第29話 美食家親子
「……っかぁ~……。地下世界の中でもこいつはかなり立派な部類の家だぜ」
地下世界の家は大体が低層マンションタイプの集合住宅が多いんだけど、今回のターゲットの家はそうじゃなかった。
今までに殺した美食家たちも一軒家に住んでいたけど、今回の家はそれよりも大きな二階建てで、間口も広ければ奥行きも深かった。
家の周りには高い塀が巡らされていて、中にある窓の様子は見えない。でも、きっとこの家もAI警備会社とは契約しているんだろうから、いつも通り制限時間は五分といった所だろう。
「どうしますか、ボス。窓を割って突入するか、玄関のAIスマートロックを解除するかどちらにします?」
博士の問いにボスは少しだけ考えを巡らせ、すぐに答えを出した。
「これだけ奥行がありゃ、窓を割って入っても問題ねぇだろうな。その方が手っ取り早ぇしな。ベイビーの腕力でも耐衝撃ガラスを突破できるか、博士」
「問題ありません。ボクが作った超硬合金と合金工具鋼の柄は最強です。ベイビーに渡してある銃はよりそれを強化してありますから、何の問題もありません」
「さすがだな、博士。聞いてたか、ベイビー! お前、やれるか?」
凜々花は不安そうな目をしているが、それもすぐに力強い色に変えて頷く。
「大丈夫よ、ボス。わたし、出来るわ」
「その意気だ、ベイビー」
そこまで確認をすると、僕達は物陰から出て素早くターゲットの家に移動をした。
「やれ!」
ボスの号令で僕らは一斉に窓を叩き割る。凜々花も銃の柄を全力で耐衝撃ガラスに打ち当てている。耐衝撃ガラスは、ものの見事に砕け散った。
「行くぞ!」
全員がターボシューズの出力を全力にして屋内に飛び込む。先頭を行くボスは次々に扉を開けて行く。
「一階にはいねぇ! 二階だ!」
屋内の螺旋階段を一気に駆け抜け、すぐに二階に着いた。そして、またボスは次々に扉を開けて行く。
「ったく……部屋の多い豪邸だぜ」
二回は廊下を挟んで右と左に五個ずつ扉があった。浴室、トイレ、物置、人のいない部屋……。
そして、右の四個目の扉を開けた時、ボスがニヤリと笑った。
「見付けたぜぇ、ど淫乱親子さん」
中から男女の悲鳴が聞こえる。もしかして情事の最中だったのかな?
僕達が次々に部屋に侵入すると、そこはとても広い部屋で、天蓋付きの大きなベッドが置かれていた。サイドテーブルには食べかけの人肉ステーキが置かれている。食べながら情事に耽るってどういう趣旨なんだろう? 裸の男女は、薄手の布団で身体を隠しながら、「あなたたち誰!?」「誰だお前ら!?」と叫んでいる。
見るからに四十代の女性と、若い男性。これが話に聞いていた近親相姦をしているっていう親子かぁ。華やかそうな外見をした母親に、いたって普通の今時の若者って感じの息子だ。息子の方は多分僕と同い年くらいだ。
「あなた達! ここが誰の家か分かっているの!? 今すぐ出て行きなさい! うちはAI警備会社と契約しているから、不法侵入すればすぐに警備員が来るのよ!?」
「まぁまぁ、落ち着けよ淫乱ばばぁ」
ボスが母親の方を挑発する。
「ママぁ、怖いよぅ。ぼくちゃん、この人達にどうされちゃうの!?」
「大丈夫よさとるちゃん。ママに任せておきなさい。こんな暴漢共はすぐに追い払ってあげるからね」
前言撤回。
この息子は全然今時の若者じゃない。今時の若者はもうちょっと自立している。少なくとも成人前後で自分の事を『ぼくちゃん』なんて呼ぶ奴はいないし、こんな猫撫で声で母親に甘える男子っていうのもあまり見ない。
「人肉ステーキを食いながら息子としけこむっていうのは成功者として正しい行為なのか? 近親相姦は法律では禁止されていないとはいえ、倫理的にはアウトだぞ?」
ボスの挑発は止まらない。
