第3話「月から来ました ~蒼い星への旅~②」
この新しい膜は透明ではなかった。薄く、干渉する構造を持っていたため、光を受けると虹色に輝いた。赤から青へ、青から緑へ、見る角度で色を変え、岩肌に淡い模様を描き出す。
昼になると膜は光を吸い、電子を取り込み、鎖を延ばして広がった。夜になると凍りつき、硬い鉱物の薄片となって岩に貼りついた。繰り返す昼夜の中で、膜は生き延び、少しずつ範囲を広げていった。
やがて一部は剥がれ、風も空気もない月でただ重力に従って転がった。
新しい場所で光を受けると、そこでも虹の膜が芽吹いた。
月の岩肌に、わずかながら虹色の斑点が散り始めた。
それは「晶芽」と呼ばれる存在──鉱物と有機の境界に宿った命の芽吹きであった。
晶芽は岩に張りつき、光を受けてわずかな代謝を繰り返した。個はなく、ただ散りばめられた斑点として存在し、月面に「光の花畑」を咲かせていた。
やがて晶芽たちは互いに共鳴し始めた。昼に膨張し、夜に収縮する律動が、岩盤を通じて隣の膜に伝わる。そのリズムは「問い」と「答え」となり、群れ全体がひとつの鼓動を持つようになった。
群れが大きくなると、岩の表面は虹色の波で覆われた。赤い輝きは「危険」、青い輝きは「水」、緑の帯は「安定」。 それはまだ言葉ではなかったが、確かに「会話」だった。
こうして月には、静かに響く群体の文明が芽生えた。
*
だが月は苛酷な世界だった。
隕石の衝突、温度差、放射線。固定された膜だけでは生き延びられない。
一部の群体は岩から浮き上がり、鉱物を束ねた繊維構造を発達させた。
それは筋肉のように収縮し、岩を叩き、リズムを刻むことを可能にした。
こうして「立体の体」を持つものが現れた。
岩を離れ、移動する繊維生命。彼らは「跳ねる芽」と呼ばれた。
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