ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。

舞見ぽこ

Chapter 1:Re:START

Track.0

 ——東京ドーム。満員御礼、5万人の観客の熱気が、ひとつに溶け合う。


 ペンライトの光が、静かに揺れる。

 熱気で霞む視界のなか、いくつもの声が重なっていた。


 「アライヴ!」「アライヴ!!」「アライヴ!!!」

 ALIVEコールが、会場を包み込む。


 会場には、俺たちの楽曲をアレンジしたBGMが流れている。

 それは、まるでこれから始まる“物語”を告げる、静かな序章だった。


 そして——開演予定の18時を、ほんの少しだけ過ぎた頃。


 その音が、ぴたりと止まった。


 観客の声も止まった。

 5万人の息づかいすら、今は聴こえない。


 ——張りつめた静寂。


 誰かの心臓の鼓動まで届きそうなほど、深くて、重い静けさだった。


 その次の瞬間——

 スクリーンに、白い文字が浮かび上がる。


「ALIVE 1st LIVE TOUR - Re:birth」

 ——This is where we began.


 静かなSEとともに、5人の姿が次々と映し出される。


 A —— 朝倉あさくらレン

 L —— 立花たちばなレオ

 I —— 一ノ瀬 奏いちのせかなで

 V —— ヴァル桐ヶ谷きりがや

 E —— 江藤 慧えとうけい


 最後、光に照らされた5人の背中が並ぶ。

 スクリーン中央に、白いロゴが浮かび上がる。


 A・L・I・V・E


 「キャアアアアアアアアアアアアア!!!」

 会場が爆発した。


 イントロが鳴り響き、ドームの空間を切り裂くようにレーザーが走る。


 

 幕が、上がる。


 

 その瞬間——

 轟音とともに火柱が噴き上がった。


 ステージ前方のフロアから、左右に向かって連鎖するように炎が走る。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!!


 空気が一気に熱を帯びて、火薬の匂いが鼻をついた。


 鼓膜の奥がビリビリと震える。

 リハで聴いていた音より、何倍も重く、響く音だった。


 (うわ、熱ッ……!)


 そのあまりの衝撃に、本能がほんの一瞬、怯えた。

 足がすくみかける。

 ステージに立ったはずなのに、体が言うことを聞かない——


 だが。


 その一瞬を超えた先に、

 想像を超える光景が、俺を迎えていた。


 ペンライトの海。

 赤、オレンジ、青、紫、緑——

 メンバーカラーの光が、波のように揺れていた。


 それを見た瞬間、

 全身に駆け巡ったのは——恐怖じゃない。

 高揚だった。


 胸の奥が燃え上がる。

 今、確かに俺はこの場所に“生きている”と叫んでいる気がした。


 気づけば、口が動いていた。


 「——東京ドーム!! 最後まで、ついてこいよおおおおお!!」


 会場が、爆発するような歓声で応えた。


 その中で、ステージ上の“あいつ”が、

 一瞬だけ、俺と視線を交わす。


 ——朝倉 レン。


 ステップひとつで、空気が変わった。

 たった一歩、前に出ただけで、

 5万人の視線が、すべてあいつに吸い寄せられていく。


 ステージに立つ朝倉 レンは、

 天才的な美少年だった。


 整いすぎた顔に、華のあるオーラ。

 何もしていないのに、ただそこにいるだけで視線を奪う。


 ファンが「生きる活力」と言うのも、わかる。


 ああ、今日も完璧だ。

 あいつは、生まれながらのアイドル。


 

 ——国民的アイドルグループ《ALIVE》。

 そのデビュー記念の東京ドーム公演は、

 後に“伝説の幕開け”と呼ばれることになる。


 

 そして、そのステージの上にいた俺は——


 一ノ瀬 奏。42歳。

 いや……45歳か? どっちだっけ。


 3年前までは、

 町内会の七夕祭りでマイクを握ってた、

 夢を諦めかけた“元・売れないバンドマン”。


 それが今、

 アイドルグループの一員として、

 東京ドームのセンターに立っているだなんて。




 ——これは、かつて夢を諦めかけた男が、

 もう一度、人生のステージに立つまでの話。

 そう。国民的アイドル《ALIVE》になるまでの物語だ——。

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