第57話 Scene:光「ずっとこうしていられるといいね」
「ひーかーりー、おーはーよー!」
のん気な望に、朝、起こしてもらう。こう言う日は、良い一日になる事が多い。
「あーのーさー、お出かけしよー」
「ん?どこに?」
「衣装屋さんー」
「何の?」
「はーかーまー」
ガバッと起き上がる。
「え?借りられるの?」
卒業式に借りるためにはもっと早くに予約に行かなければならなかったのだけど、私たちは機会を逃してしまい洋服で行くことにしていた。
「望が、衣装さんに交渉したんだよな」
翼がドアに寄っかかって立っている。
「そーそー」
「宣伝素材として、今日の試着は写真撮影が条件になってるけど良いよな?」
「私と望で?」
「そ。でっかいのと、ちっちゃいのを一緒にフレームに納めたいんだとよ」
望を見る。笑顔で、うんうん、と頷いている。
「断る理由なんてなくない?!」
「でしょー、でしょー!」
ベッドの上で二人で跳ねる。
「早く行こー!」
急いで着替えて車に乗る。
「颯は今日もバイトだろ?」
「そうなの。新しい子、どうするんだろう……」
「望がバイトしてあげよっかなー」
固まる。
「なんで?」
「なんでってぇ、次のお仕事いつ来るか分かんないしー、コンビニ家から近いしー」
「悪くないかもな」
「……いいの?何か今後の為になるような事を始めた方がいいんじゃない?」
「うーん」
考えるような事かな?女優がコンビニのバイトで食い繋ぐって、イメージ的にどうなの?
「俺も一緒にやろうかな」
「翼まで!」
「いーねー、金髪くんも辞めるんでしょー?二人でやればちょうどいー!」
「だなっ!」
どこまで本気なのか分からないけど、人生の選択はそれぞれだものね。余計なことは言うまいと肝に銘じる。
「ひーかーりー、ありがとねー」
「何が?」
「望のこと、心配してくれてー。本気のアドバイス、嬉しー」
「そんな……」
「だよな。光は望の為を思って、意見してくれたんだもんな。感謝するよ」
私の考えてたことが見透かされたようで、恥ずかしい。でも余計なことじゃ無かったんだね、感謝してもらえた事が嬉しかった。
「うわぁ!いっぱいあるぅ!」
望が駆け出した。確かに貸衣装屋ほどではないが、色とりどりの着物と袴が並んでいる。
「お二人の身長にサイズを合わせるとなると、色が限られてきちゃうんですけど……」
「いえ。充分です。選んでいいんですか?」
「はい、お好きなものを言ってください」
望は、赤と緑の袴セット、私は、黄色と紺の袴セットを試着した。
小物と髪飾りは、スタッフさんが選んでくれ、写真スタジオに移動する。
「光!可愛いー!」
「望も、すっごく可愛いよ!」
なかなかの枚数を撮ったところで、衣装室に戻る。
次に望は、青と黄色の袴セット、私は、桜色と黒の袴セットを試着した。
行ったり来たり何度も試着と撮影を繰り返し、さすがに疲れて来た頃、ようやく「これで最後にしましょうか」と言ってもらえた。
「えー!まだどれにするか、決められないー!」
おろおろと慌てる望に吹き出してしまった。
「疲れ知らずだね」
「まったくだ」
翼が前に出て、桃色と紫紺の袴セットを指さす。
「これが似合ってた」
さすが、よく見てるなぁ、と感心してしまう。
こいつは、望オタク確定だな。
「わーい!決まったー!光はー?」
「私は……私のも選んでよ?」
翼に振ってみる。嫌な顔をされるかな、と思ったけど、意外にもあっさりと「これとこれだな」と言ってくれた。
「望も、光はそれがいーと思ってたー!」
「なんだと?自分のは決められないくせに光のは決められるのかよ?」
「そーだよー!」
じゃれてる二人を横目に、橙色と黒い袴セットを手に取る。
「ありがとう。これに決めた」
小物やら、髪飾りやらも一式借りることができて、丁寧にお礼を言いスタジオを出た。
「よかったねー!楽しかったねー!」
「本当、親切なスタッフさんたちでよかったね」
「カタログに載せるらしいぞ、お前らの写真」
「そーなのー?わーい!」
「さっきあそこにいた人に聞いた。和装の着付けが出来る衣装屋って事でテレビ局に売り込むんだとさ」
「すごーい!商売繁盛ー商売繁盛ー」
呪文のように唱える望。笑顔の翼。ここには居ないけど、断り切れないバイトを頑張りつつ、春からの私との生活を考えてくれている颯。
誰一人として欠けてはならない、大切な人たち。
「ずっとこうしていられるといいね」
無理を承知で口にしてみる。
「それは無理だよー」
望に言われる。
「私たちはー、進化をし続けるんだもんねー?同じだけど、同じじゃないんだよねー?」
「おう。だな」
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