林檎のパフェーと幸運の黒猫
WA龍海(ワダツミ)
カップル未満のお客様方 その1
古びたステンドグラスから射し込む光が床に模様を落とす。
大正浪漫の香りをそのまま残したこの喫茶店に来るたび、私は少し背筋が伸びる思いにとらわれてしまう。
内心落ち着かない私と違い、隣に座る彼は落ち着いた様子で窓の外を見やりながら、お冷に口をつけていた。
なんだか焦っているのが私だけのような気がして、私の胸はなんだか落ち着かなくなってきた。
「お待たせしました」
そんな折、店員さんが運んできたのは背の高いグラスに盛られた林檎のパフェー。
パフェではなく、パフェーなのだそうだ。違いが分からないけれど、透きとおる赤と琥珀の層はバニラの白に映えてとてもきれいだ。
私はスプーンを手に取って、そっと口に運んだ。
──甘い!
林檎の酸味と、アイスのまろやかさが重なって、思わず目を見開いた。
「おいしい! リンゴって、こんなに甘くなるんだ」
呟いた途端、彼がこちらを見ていた。
その視線に恥ずかしくなって、すぐに目を背けた。
胸の奥が跳ねて、また落ち着かなくなる。行き場のない視線を下に向けていると、
チリン。
と、小さな鈴の音が1つ。
少し驚いて足下に目を向けると、黒い猫が来て、私の足元で小さく丸まった。
この店の「幸運を呼ぶ猫」だと聞いたことがある。
可愛らしい店員さんに癒され、私は思わず笑ってしまった。
「懐かれちゃったみたい」
「みたいだね。よっぽどキミの近くが心地いいのかな」
子どもっぽく微笑む柔らかい表情に胸の奥が熱くなる。同時に、顔が熱くなってきた。
スプーンを持つ手がかすかに震えて、慌ててパフェーを見つめる。
でも、どうしても視線は彼のほうに引き寄せられてしまう。
──ああ、ずるいな。
林檎の甘さよりも、黒猫の仕草よりも。
彼の言葉が、今いちばん私を甘くしていた。
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