【四】父上って弱いわ

【四】

 親子の関係に亀裂が走る理由は人によって多種多様だ。

 そして、ジェーンの場合は、決定的になったのは、ある意味で最も致命的なものだった。

 彼女の父は国でも有数の猛将として知られていた。

 この国の貴族階級は魔法技術を独占していて、彼も高位の魔術師だったが、同時に剣士だった。

 少なくとも、応急剣術で娘に敗けることは絶対にありえない。

「来なさい」

 これは、親が理解できないことで娘が力と名声を伸ばしていた時のことだった。

 訓練と称し、模擬剣で娘を押さえつけようとしていた。

 まともな神経ならただちに止める光景だが、この訓練場にまともな人間はいなかった。

 ジェーンは体力をつける必要性を感じていたので、親からの誘いはむしろありがたいとさえ感じていた。

「はい!」

 迷いなく切っ先を突き出す。

 上体だけの動きで躱す。

 当たり前のことだ。

 そして父は娘の首元に寸止めした。

 軍国で稲作という事業で成功を収め始めた彼女は、父には理解不能であり、なおかつ自分の立場を脅かす獅子身中の虫そのものだった。

 ここで終わるなら、まだよかった。

「もう一度お願いします!」

 ジェーンはやればやるほど学習し、適応するタイプだった。

 五合、十合打ち合っても、父の偉大さは示された。

 けれど、徐々に打ち合う時間が長引いた。

 少しずつ、岩石を削って一個の像を造り出すように、ジェーンの動きは洗練と適応がされていった。

 エルロンド家の大黒柱が剣を弾かれた。

 返す刀でジェーンは首元に剣を押し当てた。

 最後の最後、父が膂力で押し切れば負けはなかった。

 しかし、それを躊躇い、娘に負けた。

「……お前は今、父を殺した」

 そう吐き捨て、父は二度と娘の顔を見ようとしなかった。

 一度の敗北でその場から逃げる父の背中に、娘はため息と失望の眼差しを送った。

「父上って弱いわ」

 それ以降、彼女は一切のエクササイズから遠ざかった。

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