第2話 地上へ
「ハァ……ハァ……ハァ……」
地下世界の迷路のようになっている路地を全力で走り、到着したのは地上へと続くマンホールだった。
ここは行政が数年に一度地上に出て調査を行うための通路で、滅多に人が来ない場所にある。僕は子供の頃にここを見付けて、中に入った事は無いが何のためにあるのかは知っていた。
マンホールの取っ手を握り、力を込めてそれを開けようとする。
「ぐっ……ぎっ……重いぃ……」
マンホールの蓋は厚い鉄板で出来ているからとても重い。しかし、今ここで諦めるわけにはいかないんだ。両親に見付かったら僕は即座に工場行きになる。
「もっと……力を……!」
全身に全力を込めて蓋を引っ張る。
すると、『ガコッ!』と鈍い音がしてそれは外れた。
「中は、どうなってるんだ……?」
人がやっと一人入れそうな穴は暗く、所々永久LEDの光が灯っている。
「梯子、あれを登ればいいんだな……!」
中には地上に続く梯子があった。ここは地下数百メートルの都市だ。地上まで登るのは大変な作業になりそうだが、弱音を吐いている場合ではない。
僕は最初の一段に手をかけ、そっと足を掛けて登り始めた。
「ちくしょう、どこまで登れば地上なんだ……!」
登り始めて十五分くらいで、手が痺れて来た。まだ地上への出口は見当たらない。
「行政がたまにここから外に出て地上を観測しているだなんて嘘だろう。あいつら軟弱だから、こんな梯子を登り切れるはずがない」
僕は疲労と苛立ちを解消するべく、悪態を吐いた。このマンホールの中でなら、どんな悪態を吐いても誰が聞いているわけでもない。
さらに登る事十分、もうそろそろ出口が見えて来ても良いはずだ。手の平にはマメが出来、それが潰れてうっすらと血が滲んでいる。
「もうちょっと……もうちょっとだ……!」
己を鼓舞し上に進む。
「見えた! 出口だ!」
少し先に出口が見えた。助かった。これで地上へ出れる。その時だった。
『ピー! ピー! ピー! 不審者発見!』
下の方から電子音と合成音声が聞こえた。
「しまった! 監視飛行ロボか!?」
むしろ、ここまで追手が来ずに来れた事が奇跡なのだ。行政が使う通路だ、監視ロボがいてもおかしくはないだろう。
『止マリナサイ! 不審者ヨ! 止マラナイト撃ツゾ!』
飛行ロボは僕にレーザーポインターを当てている。あれはレーザー銃だ。撃たれたら一定時間身体が痺れて動けなくなる。そうなったら僕はここから落下して、死ぬ。
「どうしたら……どうしたら良いんだ……!」
僕は狼狽えていた。その時、出口から一気に光が差し込んだ。
「眩しっ……! 何……!?」
「伏せろ‼」
瞬間的に僕は身体を梯子にくっ付けた。
──バンッ! バンッ! バンッ!
「何の音だ!?」
聞いた事のない破裂音がしたかと思うと、下にいた飛行ロボが煙を上げて落ちて行くのが見えた。
「え!? 何事!?」
すると、上空から野太い声がした。
「お前、ここを登り切るとはなかなか根性あるじゃねーか」
出口を見上げると、そこには二十歳くらいの日に焼けた精悍な顔つきの青年がいた。
「ほら、手を取れよ」
差し伸べられた手を取ろうと残りの梯子を勢いよく登る。
しかし、僕に迷いが生じる。
本当にこの手を取っても良いのか? この青年は僕の味方なのか? 本当は行政の人間なんじゃないのか?
そもそも、地上はこの時期、気温が五十度で人が住むには不向きだ。そんな所から現れた人間なんて、何者だ?
僕の登るスピードが落ちる。すると青年は苛立ちを隠さずに強い口調で叫んだ。
「早くしろよ! また追手が来るぞ! 死にたいなら今すぐお前を撃つ!」
そして、レーザー銃とはどこか違うものを僕に向ける。
「待って待って! 信じるから! 君を信じるから! 手を取るから!」
そして、僕は梯子を登り切り青年の手を取り地上に出た。
「眩しい……!」
青年の手は、地下世界では見た事が無いくらいにゴツゴツとしていた。
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