第4話 チュートリアル終了


 ――翌日。

 さて、今日はどういった感じでプレイするか朝から考えていた。


「そうだな……まずはちゃんとした接点が欲しいな。昨日のはアウトだし、」


 朝のHRが始まるまで、まだ時間がある。

 その時間を利用して上原の席に行く。

 しかし席にはいない。

 どうやら違う場所にいるようだ。


「カバンがある……学校にはいるのか」


 昨日の不祥事とも呼べるイベントが起きても先生から呼び出しがないのは、ここがゲームの世界だからである。

 そもそもチュートリアル一人目攻略が終わるまではそう言った重たい負のイベントは起きにくいだけと言った方が正しいのかもしれない。

 とにかくシステムに救われた男は上原を探しを始めた。


「まずは昨日のことを謝るところから始めたいけど、口聞いてくれないとかだったらヤバいよな……」


 既に紅の認識とゲームの仕様に溝ができつつある。しかし本人がそれに気づく気配は今のところない。


 頭の中でなにか全てを解決してくれるような素晴らしいアイデアはないかと考えるがそんな素敵なアイデアは中々思い浮かばない。


「それにしても上原さんどこにいるんだ……」


 廊下に居た生徒が『あいつ昨日の変態だぞ?』『やばっ……』『もし私が被害者だったら怖くて絶対学校これない』紅に向けて疑心暗鬼の視線とひそひそ声が始まる。しかし考え事をしている紅はそれに気づかない。


 そして探し人である上原が近くにいることも。

 だけど。


「……私になにか用ですか?」


 ぶつぶつ声に反応した上原が紅に声をかけた。


「……うわぁああああ! びっくりした」


 想定外の出来事に大きく飛び上がってしまう紅。


「ぷっ」


 それを見た上原が鼻で笑う。


「う、上原さんですか?」


「そうですけど、なにか用ですか?」


「昨日は本当にすみませんでした」


 紅は土下座で謝った。

 色々と考えてみたが、結局素直に謝るしか思いつかなかったわけだ。


「……もしかして、昨日のこと言ってます?」


 頭の上から聞こえてくる声に「はい」と答える。


「……昨日のはわざとじゃない? そう思っていいんですか?」


「はい」


「……はぁ。わかりました。とりあえず皆見てますのでまずは顔を上げてください」


 紅が顔を上げると、上原はとても困った態度を見せた。手を頭に当てている様子に思わず息を呑み込む紅。


 ……。


 …………。


 二人の沈黙に周りの空気が重たくなる。

 

 ……。


 …………はぁ。


 沈黙を破ったのは上原のため息だった。

 両膝を折って、スカートの裾を抱えて正座をする紅に視線の高さを合わせる。


「なんで私が傷付くことをしたんですか?」


「実は……」


 紅は上原とお話がしたくて追いかけたこと。

 それから転んだ際に偶然スカートを掴んだことを一生懸命伝えた。


「本当に?」


「はい」


「嘘付いてない?」


「はい」


「ならもういい。素直に謝ってくれたから許します。それに私も短パン履いてたしそこまで大きなダメージなかったから」


「……そう言ってもらえると助かります」


「君、名前は?」


「紅です」


「わかった。私は上原奈緒。それで紅君」


「はい?」


「とりあえず立とうか? あまりその態勢で居られると私が虐めてるみたいに見えるから」


 そう言って上原の視線が周囲に飛ぶ。

 それに続くようにして紅が視線を動かすと、自分たちが大勢の生徒から見られていることにようやく気付いた。


『プレイヤーレベルがLv.4に上がりました』

『上原の優しさ』

『周りの目を味方にした』


 テロップが視界の隅に出てきた。

 どうやら窮地に一生を得たようだ。


「私あなたみたいに悪いことをしたとき、素直に一生懸命謝る人好きよ。男だから女には頭を下げれないみたいな変なプライド持っていない人。てか早く立って」


「……あっ、そうでした。すみません」


 紅が申し訳なさそうに頭を下げて立ちあがる。

 本当に申し訳ないと反省している。

 だから謝罪の言葉しか出てこない。

 そんな紅に上原は。


「これじゃ私が悪者みたいじゃん」


 不満の声を紅に向ける。


「もういいから。ほら来て」


 上原が紅の手を掴む。


「皆さんごめんなさい。気にしないでください。ただの痴話喧嘩ですので」


 そう言って、この場から離れる。

 その時に紅の手を握る上原。

 どうやら付いてこい、と言う意味らしい。


『好きと嫌いの変換を体験する』


 手を引っ張っられながら、紅は詳細を確認する。

 その言葉は色々と気になるからだ。

 説明によると嫌われていた相手から何かのきっかけで好意を持ってもらえること。と説明が書いてあった。


 2人は中庭までやって来た。


「もぉ! 朝からばたばたさせないでよ!」


 紅から手を離した上原は少し怒っている。

 だけど。


「でも昨日の件が解決したし、まぁ良しってことでいいよ」


 まだ何かを言いたそうにしている。

 現実世界でもゲームの世界でも――素直になる、言いたいことを伝える、誤解があるなら相手が納得出来るように伝える、そこで意外な一面が見えて相手の心に刺さることだってある。

