Silver snow15②
“
わたしの顔がみるみるうちに熱くなっていく。
それを見てお父さんがヒートアップする。
「ふざけるな!」
お父さんは強張った表情で怒鳴る。
「妻から聞いたぞ」
「
「池田先生は
「
「キミのせいで
お父さんはキッ! と
「そんなことをしておいて、よく顔を見せに来れたな!」
「これだから銀髪ヤンキーは! 今すぐ帰れ!」
「そしてウチの大切な
お父さんが声を荒げながら言い放つ。
「なぜそんなにもヤンキーを嫌うんですか?」
お父さんは
「キミに話すことなんて何もないよ」
「…わたしもずっと聞きたかった」
「なんでお父さんとお母さんはヤンキーを嫌うの? 教えてお父さん」
わたしがお願いすると、お父さんは、はぁ、と息を吐く。
「母さんが高校時代、銀髪ヤンキーにいじめられていたからだよ」
え…お母さんが銀髪ヤンキーにいじめられてた?
「お父さん!」
お母さんが慌てて叫ぶ。
「俺と母さんは同じ高校で同級生だった」
「クラスはAとBで隣同士だったが話したことは一度もなかったんだが」
「1年のクリスマスが近づいた日の放課後」
「帰ろうと思って廊下を一人で歩いていたら」
「母さんがCクラスの銀髪ヤンキーからひどくいじめられていてな」
お母さんの顔が切ない表情に変わる。
「止めに入って母さんを守ったのが俺で」
「その日から仲良くなって行ったんだ」
お父さんは自分の右耳に手を当てる。
「まさか結婚するとは思いもしなかったがな」
そうだったんだ…。
「お母さんをいじめた銀髪のヤンキーは最低な男の子だったかもしれないけど」
「
「何が違うんだ?」
「彼のせいでマラソンを無理して出ることになって倒れた」
「立派ないじめだろう!?」
お父さんは
「お父さん、違うの」
「
「『交通事故にも合いかけたわたしを走らせることは出来ない』って言われたけど」
「わたしが『走らせて下さい』ってお願いしたの」
「それは彼に命令されてだろう?」
お父さんの問いかけに、わたしは首を横に振る。
「違う」
そう否定すると、わたしはぎゅっと羽織っている黒のパーカーの裾を掴む。
「わたし、今、
「同じクラスの女の子と“マラソンで勝ったらわたしの席を譲る”約束をして」
「わたしが
「結果はわたしの負けで自分の席譲ることになっちゃったけど全力で走ったから後悔はしてない」
「
今まで秘めてきた感情がぶわっと溢れ出す。
「今までずっと嘘をついてきたけど」
「わたし、今まで体育の時、ずっと休んでて周りにサボった扱いされてきたの」
「でも、
「
「やっとマラソン最後まで走りきれたんだ」
「マラソンだけじゃない」
「今まで行けなかったカラオケやチェリバにも行けるようになって」
「自分の意見もちゃんと言えるようになって」
「出来なかったこと、いっぱい出来るようになった」
「
わたしは目をキラキラと輝かせながら言った。
お母さんは、どこか寂しそうな表情を浮かべる。
「そうだったの…」
「
「ごめんなさい…」
お母さんは震えた声で言った。
わたしの両目に涙が溢れ、ポロポロと零れ落ちていく。
「お母さん…謝らないで」
わたしの声が震える。
「嘘をついてきたわたしが悪いの」
「もっと正直に言えば良かった…」
「
お母さんは、わたしの元まで歩いてきて、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「“ウチの子は皆さんとは違うんです”って、保健室で俺に言いましたが」
「何も違わない」
「
あ…お母さんとお父さん泣いて…。
「髪が銀髪に染まっていたから分からなかったけど」
「やっぱり貴方、あの“
「え?」
「私ね、
「2人部屋で貴方のお母さんと隣同士だったの」
「え…隣同士?」
お父さんの顔を見ると、お父さんは静かに頷く。
「あぁ」
わたしと
「貴方のお母さんよりも先に陣痛がきて」
「病室から分娩室に運ばれる時、『がんばれ』って励まして下さってね」
お母さんは自分の胸に両手を当てる。
「分娩室で女の助産師さんに『おめでとうございます! 女の子です!!』って言われて
「“生まれてきてくれてありがとう”って感謝したわ」
「だけど…」
お母さんは悲しげな顔をする。
「急に周りがバタバタし出して先生が慌てた様子で女の助産師さんに生まれたばかりの
「『どこへ連れて行くの!? 返して!』」
「『
「隣にいた
お母さんの目が涙目に変わった。
「それから数時間後に診察室で」
「『先生、
「『お母さん、落ち着いて聞いて下さい』」
「『
「『
「『今後、
「ついさっきまで私の手元にいた
わたし、
複雑な心境になりつつも、わたし達3人はお母さんの話を聞き続ける。
お母さんは右目から一筋の涙を流す。
「それからはずっと1人部屋の病室にいて」
「私だけは授乳室に呼ばれることはなかった」
「それでも授乳室に行って、『どうして? どうして、
「授乳室から
「
「今でも
「それが
お母さんは両手で自分の顔を覆う。
「それからは
「
「みんなと同じ健康で生んであげられなくて、ごめんね」
「っ…」
わたしは体を震わせ嗚咽しながらも首を横に振る。
「あの時の私は、ただただ弱かった…」
「鬱になって自分を守るので精いっぱいだった…最低ね」
お母さんは自分の指で涙を拭う。
「…ご両親は今も元気?」
「お母さ…」
わたしが言いかけると、
「分かりません」
「中3の時、突然、両親が出て行きました」
「それでも2人から仕送りはあってなんとかバイトしながら高校には通えています」
お母さんは自分の口に両手を当てる。
「ごめんなさい、私無神経なことを…」
「いいえ」
「お話聞けて良かったです」
「俺が生まれた時、両親は幸せそうでしたか?」
「ええ、とっても」
「
お母さんが優しく言って頭を撫でると、
「っ…」
その表情を見て胸がいっぱいになり、涙が止まらない。
「なんでお前が泣くんだよ」
「でももう大丈夫みたいだな」
「俺帰るわ」
そう言ってぽんっとわたしの頭に手を置いて微笑む。
その様子をお父さんとお母さんが優しく見守る。
「ぁっ…………」
「…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます