第40話 Scene:望「あのさ、俺たち……」

「バイトどうだったー?田中さん、きびしー?」

「田中さんは優しいけど、厳しい……」

「お疲れー、ひーかーりー」


 体はヘトヘトっぽいけど、顔はルンルンしてるね。光は元気だね。


「どーして、颯んとこ行かなかったのー?」

「ごめんね、今日もこっち来ちゃって。何となく、顔合わせたくなくって」


 なんて言ったらいーのかな。翼を目で探す。


「大丈夫だよ、颯、もう二人で会わないって約束したからー」

「えっ、言っちゃったの?!」

「あ……うん、ごめんねぇ」

「いや、そうだよね。いいの、ありがとう。それで、もう会わないって言ったの?」

「仕事で会っちゃうけど、二人にはならないってー。指切りしたー」

「そっか」


 光のそのポーカーフェイス、苦手だよ。望には光がなに考えてるか分かんないんだよ。翼、助けに来てくれないかなぁ。


「望、おしゃべりでごめんねー」

「いいの、いいの、ほんと、気遣わせちゃって、逆にごめんね?」

「あの女ね、由香先輩って言うのー」

「望、知ってるの?」

「うん……」


 翼、早く来ないかな。これ、言っていいか、望、分かんない。


「前から知ってるの?」

「うん……」

「何で知ってるの?」

「えっと……颯のこと狙ってたからぁ」


 言っちゃった。


「そうなの?」

「でもね、颯はそれ気が付いてなくて、ほら、鈍感だからー」

「颯は由香先輩の気持ち知らずに会ってるの?」

「昨日、知ったんだってー」


 これ、言っていいの?


「そっか」


 ああ、光の元気が無くなっちゃった。私のおしゃべりのせい……


「私、今日、やっぱりあっち行くね」

「うん……翼に送って……」

「一人で大丈夫」

「じゃ、颯に迎えに来てもらおーよ?」

「来てくれるかな?」

「来るに決まってるよー」


『バイト帰りに迎えに来て』って颯にメッセージを送った。


「アイス食べて待とーよ」

「うん」


 どうしよう。翼どこ行っちゃったのかな。光にしゃべっちゃったの良くなかったかな……


「ただいま」

「つーばーさー!あ?颯も一緒?」

「ああ、バイト終わり拉致って来た」


 二人が玄関に立っている。


「光、一緒に帰ろう?」

「颯、あのね……」

「信じてくれるんだろ?」


 颯が右手を見せてきた。消えかけてるけどキスマークが書いてあった。


「あー!それ、かわいーね?」


 翼にくっつく。手を握る。二人は大丈夫だよね。誤解なんだもんね。


「颯、あのね……ごめんね」

「なんのごめん?」

「信じてるけど、すごく嫌なの」


 あー!望が余計なこと言っちゃったから……!光が悲しんでる……!


「あのね、あのね、二人はとってもお互いが好き過ぎて、だから、誰かに取られちゃうかもって考えるだけで変になっちゃうぅ、ふぇーん」

「なんで望が泣くんだよ」


 そうだよね、一番泣きたいの颯だよね。泣かない。口開かない。涙こぼさない。


「うっん、ふっ、ふぇ、っふ」

「もう、お前ら行けよ」


 翼が抱っこしてくれた。耳の横で翼の声が聞こえる。


「光、あんま勝手なこと言ってっと、颯に逃げられるぞ」

「うん。分かってる」


 二人が玄関から居なくなって、翼とリビングのソファに座った。


「ありがとな」

「ふぇ、っふ」

「あとは、二人の問題だから……話、聞いてやってって、俺が余計なミッション頼んだからだよな」

「ふっ、んふ」

「頑張ってくれてありがとな」


 翼がキスしてくれた。鼻が詰まっちゃって、息できないから苦しかったけど大丈夫。





「早く行こー!」


 翼を起こして学校に行く。


「俺らが早く行っても、あいつら来てねぇって」

「でもぉ、ここにじっとしてらんないからぁ」

「はいはい」


 翼と手を繋いで登校。キャンパスをきょろきょろ。


「いた!」

「え?もういんの?」

「ひーかーりー!」


 翼の手を放して走った。


「あ、はーやーてーもー!おはよーっ」

「「おはよ」」


 ……んっと。ちょっと、変?


「二人とも早いねー?私たちも早く来たんだよー」

「そうだね。授業の前に、翼と望に話せたらいいなって思って」

「どうしたのー?」


 翼が追い付いた。教室に行かないでキャンパスのベンチに座る。

 どうしてだろう。なにこれ。すごくドキドキする。


「つば、さ」


 顔を見上げたら、「ん」って言って、手を繋いでくれた。

 ドキドキは収まらないけど、少しだけほっとする。


「話って、どした?」


 翼が切り出してくれた。


「あのさ、俺たち……」

「え?」


 一瞬、耳がキーンってなって、よく聞こえなかった。


「も、いっかい、言って?」


 歩いてる人の話し声はうるさくないし、風の音とかもしてないのに、私の耳が塞がったみたいにおかしくなって、自分の声もなんか遠くに聞こえて……


「私たち、別れることにした」


 どうして光も颯も笑っていられるの?



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