 無自覚ながら紅はそれを実行した結果がコレである。

 どうやら逆転の勝ち筋が見えてきた。


「てかどうしよう?」


「なにが?」


「ほらさっき……私慌てて痴話喧嘩って言っちゃったじゃん。周りに何て説明しようか?」


「なら俺とお付き合いしませんか? それで本当のことにしちゃいましょう!」


 嘘を本当にすることで解決する。を選んだ紅は勝負を仕掛けた。

 生まれて童貞を守り続けた男が正々堂々と告白するにはまだ難易度が超高い!

 ならばここしかない! とその場の勢いで想いを伝えることにしてみた。

 それにこれなら断られてもまだ戦える保険付きで普通の告白よりは難易度が低い。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 心臓の鼓動が早くなる。

 手汗が凄い。

 急に熱くなってきた。

 喉も渇く。

 これが告白の緊張感なのだと人生初体験中の紅は真っ直ぐに上原を見つめる。

 紅の瞳の中で上原は手をもじもじさせている。

 そしてチラチラと自分の足元と紅の顔を交互に見ている。


「さ、流石にき、急すぎない?」


 上原の顔には戸惑いの色が見える。


「私たちお互いのことまだほとんど知らないよね? 私のどこが好きなの?」


 その言葉に紅は迷わず即答する。


「一目惚れしました!」


 嘘ではない。

 事実紅の恋愛守備ゾーンにストライクなのだ。

 だからこそ紅は自信を持って、即答できた。


「なら……その言葉が本当で私を好きって証拠は?」


「…………えっ」


 思わぬ展開に驚く紅。


「知り合って間もないじゃん私たち? だからちょっと信用できない。嘘だったら恐い。でもね……この際だから告白しちゃうと私も紅君のこと好みだから……信じたい気持ちもあるんだよ?」


 その言葉に紅の脳が違和感を覚える。

 そして思考回路をフルで使い、情報を精査していく。


「信用……嘘……告白……好み……好きと嫌いの逆転現象……」


 出てきた答えは――”漢”!


 紅が一歩前に踏み出す。

 その瞬間、二人の時間だけが止まった。 

 中庭の木々が校舎から二人の姿を隠し、小さな花が風に揺られ踊り始める。

 その光景は二人の祝福を祝っているようだ。

 木々も歓声をあげ始める。

 自然から祝福される中、漏れ出す熱い吐息をお互いに感じる。

 まるで霧が晴れたようにもう確信できる。


 それは紅だけではない。

 上原も同じだった。


 朝日が木々の葉の隙間から2人を照らす。


「……もぉ、毎度大胆過ぎだって。これからは奈緒って呼んで? いい?」


「わかった」


 紅が頷くと、朝のHR開始のチャイムが鳴る。

 どうやらギリギリセーフでミッションコンプリートのようだ。


『congratulation!!」

『初ミッション(チュートリアル)クリア!』

『初めての彼女』

『初心者の駆け引き』

『奈緒の愛情』

『称号:駆け出しの初心者』

『プレイヤーレベルがLv.7に上がりました』


 その言葉を見た紅は自然と笑みが溢れた。

 そしてこれから奈緒との恋愛学生生活が始まると意気込むのであった。


 しかし。

 偶然にも通りかかった生徒が先ほどの一部始終を見ていたとは知らずに……。



 ――その後。朝のHR中のある生徒たちの会話。

 一人の男子生徒が隣の席の女子生徒に声をかける。


「本当にモテる男ってお前から見たらどんな奴?」


 小学生から偶然同じ学校の友達に聞かれた女は小声で答える。


「やっぱり一緒にいて面白い人だったり、安心できる人。あとは……尊敬できる人とか?」


「アイツ面白そうだぜ」


「だれのこと?」


「あそこで窓の外を眺めてるやつ」


 男は周りにバレないようにさり気なく紅に指を向けた。


「お前好きな人欲しいってずっと言ってただろ?」


「うん」


「もしかしたらお前の十五年の悩み解決するかもな」


「へぇ~、それは楽しみかも」


 女は「紅」と彼の名前を小さく呟いた。


「本当の恋愛はここからよ♡」


ーーーーーーーーーーーー

後書き


明日は、7時、12時、20時に更新します。

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