第16話「脅迫状が届きました」⑥
雅人は、鼻歌まじりに両手の人差し指と親指を合わせて輪をつくり、蒼太を覗き込んだ。
「記事のタイトルは何がええと思う~?『親衛隊激高!氷の暴君に、愛しの幼馴染!?』とかどや?あ、桐山くんの名前も載せたるで~“情報提供者:桐山蒼太”ってな」
雅人の細い目が、嘲るように三日月を描く。
「同じ新聞部の仲間をネタにするんですか……?」
それまで静かに聞いていた美月だったが、雅人の挑発に耐え切れず、思わず鋭い視線を向けた。
「事実を提供するのが僕らの仕事や。それは涼乃ちゃんもようわかっとるやろ」
雅人は顔色一つ変えることなく、淡々と答えた。
「今回の選挙、佐倉さんは正々堂々の戦いにこだわってるんだ……氷山くんが不利になるような記事を出せば、彼女は辞退してしまうかもしれない」
蒼太は訴えかけるように、まっすぐ雅人を見つめた。
しかし、雅人の表情は微動だにしなかった。
「そうなったら、せっかく今一番盛り上がってるネタが興ざめになってしまうんじゃないか?それは、君にとっても都合が悪いんだろ」
「甘いで、桐山くん。この記事こそ、スパイスになるんや」
「スパイス?」
蒼太が怪訝な表情で、雅人の方を見た。
「せや。現状、氷山くんが強すぎんねん。佐倉ちゃんも伊勢山くんも優秀やけど、あくまで普通の優等生や。氷山くんのカリスマ性には勝てへん」
雅人が、指先で軽く机を叩く。
その音が止まると、彼の口角がをゆっくりと吊り上がった。
「そこでこの記事や。氷山くんの信者と幼馴染が暴走―― 行き過ぎたカリスマ性は、綻びになる」
出る杭は打たれる。
この学校という小さな世界では、良くも悪くも彼は目立ちすぎてしまうのだ。
「それに加えて、今回の脅迫状や。自分たちの支援者を狙った脅しに、佐倉ちゃんと伊勢山くんは辞退を考える。せやけど――」
雅人は机に両手を置き、興奮気味に身を乗り出した。
「そんな二人に彼らの支援者が言うんや。 『私たちのために辞退するなんて……お願いです!私たちに構わず挑戦してください~!』」
雅人は、にやけ顔でわざとらしく演じてみせた。
川瀬と有栖川が事実を知れば、彼の言う通りになるかもしれない。
美月はぎゅっと唇を嚙み締めた。
「支援者の必死な願いを無下にするわけにもいかず、彼らの思いを受け取って、二人は選挙への挑戦を決意をする―― 感動ものやね~」
雅人は、腕組みをしながら浸るように一人頷く。
「ここまでのお膳立てがあれば、誰が勝っても不思議やないやろ?選挙は大盛り上がりってわけや!」
雅人は、天を仰ぎながら両手を大きく広げた。
まるで、舞台で喝采を浴びるかのように――
そして、勝ち誇ったような視線をゆっくりとこちらに向けた。
「……なるほどね。そこまで考えてたとは、恐れ入ったよ」
蒼太は微笑みながらも、その言葉にはどこか皮肉が込められていた。
「ご清聴おおきに~。これも桐山くんのおかげや」
雅人は、軽く胸に手を当てて頭を下げた。
「それじゃあ……次は僕の番だね」
蒼太がにこりと笑うと、雅人の眉がピクリと動いた。
「君は、今回の脅迫状が『支援者を狙った脅し』って言ったよね?どうしてそう思ったんだい?」
「……せやから、志穂ちゃんから聞いたゆうたやん」
声の端に、かすかな苛立ちがにじむ。
「僕らは南さんに『脅迫状が届いた』としか言ってないんだ」
その言葉で、雅人の体がぴたりと動かなくなった。
「候補者の二人を狙ったものと思うのが普通だよね?でも君は、支援者だと言った」
一瞬、耳を刺すような静けさが部屋全体に広がった。
張りつめた空気に、美月は思わず息を呑む。
「その理由を聞かせてくれないか?」
微笑みを浮かべる蒼太の視線は、雅人をまっすぐ捉えていた。
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