第22話 説教
とっぷりと日の暮れた夜の森。その崖の際に3つの影が火を囲んでいた。
辺りから聞こえてくるのは焚き火が爆ぜる音と、川のせせらぎのみ。森の中には巨大な芋虫を始め、色々な生物が生息しているにもかかわらず、気持ちが悪いほどに生命に由来する音が聞こえてこない。
焚き火の周りには、食べ終えた川魚の骨が散らばる食後のまったりした空気の中、サトミの楽し気な鼻歌が響く。『つよにく』も良く知る、アニメポケットクリーチャーの初代オープニング曲だ。
「色々あったってのにご機嫌だね。そっちの『のじゃドラ』も、サトミちゃんくらい可愛げがあればいいのに」
『シャーッ! フシャーッ!!』
『何言ってんだよ『つよにく』ー。メギちゃんはこういうところが可愛いんじゃん』
「すっかり愛称までつけちゃって……」
焚き火の中に枝を投げ込みながら『つよにく』はため息を吐いた。
サトミを盾に威嚇を続ける竜に若干の苛立ちを覚えながら、食後の片づけを続ける。
(まぁ、サトミちゃんには言えないけど、『のじゃドラ』には『のじゃドラ』の価値があるからな)
幼少期から毎年、両親にキャンプに連れて行ってもらっていた『つよにく』。しかもオートキャンプではない、人の喧騒から離れ自然の中に深く入り込んで行うガチのヤツだ。だからこそ、父親から注意しなければならないことも叩き込まれている。
今、皆で囲んでいる焚き火も、サトミが枝を使って火を起こしたがったのを止めて、竜につけさせた。それが『つよにく』の思うところの竜の価値なのだけど、ライター代わりに使える……というわけではない。
(こっちの世界の植物、当たり前だけど見たことがないモノばかりで、リスキーなんだよなあ……
『つよにく』が自分がやらずに『のじゃドラ』にやらせるのは、もちろん自分が危険だからではなく、むしろその逆だ。
設定上強くし過ぎた『
明日中に、1番近くの人の住む町に辿り着く気ではいる。だが、今後野宿をするときになれば、その時はサトミの願いを叶えてあげたいからこそ、今は竜をライター兼カナリア代わりに使っているのだ。
決して押し付けているわけではなく、むしろ主のために体を張るという名誉を奪われているという嫉妬心が、ふつふつと体の中に沸き起こるのを『つよにく』は感じていた。
「……だけど、そうだな。ちゃんと話しておかなきゃダメだよなぁ。ちょっといいかいサトミちゃん」
「んー?」
体の向きを変え、サトミと正面から向き合った『つよにく』は、言葉を詰まらせながら話し始める。
「えーと……ね。今日はさ、たまたまうまく行ったからいいけどさ……。もっと自分のことを大事にしないと……普通だったら死んでたよ?」
「むう。でもあの時、ああしなかったらメギちゃんやられちゃってたし」
「……最悪そうなっても良かった。まずは自分の安全、それから他の子だろ? こう言うのもどうかと思うけど……この世界をゲームみたいな仮想の世界と思ってるか……それとも、日本で1回死んだから自分の命を軽く考えてるか、違うかい?」
「……軽くなんて考えてないもん。前と一緒で一生懸命生きてるもん」
「一生懸命生きてるって……日本じゃ両親に甘えながら、ポケクリやってただけじゃないの?」
「………………一生懸命………………生きたもん」
『何を話し合っておるのか分からぬが、イジメられておるのか? よしよし、大丈夫じゃ。今度はワシが守ってあげるからの』
『~~~~~~~……メギちゃん~~~』
今にも泣きだしそうに目尻に涙を溜めて、不満気な顔をしながら、竜をかばう様に抱きしめるサトミの姿に、『つよにく』は胸にちくりと刺すような痛みを覚えた。そんなサトミを愛おしそうに抱き返して、一緒になって睨みつける竜に、『つよにく』は思わず舌打ちしそうになるのを必死に耐える。
(こっちはサトミちゃんのためを思ってこそ、嫌われるのを覚悟で注意してるのこの『のじゃドラ』は……! っと……いかんいかん)
ひとり悪者になってる状況に、いささかの理不尽さを感じながら、『つよにく』はコホンと息を整えた。
「とにかく、今後は命を粗末にしないこと。正直、サトミちゃんはオレはもちろん、『のじゃドラ』と比べてもずっと弱いんだから、前に出ないで後ろにいること。いいかい?」
「むー……でも、なんか調子いいんだよ? そりゃ『つよにく』と初めて会った時は、動きに慣れてなかったかもしれないけど、今はなんか体が軽いし、力が漲ってる気がするし」
「慣れたら体が軽くなるとか……って、待てよ?
