第六章 喪失
第33話 サイバーワンダーランド
光り輝く回転木馬に、縦横無尽にレールが張り巡らされているジェットコースター。敷地全体の照明は落としてあって、その代わりにプロジェクションマッピングが投影されていて、その光のアートが醸し出す美しさに僕は魅入ってしまって言葉が出て来ない。
「おう。遊園地に来るのは初めてか? それとも久しぶりか?」
あぁ……そうだ。ここには子供の頃に連れて来てもらった事がある。サイバーワンダーランド。地下世界における名所の一つで、東京エリア最大の遊園地だ。わざわざ海外からロケット移動してまで来る人がいるくらいには有名だ。
『ねぇねぇ、パパ、つぎはあれにのりたい!』
『観覧車だな? 上からは園内のプロジェクションマッピングが見渡せて綺麗だぞ!』
『ぼくとってもたのしみ!』
『あらあら、走らないの純。お母さんもお父さんも走るのは苦手なのよ』
『ねぇねぇはやくぅ。ぼく、はやくあれにのりたいよ!』
両親との思い出が僕の脳裏に蘇る。あの頃は良かったな。父さんも母さんも僕に優しくて……。あの頃の僕は、両親に工場送りにされる未来だなんて想像もしていなかった。
「そ……それで、何でサイバーワンダーランドなんですか?」
ボスは僕と遊びたかったの? いや、そんなワケある!? ここに来るならガールとの方が絶対に楽しいよ。僕みたいな口下手と来たって、絶対に楽しくないって!
「木を隠すなら森ってな。ここなら、俺らの事を行政が見付けたってドンパチ出来ねぇだろ。それに、久々に来てみたかったんだ、遊園地に。ここには子供の頃良く来たんだ。神明と対決する前に、もう一度見ておきたかった……」
なるほど……。そういう理由があったのか。『もう一度見ておきたかった』って、二度と来られないみたいな感じがしてちょっと不安を覚えるんだけどな。
それにしても僕もここに来るのは久しぶりだ。ボスの言う通り、ファミリーで賑わう
「んじゃよ、落ち着いて話してぇからレストランにでも入るか。レストランっつってもサプリと飲み物メインの健全なレストランだがな」
「……はい……」
やっぱりアトラクションには乗らないんだな。子供の頃に乗ったジェットコースター、ちょっと乗ってみたかったなぁ。
「ん? 何だお前。成人近くにもなって俺とアトラクション乗りてぇのか?」
ぐっ。こんな事まで見透かされている。僕は顔が熱を帯びてくるのが分かった。こんな子供じみた願望捨てなきゃダメだよな。
「いえ、ちょっと……懐かしくなって……」
「ふんっ。子供の頃の思い出なんて捨てちまえ。昔良くしてくれた両親は、今はお前の敵だぞ」
確かにそうなんだけど……。
僕は黙ってボスの後をついて行く。レストランにはすぐに着いた。この遊園地最大のレストランで、キャラクター達に会えるって評判のサービスがある。
「お客様、何名様ですか?」
「二人だ」
店員は僕らを怪訝そうな眼差しで見て来る。男性同士の夫婦は珍しくないんだけど。何でだろう? 僕らがゴリゴリの筋肉男子だからだろうか。僕はどちらかと言えば細マッチョでボスみたく筋肉隆々って見た目じゃないんだけどな。それとも、ボスの厳つい顔に怯えてるのかな?
通された席は店の奥の端だった。
「何だ? 俺ら歓迎されてねぇのか?」
「え……いやぁ、どうなんでしょう……」
「まぁ良いか。ここならゆっくりと話が出来るぜ」
ボスは軽めのアルコールのカクテルを頼んで、僕はアイスコーヒー風飲料を頼んだ。ここ、アルコールなんて出してるんだぁ。健全なファミリーのための施設なのに、意外だ。
「それで、よ。お前、ベイビーとの事はどうなってんだ?」
えぇ……凜々花の事ですか? 僕はちょっと狼狽える。
「どうもも何も……何も無いですよ。ただ……その……ベイビーは僕を慕ってくれているみたいで、将来的にはその……」
「そこまでちゃんと考えているのか。それなら、今のままの関係を続けていても良いと思うが。だがな」
「だが……?」
「未成年の内は手は出すなよ。お前が未成年淫行罪で捕まって工場行きになったら、ベイビーが路頭に迷うからな!」
そう言うと、ボスはいつもみたく大口を開けてガハハハと笑った。
でも、ボス、僕とそんな話をしたくてここまで連れて来たんですか……?