「まぁぁぁ、あなたこのさとるちゃんを目の当たりにしてもそんな馬鹿な事を言うのね!? こんなに可愛い私の坊やなのよ? 愛し合って何が悪いって言うの!?」
「腐ってやがる」
「それとね、人肉ステーキがどうこう言っていたけど、あなたまさか人肉を食べた事もない貧しい庶民なのかしら? この至高の味を知らないだなんて可哀想な人ね」
「食いたくねぇから食わねぇだけだ」
ボスは眉間にしわを寄せてかなり苦々しい表情をしている。僕はというと、嫌悪感から胃酸が逆流してきたような感覚がしてかなり苦しい。
凜々花は、あっけに取られていた。無理もない。まだ十四歳で汚されていない女の子なんだ。こんな場面をいきなり見せられたら刺激が強すぎるだろう。
それよりも年下だけど精神年齢は誰よりも高い博士はというと、冷えた眼をして親子を見つめつつ、「ボス、あと三分しかありませんよ」とかなり冷静だった。
ガールはボスの横に立っているけど、この親子には興味無さそうにパタパタと手で顔を扇いでいる。確かに、襲撃する時の僕らの服って暑いんだよな。顔もフェイスカバーで隠しているし。
「それで? あなた達、いくら欲しいの?」
「あぁ?」
「お金でしょ。強盗でしょあなた達。そんな子供まで連れて来ちゃって、貧困一家が頑張って侵入してきたって所かしら? お金ならあげるからとっととこの屋敷から出て行ってちょうだい!」
そう言うと、母親はこちらの端末にお金を送ろうと、デジタルアイを展開して銀行アプリを立ち上げている。
「要らねぇよ金なんて。欲しいのはお前らの命だ」
「んまぁぁぁ! 命ですって!? ワールドの警察は優秀よ!? 人殺しなんてしたらすぐに捕まって工場に送られるわよ!?」
「俺らはそんな愚かなバカじゃねぇよ。まぁ、時間もねぇしさっさと死ねよこの淫乱美食家ババァ。殺れ、ベイビー」
指示された凜々花は、銃を構えて母親に照準を合わせる。その手は、小刻みに震えている。
「あらぁ? レーザー銃かしら~? それじゃ人は殺せないわよぉ? あなた達、本当に愚か者ねぇ」
僕達をバカにし続ける母親に対し、僕の中の好戦的な部分がどんどんと燃えだしてくる。いっそ僕がこの二人を銃殺してしまいたい。今すぐ銃をぶっ放したい。
「おい! さっさと殺れ! ベイビー‼」
「あ……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
──バァァァン‼
凜々花は意を決して引き金を引いた。薄ら笑いを浮かべていた母親の頭部が吹っ飛ぶ。そして、頭部を失った首から噴水のように血飛沫が飛び散る。
「ママぁぁぁぁぁ‼」
息子が母親の頭部を拾おうと右往左往している。ここで僕の出番だ。息子を誰が仕留めるかなんて決まっていない。なら、僕が撃つ……!
「死ねぇぇぇぇぇ‼」
僕は息子めがけて引き金を引いた。
──バァン! バァン! バァン!
三発の銃弾は、息子の細い体躯を貫いた。息子の方は、滝の様に血を流して「マ……マ……」とか細く口にしながら絶命した。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
殺った。また、人を殺した。この手で殺した。
何て快感なんだろう。背中がぞくぞくとしてたまらない。
部屋中に飛び散った血飛沫は、最初からそこにそう施されていたかのような壁紙の柄のようにこの部屋に馴染んでいる。
そうだ、凜々花、凜々花は──?
凜々花の方を見ると、凜々花は銃を構えたまま「あ……あぁ……」と放心状態だ。全身ががくがくと震えている。
「おい、ずらかるぞお前ら! あと一分しかねぇ!」
ボスの怒鳴り声にハッとする。
僕は呆然として震えている凜々花を抱え、ターボシューズの出力を全開にしてこの場から逃走した。
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