思えば自分もステータスを自認してからは、恐る恐るだったことと、もうひとつ思い当たる節があったことで『つよにく』はスキルを使う。
そして表示されたステータスには、予想通りの変化が起きていた。
===================================
名 前:
年 齢:14
ジョブ:
生命力:28095 攻撃力:11015 防御力:10533 速 度:2165
魔力量:10791 魔攻力:10228 魔防力:12745 技 巧:2960
所有Aスキル:
所有Pスキル:慈愛神の恩寵(使用済)、状態異常耐性・強(毒、マヒ、熱病)
===================================
(そうか、友情契約。このスキルで従魔化した相手とは、互いのステータスの1割を加算するとかあったし、『のじゃドラ』と契約した結果か。
もはや超人の域に入ってるとなると、少々面倒くさいことになった。ここにいる中じゃダントツに弱いのは間違いないが、これから出会うであろう、行く先々の人間と比べたら、多分圧倒的。それでも先ほどの芋虫のように、魔物は人間で勝てるような存在でないのも確かなのだ。
このまま姫プレイを強要するには、あまりにもなステータスに、『つよにく』は言葉に詰まってしまった。
(これだけのステータスでも、まだジョブレベルは1のままなのか。ここら辺を鍛えて行けば……って、え?)
ステータスとにらめっこしながら、今後の動きを考えていた『つよにく』の目に、ここまで気にしていなかった項目が飛び込んできた。
14歳。弟と同じくらいの年齢だと勝手に思っていた目の前の少女は、中学2年生もしくは中学3年生ということになる。
「――虐た……ゴホンゴホン」
口に出していしまうと、サトミを傷つけることになるかもしれない言葉を『つよにく』は慌てて飲み込んだ。中学生にしてはあまりにも低い身長と、細すぎる腕や足。その事実にイヤな現実を突きつけられた思いだ。
(虐待――か。そうなるとさっきの……一生懸命生きてきたって言葉も……慈愛神が肩入れするのも……)
自分を睨みつける視線に、居心地の悪くなった『つよにく』は呼吸を整えると、努めて優しい声でサトミに呼びかけた。
「とにかく、あまりにも無防備な行動を取るのは、心配でこっちの身が持たないってことを覚えておいて。きっと『のじゃドラ』も同じ気持ちだから。ごめんね、嫌なこと言っちゃったけど、それだけは心に止めておいて欲しい」
『メギちゃんも……私が心配?』
『……もちろんじゃ。サトミは危機感が無さ過ぎるのじゃ』
『……オデ……$%&’()……敵……#$#$』
(何でオレを見ながら言うのかね。敵認定は止めてくれ)
『シャーッ! フシャーッ!!』
『……あはは、やっぱり下手くそー』
『つよにく』の言葉が確かに心配から来てることと、ふたりのやり取りを見たことで、サトミはぎこちない声で笑った。
わだかまりを残しつつも、夜が更けたことで、3人は眠りに就こうと横になる。
サトミを中心とした川の字。疲れていたのか少女ふたりが寝息を立て始めたが、『つよにく』は、星空を眺めていた。
目に入るのは、しばらく眺めていなかったとはいえ、子供のころの記憶と重ねると一致するところが多い星々。
(世界は違うにしても、地球であることは変わらないってことか。星の位置を見る限り、北半球。それも日本と比べても緯度が高い場所だな)
学童ボランティアをしている時にも、現代であればすぐに児相に連絡するような子供の相手をしたことはある。
サトミとうまく接していくにはどうすればよいか色々考えていると、知らぬ間に『つよにく』も眠りに落ちたのだった。
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