第24話「この教室は使われてないはずです」③
コンコン。
「はーい、どうぞ」
「失礼します~」
蒼太と美月は、文芸部の部室を訪れていた。
「あれ、探偵部の方ですよね?どうしたんですか?」
ドアを開けると、知った顔が愛想良く微笑んだ。
「君が部長だったんだね、伊勢山くん」
二人が会いに来たのは、生徒会長選に出馬していた
「はい、先輩が引退してからは俺が部長になりました。大したことはしてませんけどね」
伊勢山が頭を軽く掻きながら、遠慮がちに告げる。
「実は、ある教室が勝手に使われてる可能性があってね。職員室によく鍵を借りに来る生徒に話を聞いてるんだ」
蒼太が話を切り出しても、伊勢山は表情を変えることなく、笑顔を浮かべたままであった。
――伊勢山は犯人ではないのかもしれない。
予想していた動揺が全く見られず、蒼太と美月がそう考えた瞬間だった。
「もしかして……バレちゃいましたかね」
伊勢山は笑顔を浮かべたまま、なんてことはないようにあっさりと言った。
想定外の発言に、蒼太と美月の顔が固まる。
彼が笑顔を浮かべる理由が、蒼太には分からなかった。
「……第二教室を使ってたのは、君だったのかい?」
蒼太は小さく息を吐くと、伊勢山の表情をじっと見つめた。
「はい……すみません。実は、勉強会を開く場所に使ってたんです」
伊勢山からふと笑顔が消え、反省するように眉を寄せた。
「友達と後輩たちに勉強を教えてほしいって頼まれて……大っぴらにやるのは恥ずかしかったんで、第二教室を使ってたんです」
「勉強会なら先生に相談すれば貸してくれると思うのですが……」
美月の問いかけに、伊勢山はばつの悪そうな表情を浮かべた。
「その……こっそり集まる方が、秘密基地みたいで楽しいなと思って」
優等生のイメージが強かった伊勢山からは意外な発言であった。
しかし、高校生であればそんな遊び心が出るのも自然なことなのかもしれない。
そう考えながらも、蒼太はどこか違和感を感じていた。
「……そっか。事情を説明すれば、持田先生も怒らないと思うよ」
「はい、ご迷惑をおかけしてすみません……でも、二人とも本当にすごいですね。まさかこんなにすぐバレるなんて驚きました」
「いやぁ、それほどでもあるかな〜」
蒼太が冗談めかしく言うと、伊勢山から笑みがこぼれた。
「……実は、選挙のときの推理を見てから探偵部のファンなんです。
今回も二人なら……と思ってたら本当に突き止めてくれて」
まるでヒーローに憧れる子どものようにキラキラと瞳を輝かせた。
「って、すみません……反省しないとですよね」
「勝手に使うのは良くないけど、そう言ってくれるのは嬉しいね~」
同意を求めるような蒼太の視線に、美月も微笑んだ。
「はいっ。でも、合鍵を作るのは……やりすぎかもですね」
美月が控えめに告げると、伊勢山の表情が一瞬だけ崩れたように見えた。
そして、すぐに穏やかな表情を浮かべながら「本当にすみませんでした」と再び謝罪の言葉を述べた。
「もう解決したのか!?お前らすごいな……」
持田に真相を報告すると、目を見開きながら感心したように声を漏らした。
「いや~、伊勢山くんがあっさり認めてくれただけなんですよね」
どこか腑に落ちないような表情で蒼太がつぶやく。
「何か気になるんですか?」
「う~ん、合鍵を作るまでやる必要あったかなって思ってさ」
蒼太は、節々に感じた伊勢山の言動と行動に、説明できない違和感があった。
「そうですね……そこは度を超えてますよね」
美月が眉をひそめると、ふと自分の言葉に既視感をおぼえていた。
同じように感じことが前にもあったような――
「正直、そこは大問題だからな……さすがに報告はする。
けどま~、男はいくつになってもいたずら心があるもんだろ。普段優等生な分、反動があったんじゃないか?」
「そうですね~……」
この違和感は気のせいで片付けて良いのものなのか。
蒼太はどこか釈然としていなかった。
「いや~お前らに頼んで良かったわ。またなんかあったときはよろしくな」
「その時は、またプリンお願いしますね~」
にこりと微笑む蒼太の横で、美月が鋭い視線を持田に向けた。
「依頼があるとき以外も、たまには顧問の仕事をしに来てくださいね」
「え~……俺が来てやれることあるか?」
「ないですけど」
「……」
眉尻を下げた持田が、無言で蒼太に視線を向けた。
苦笑いを浮かべながら、蒼太がそっと耳打ちする。
「なんだかんだで、先生が来てくれたら嬉しいんですよ。きっと……」
その後、持田がふらりと探偵部に顔を出す日が、ほんの少しだけ増えることになる。
**「この教室は使われてないはずです」 完**
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます