雨にうたれる日が来ても

蒼桐大紀

Scene 01 2124年6月

 朝からずっと、いまにも泣き出しそうな空だった。

 けれど、その程度のことで、週に一度の休日をふいにする生徒なんていない。

 それぞれに、あるいは連れ立って、なけなしの月毎支給おこづかいを握り締めて街に繰り出していく。申請さえすれば、この街の外にも出られるので、遠出する生徒は朝から出て行く。というか、六月にもなれば今年度入校組も慣れてくるので、全体的にその傾向が強くなる。

 だってそうだ。

 いまのご時世、幼年兵養成校を抱えているような街には、最低限の商業施設しかない。機能している公共施設も最低限。それに対して、養成校にいる生徒達は、十五歳から十八歳の男子女子だから、たいした娯楽施設もない街で満足できるはずもなかった。

 午前九時を過ぎて、のんびり街に出ていくような生徒は、私くらいなものだと思っていた。

 あのバス停へ行くまでは。


       ◇ ◆ ◇


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