第17話:ようこそ、神に捨てられたゴミくずたちのたまり場へ



 リリス教の隠された地下は採掘場となっていた。



 今まで教会では見かけなかった体に傷がある荒くれ者や見ているこちらが辛くなるようなすさんだ顔をした子どもたちがスコップやつるはしをもって岩石を叩いては掘り進めていた。


「ライラック、アンタ、これ知ってたの?」


「こういった場所があるのは知っていた。ただ、私が前に来た時は知られてはいけない金銀財宝が隠されていただけで、こんな広い場所ではなかった」



 だとしたらリリス教ができてから始めたことなのだろう。しかし、いったいどうして?



「あの時のねーちゃんたちか?」



 そんな疑問がロサの中で浮かんできた時、思わぬ人物が近寄ってきた。



「酒場のおっさん……?」



 よく見ると傷だらけの男の一人は前に酒場でライラックが蹴り飛ばした山賊の男だった。

 あの一件以降、影もみないほど行方をくらましたと思っていたが、そうではなかったらしい。



「なんでここにいるんだ?」


「それはこっちの台詞だ。おまえらここの教会の人間だったのか?」



 男は探るように二人を睨みつける。ひと悶着あった相手ではあるが、今、この男には正直に話した方がいい。何度もピンチを救ってくれたロサの直感がそういってる。



「断じて違う。アタシらはここの教会の秘密を探りに来たんだ。そのためにこの格好をして忍び込んでいる」



 こういった地べた這いずり回って生きてきたやつらは、言葉だけで、はいそうでしたと信じるような相手ではない。だからロサは神父から渡されたリリス教のロザリオを地面に落とし、踏みつけた。



「ほら、これで分かっただろ?」



 ロサが目を細めて笑うと男も納得したように歯を見せて豪快に笑う。



「それじゃあ、よかったな。たぶん、ここがねーちゃんたちが調べていた秘密ってやつだと思うぜ」


「ここが?」


「ああ、この教会が何で生計を立ててるか分かるか?」


「……ここの人たちが支えていたんだな」



 鉄鉱石やその他色々な鉱物が積み重なり、運ばれていくのを眺めながらロサは言う。周辺の農作物と寄付……と神父は言っていたがそうではないのだろう。



「その通り、だが、オレたちは使い捨ての駒だ。仕事に対する報酬もねぇ。与えられるのはかろうじて生きることができる僅かばかりの食べ物だ」



 教会の表側の人間と比べたら扱いの差があまりにも違う。彼らは奴隷ではないが扱いはほとんど奴隷だ。



「奴隷商人に奴隷として登録されているならまだしも、そうでないならこの扱いは不法だ」



 今まで黙っていたライラックが口を開いた。だが、彼女の言葉はため息で流された。



「おじょーちゃん、おまえさんは見たところ、いいとこの子なんだろ? なら、覚えときな。法は底辺のやつらのことなんて考えちゃいねぇ。きっと天使様が都合よくつくったものだ」



 神は博愛ではない。不都合な存在や、どうでもいい存在は無視をする。

 男の言葉はライラックに敵意を向けたものであったが、ロサは遮ることはできなかった。ロサ自身、状況は違えど、底辺側として苦しんだ幼少期を過ごしたことがあるため、正論を止めることはできない。



「それにな、奴隷は金という価値をつけて飼われるペットだが、オレらは価値すらつけてもらえねぇ」



 山賊として人々に迷惑をかけていた男を庇うつもりもない。だが、彼を完全に否定することも違う。

 そして、皮肉を沢山ぼやいた後、男は笑みに自嘲を混ぜて二人を歓迎する。





「ようこそ、神に捨てられたゴミくずたちのたまり場へ」








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