第46話 Scene:颯「年上の浮気相手は?」
光を家に送り届けてコンビニに向かう。今日のバイトは金髪と二人だ。
「お、モテモテ君の登場だねぇ」
いじられても気にしない。お前に構ってやれる程、今の俺には心の余裕がない。
「望ちゃん元気してる?」
「ああ」
「お前のセクシー彼女は」
「元気だ」
「年上の浮気相手は?」
いい加減イラっとする。無視だ、放っておけこんな馬鹿。
「あ、ほら、噂をすれば……来たぜ」
「いらっしゃいませ」
反射的に飛び出した挨拶の先に林下先輩がいる。一体、何をしに来たんだろう。この人のことまじで分かんない、苦手だ。
「先ほどはどうも」
「はあ」
先輩がペットボトルのお茶と袋入りのチョコレートをレジに持って来た。金髪がレジに入らずこっちを見ている。仕方なく、俺がレジに向かう。
「あなたたち、なんなの?」
「なんなの……って」
「気持ち悪くない?」
「はあ」
レジ袋いるか聞くのを忘れてしまった。商品をそのまま前にズッと差し出す。
「4人でいちゃいちゃして、なんかおかしいと思わないの?」
「放っといていただけませんか?プライベートなことなので」
「社会人になるのに、そんな変な関係続けてると問題になるかもよ?」
「人事に相談します」
「はい?何て言ったの?」
「先輩がこうして、俺をストーキングしてるって、人事に報告しますよ」
俺の受けたダメージ、望が一緒にチョコを返しに行ってくれた頑張り、翼の気遣い、何より不用意に傷つけてしまった光への謝罪、いろんな事に報いる必要がある。
「もう、二度と俺に話しかけないでもらえますか?」
会社の先輩だろうが関係ない。先輩の会社ではないんだからな。
「そ、んなっ」
「これは最後のお願いです。次はありませんから。もう俺に関わんなよっ!」
つい、声が大きくなってしまった。他に客が居なくて良かった。
先輩は無言で買ったものをバッグに放り込み、行ってしまった。
「モテモテ君は、振るのも上手いのなぁ」
なに言ってんだよ。こんなの初めてで、足がガクガクするよ。
さっぱり客が来ないけど、「帰ってもいいよ」と言ってくれる社員もいないので、金髪と二人ダラダラと過ごす。ウィーン、やっと、自動ドアの音がした。
「いらっしゃいま……」
「はーやーてー!」
「おいっ、望はここ来んなって言われてんだろ」
「俺が一緒だ」
「デート帰りか?」
「そゆこと」
金髪は奥に引っ込んだのか、姿すら見えない。
「あの後、光とどうだった?」
「心配させて悪いな。いろいろと話せたよ、研修楽しんでそうだな」
「ああ、採用決まるといいんだけどな」
望がチョコレートを見ている。
「あのチョコ食ったか?」
「あのチョコー?」
「俺らがお姫様達にたかられた、7千円もする高級チョコだよ」
「ああ……あれねぇ……望は……」
「あら?泣きそうな顔して、どうした?」
望の前でしゃがんで、顔を覗き込む。俺、傷つけること言ったか?
「覚えてないの……チョコも……ケーキも……なーんも……」
「あ、ひでぇ」
なんだよ。苦労したのに。覚えてないって。
「あっちは食ってないよ」
「へぇっ?!」
目に涙をいっぱいに溜めたキラキラ瞳で、望が翼を見上げた。
「ケーキは食ったけど、高級チョコはまだ俺の部屋にある」
「ほ、ほんとー?」
「ほんと、ほんと」
「光はー?」
「あいつもまだ食ってないんじゃないか?てか、あいつ永遠に食えないんじゃないのかぁ?大事にしまい込んでそうだけど」
へぇ、翼にとって光はそんな印象なのか。俺にはそんな光がさっぱり想像できないから新鮮だ。
「じゃ、これ買ってー」
望が棒のついた小さいチョコを俺に差し出す。
「なんで俺が買うんだよ。俺は店員なの。客が買え」
「光にー、取っとく用はこっちにしなって言うー。あっちの高級チョコは一緒に食べるぅ」
「あ、それいいね」
望に携帯渡して、レジの向こうから決済してもらう。
「はい、じゃ、頼むな」
「おうー!」
光はどんな気持ちで包みを開けるのだろうか。どんな顔してチョコレートを食べるのだろうか。この棒のついたチョコレートをどう思うのだろうか。これまで同じ場所にいる事を許されていたのが奇跡だったかのように思えてくる。
「まーたーねー」
チョコを握りしめて望が走って店を出て行った。
「動画撮れたら送るよ」
翼がそう言い残して望を追った。
さすが、俺の親友だ!
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