「それはそうと、本題よ」
やっぱり? 本題は別にあったんですね!?
「お前に、俺が死んだらノンエデュリスを頼みてぇんだ」
「え……?」
ボスが死んだら? 死んだらって何……?
「死んだらとか、不吉な事言わないで下さいよ」
「不吉な事でも何でもねぇ。これは現実だ。俺らは、命を懸けて神明と戦うんだ」
ボスは真っ直ぐに僕を見つめる。
「俺が死んだら、お前が神明を倒してワールドのトップに立て。お前は勉強は出来ねぇかもしれねぇが、この世界を変えなきゃいけないっていう想いは強いはずだ。それに、真っ直ぐで純粋で、そしてフィジカルが強い。お前なら、きっと俺の代わりが出来る」
「出来ませんよ……。そんな……ボスの代わりなんて無理ですよ。僕がワールドのトップに? こんなに頭が悪いのに? 僕がこの地球を指導していくんですか? そんなの無理ですよ」
「無理じゃねぇ。やるんだ。お前がやらなきゃ誰がやる?」
「ど……
「あいつは天才だがまだ十歳だ。お前の優秀な補佐官にはなれるが、ワールド総裁になるには若すぎる」
「じゃぁ、ガールさんとか!」
「あいつはな……あれなんだ。事情があって無理なんだ」
「事情……?」
「今は話せねぇ。あいつの秘密は俺だけが知っている。でも信じてくれ。あいつはスパイじゃない」
「……?」
どういう事なんだろう。ガールにどんな秘密があるって言うんだろう。ワールド総裁にはなれない何かしらの秘密……? 今までも女性が総裁になる事はあったし、性別なんてこの世の中では何の障壁にもならない。秘密……秘密……? 秘密って何だ?
「俺も打ち明けられたのはつい最近なんだがな。ぶったまげたぜ。あいつ、あんなどでかい秘密を抱えて生きてきたのか……」
益々気になる。 何なんだろう。でも、ボスのこの調子じゃ教えてくれないかなぁ。
と、そこに女性の店員さんが僕らのドリンクを運んできた。ボスは「ありがとよ」と受け取るとチップを渡した。
「じゃ、俺とお前の未来に乾杯」
「……乾杯」
これじゃ僕が今までの話を飲み込んだ事にならない!? 大丈夫なの、僕!
──チャンチャラ チャンチャカ チャンチャカ チャララ
その時、店内に陽気な音楽が流れて来た。これはこのサイバーワンダーランドのメインキャラクター、サイと犬を掛け合わせたみたいなキャラクターのサイ場ドッ君のテーマ曲だ。
「ボックゥ! 皆と楽しくおしゃべりがしたいワン! ごめんくだサイ! 握手してちょーだいワン!」
サイ場ドッ君は僕らのテーブルの所に来ると、楽しそうにステップを踏んでボスに手を差し出した。
「何だなんだ~? サイ野郎の登場か? これ、チップ渡した方が良いの……」
その刹那。サイ場ドッ君の手から『パスン!』と音がして何かが飛び出した。
ボスは、胸を抑えて呻いている。ボスの白いシャツには真っ赤な血がどくどくと流れている。
「ボス!?」
僕は慌ててサイ場ドッ君とボスを引き剥がす。
「に、逃げろ、ピュア……」
引き剥がされたサイ場ドッ君は、よろめきながらも僕に手を……いや、銃口を向けて来た。
僕の頭は半分パニックだったけど、ここは逃げるしかないと思った。だから、ターボシューズの出力を全開にして他のテーブルをなぎ倒しながら逃げた。
「キャァァァ‼」
ファミリー客から悲鳴が上がる。そんなの今は気にしている場合じゃない。
ボス……ボスはどうしよう!? でも僕はもう逃げ出しているし、そもそもあんな大男のボスを担いで逃げられるわけがない。
瞬間的に後ろを振り返ると、ボスはテーブルに突っ伏して口からも血を流していた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!?
とりあえずアジトまで逃げなければ。仲間達にここで起きた事を説明しなければ。
僕は全力でその場から逃げた。サイ場ドッ君の姿は、もうそこには無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます