第10話:さっそくバレてんじゃねーか



「おや、新しい迷い子が来ると聞いていたのですが、まさかレイヴン家の方だったとは」



 いや、さっそくバレてんじゃねーかよっ!



 ロサは心の中で、ではあるが、力の限り叫んだ。

 ロサとライラックが教会の正門に着くや否や神父と思わしき男が直々に出迎えてくれた。

 ネズミの手はず通り、リリス教の新たな信徒として侵入することになっていた。


 これまでは予定通り。しかし、だ。

 ライラックがレイヴン家の者だとバレるのは、しかも出会って数秒足らずで計画が狂うのは誤算だった。

 ロサは相手に悟られないようにどうにか動揺を押し殺すが、ライラックは予想外だったようで見事に硬直していた。


「ああ、私、以前は天界神教の神職に就いてまして、お恥ずかしながら、高位の立場にいたのです。その際……あ、ここだけの秘密ですよ。創世神教に関わりの深い家系の外見といった特徴を覚える機会がありまして……」


 ご丁寧に神父はここだけの秘密付きで理由を説明してくれた。

 つまり、想定よりも神父が優秀だったということなのだろう。

 敵に先手を打たれた気がしてロサは悔しかった。

 そんなロサの心情とはお構いなしに神父はにこやかに話を進める。


「……というより、まずは名乗るのが礼儀でしたね。ようこそ、リリス教へ。私はリリス教の神父です。名はとうの昔に捨てましたので、神父と呼んでいただければと」


「挨拶、どうも。アタシはロサです。それで、はい。神父さんが言った通り、彼女はレイヴン家の者です。ライラック・レイヴン」


「ライラック・レイヴン? そのような名は……ああ、貴女が例のご令嬢でしたか」


 神父が一瞬気になる発言をしたが、何か納得したかのように表情を戻す。

 ロサは知っている。こういった頭の切れる得体の知れない奴を騙すのは簡単ではないことを。そういった時、嘘と本当を混ぜた方がいいことを。


「どこまで知ってるか分からないけど、ライラックおじょーさまはレイヴン家を捨てたと同時にレイヴン家から追われてる身です」


「ほぅ、じゃあここに来た本当の理由は……」


「ああ。リリス教ならおじょーさまを匿ってくれると思ったんだ。黙ったまま入ろうとしてすみません」


「事情が事情ですし、仕方ないですよ」


 言いようによってはある意味事実だ。ライラックには悪いが合わせてもらおう。

 ロサは平然とした顔で一部の事実を取り上げ誇張したり、嘘を混ぜる。


「……因みに貴女はどこかのご令嬢ではないのですか?」


「まさか。アタシはただの大道芸人ですよ。縁あってライラックおじょーさまの護衛みたいなことはしてますが」


「……ほう、そうなんですね」


 幸い、神父は疑っている様子はなく信じてくれたようだ。ただ、含みのある笑みが何か企んでいるような気がしてロサは少し引っかかった。


「とはいえ、かしこまりました。私たちリリス教は貴女方を歓迎します。しかし、リリス教の信徒になるということを意味しますが、そこはご理解していますよね?」


「はい、もちろん」


 ライラックが何か言いたげというより、下手したら殴るのではないかと思ったが、その前にロサが間髪入れずに答えた。


 創世神教に戻りたいならリリス教を潰すしか方法はないからな。ロサは視線をライラックに送る。これでライラックも本気になってリリス教を潰すのを手伝ってくれるだろう。


 こうしてロサとライラックはリリス教会に侵入した。



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