩の髪って、私のと比べると一本一本が太くてしっかりしてて、いつもと勝手が違うから余計に」
「根本が乾いたら中間から毛先を乾かしていくよ。この手順、ちゃんと覚えてね。次の日から実践するよーに」
「先輩、ここの毛量他の場所と比べて多いね」
「ここ、左の後頭部らへん。意識して乾かさないと生乾きになっちゃうかも」
「全体が乾いたら、艶出しのために冷風をあてる」
「最後に、またブラッシングして整える。さっ、さっ、さっと」
SE:ブラッシングの音。
「これ気持ちいーよね。マッサージ効果があって血流が良くなって髪質も良くなるんだってさ。いいことしかない」
「はい、これでおしまい。先輩、髪めっちゃつやつや。女の子みたい」
「違う違う、いい感じってこと。かっこよさ二割増し」
「もう干してる制服も乾いただろうし、傘貸すよ」
○玄関。
「雨は昔から嫌いだけどさ、先輩とこんな時間が過ごせるなら……」
// 漆原、近づいてささやく。
「好きになっちゃうかもね」
// 漆原、離れる。
「じゃあ先輩、気をつけて帰ってね。また明日」
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