第30話 Scene:翼「男が皆セクシー好きとは限らないぞ」

 ドラマの撮影で、望を連れて現場に来た。

 今日は初めての屋外での撮影で、望を車に待たせたまま挨拶に伺う。


「花里の付き添いです。本人はそこに来ていますので、いつでも大丈夫です」

「はい。声かけるから、よろしくね」


 戻る途中に、この前家まで送った女優がいた。


「こんにちは。今日もよろしくお願いします」

「どうも。先日は送ってくださって、ありがとうございました」

「今日もお一人で来られたんですか?」

「はい」


 マネージャーが付いてないということなので、今日も徒歩で来られたのだろう。


「よければ、車で一緒に待ちますか?」

「いいんですか?」

「望もいますけど」

「お邪魔じゃないかしら」

「とんでもないです。嫌でなければ、風よけにどうぞ」


 車に近付いたら、ドアが勝手に開いた。


「望……」


 おい、なに、そんな睨んでんだよ。

 慌てて、望の前に立ち、後部座席のドアを開けた。


「一緒に待つだけだから」

「……」


 機嫌が悪いな。

 二人とも無言で台本を見ている。

 俺はやることが無いから携帯をいじる。


「花里さん、お願いしまーす」

「ほら、望呼ばれたぞ」

「一緒に来て」

「なに言ってんだよ。すぐそこなんだから、一人で行けよ」

「一緒に来て!」


 しょうがないな、甘やかし過ぎたかな。

 後部座席の女優に会釈して車を降りる。


「セリフは頭に入ったのか?」

「当然ですー」


 望はプリプリしたまま、行ってしまった。

 撮影を見守る。何を言ってるのかは聞こえないが、カットがかかった瞬間、笑顔で走って来たので、一発オッケーだったと分かる。機嫌も持ち直したようで何よりだ。


「月岡君、ちょっといいかな」

「はい」


 なぜか俺が呼ばれる。


「次のシーンさ、ちょっと人足らなくて困ってんだけどさ、あっち行って手伝ってやってくれない?」

「俺がですか?」

「そうそう。立ってるだけだからさ、頼まれてくれないかな」

「いいですけど」


 男の集団がいる方を指された。


「寒いから、望は車に戻ってて」

「うん」


 行ってみると、年齢が様々な男性が、人だかりを作っている。

 喧嘩の野次馬に混じるみたいな役で、後ろの方に立っていたら一瞬で終わった。

 車に戻る途中で、後部座席に案内した女優とすれ違った。


「これからですか?」

「はい。行ってきます」

「頑張ってください」


 何とも言えない、勝ち誇ったような顔に不快感を覚える。


「今日はこれでお終いだから、帰るか……おい?」


 運転席のドアを開けたら、助手席の望が泣いてた。


「どうした?」

「あの女め……!」


 もしかして、あの女優のことか?口が悪いな……


「私のこと……」

「え?なにかされたの?」

「子役って言いやがった……!」

「ぷはっ」


 いけねっ。笑っちゃった。


「つーばーさー、ひーどーいー!」


 望が手足をばたつかせて大暴れし出した。

 あーあ、手に負えなくなってしまった。


「あの女、年下だったー!」

「へ?まじで?」

「ね?見えないよねー、おばさんに見える!ってか、おばさんにしか見えないー!」

「いや、おばさんには見えないけど」

「好みなの?あーゆーのが好きなの?男だもんね!セクシー路線がいいに決まってるよねー!」

「決めつけんなよ」


 どうすっかな。


「ドライブでも行く?」

「ドライブー?行くー!」


 今ないた望がもう笑った。カラスより単純だ。


「望さ、男が皆セクシー好きとは限らないぞ」

「そうなのー?」

「ロリコンだって、世の中にはいるわけだし」

「ふむふむ」


 とりあえず、海っぽい方へ走る。


「ま、セクシーが嫌いって奴は珍しいかもだけど」

「やっぱり、そーなんじゃん」

「でも望のいいところはいっぱいあるから、無理に変えようとしなくていいと思うんだ」

「でも、需要があるからなー」

「だから、肌見せようとしてんのか?頑張って、セクシーやろうとしてるの?」

「だめぇ?」

「だめって言うか……あんま、似合わないんだよ」

「……」


 しまった。また泣くか?


「光みたいになりたいなー。可愛いとセクシーが半分半分みたいなのがいーなー」


 颯の好みだからか?世の男性の需要と言うより、颯の好きなタイプになりたいんだろうな。


「もともと半々な人もいるだろうけど、望は可愛いが90でセクシーが10だろ?で、足して100になるわけだ」

「うん」

「もし、セクシーを20に増やすなら、可愛いを10減らさないとならないだろ?足して100にするんだから」

「うん」

「せっかく可愛いが90もあるのに、減らしちゃうのは勿体ないと思わないか?」

「もったいない……」

「そう。望は望にしかない奇跡のバランスがあって、他の誰かの真似なんてする必要はないと、俺は思う」


 分かってくれるだろうか。


「翼はー?」

「へ?」

「可愛いとセクシーのバランスはどれくらいが好きなのー?」

「俺は可愛い90が好きだよ」



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