第22話 Scene:望「光、隣に来て?」

 一日で作戦終りかぁ……いいアイディアだと思ったんだけどなぁ……

 光が可哀想とは、私も思うけど、颯とずっと二人でいれたのは楽しかった。

 だけどさすがに、もう颯はいいや。だって、光のこと好き過ぎじゃん。


 家に帰る途中で、忘れものに気づいた。

 携帯の充電器……月岡家に取りに行く。

 翼が鍵をくれたから、二人が居なくても家に入れる。


 あれ?車あるじゃん。


 歩いて行ったのかな。


 どこ行ってるのかな。


 鍵を開けて……あれ?


 二人の靴あんじゃん。


 ドアをそっと閉める。


 息を潜めて入ってく。


 声が聞こえちゃうよ?


 心臓がドクドクする。


「しっかりしろって」翼の声?

「無理かも……苦しくて……見てらんない……」光、泣いてる?

「望が頑張っても、颯の気持ちは変わらないよ」翼、せーかい。

「そ、んなこと、ないと思う……望、可愛いし」光、ブッブー。

「颯に言えよ。やり直せばいいだろ?」そーだよ。私、さんせー。

「それは出来ない。まだ出来ないよ」光の意地っ張り、なんで?

「そうだな、ごめん」


 どうして翼は謝ったのか分からないけど、作戦は成功してた。光ってば、めっちゃ嫉妬してんじゃん。


 光は颯が好きで、颯は言うまでもないし……二人の両思いが確定した。もう煽る必要なし。


 そっと、家を出て、一旦、外で待機。


「どうしよ。充電、そろそろホントにヤバいんだよねー」


 とりあえず、翼に電話。


「望?どした?」

「充電器忘れたー」

「届けてやるよ、今どこ?」

「颯んちー」

「分かった。ちょっとかかるけど、まだいる?」

「うん」


 電話を切って、颯んちにダッシュで戻る。


 ピンポーン


「あ、颯も泣いてるー」

「も、ってなんだよ」

「翼が来るー」

「何しに?」

「充電器ー」


 家に上がる。


 どうしよう。さっき見たこと颯に教えてあげた方がいいのかな?

 両想いなんだから付き合っちゃえばいいのに……って、私が言ったら変かな?


 颯がそわそわし出した。


「片付けるの手伝うー」

「頼む、掃除機かけてな」


 颯ってば嬉しそう。


 ピンポーン


「来たー!」


 私が開けた。あれ?


「翼だけー?」

「そうだけど?」

「光はー?」

「用があるから」

「なーんだ」

「なんだって、なんだよ」

「颯が光に会えるって期待しちゃったじゃーん」

「知るかよ」


「ほい」、そう言って充電器をくれた。


「あのさ、ちょっと上がってきなよー」

「お前んちかよ」

「まあまあー」


 翼の背中に回って押す。んーしょ、んーしょ。


「分かったよ、押すなって」


 翼を見てがっかりする颯。


「一人で来たんだってー」

「そっか……」

「なんなんだよ、お前ら」

「別にー」

「光に会いたかっただけぇ、いつも一緒だから、一緒かなってー……」

「俺も」


 しょんぼりと座る私と颯。


「光は……今、お前らとは会いたくないかもな」

「そうだよな」


 泣きそうな颯。こんなのやだよ。


「わ、たし、お、思ったんだけどさ、光は颯とお似合いじゃないなかなーって、す、好き合ってるんだから、つ、付き合ったらいーんじゃないかなーって」

「なんか、無理してないか?」


 なんで、颯が邪魔すんの?!ちょっと黙っててよ!


「望はそんなこと考えなくていいんじゃないか?」

「えっと、だってー、私、光の友達だし、大事だな親友だし……」

「それは分かってるけど、これはお前が出る幕じゃないだろ?」


 分かってよ、翼。私、ここで出ないでどこで出るのか分かんない。


「だって、だって、そんな、あのさ、りょーおも……」

「光は自分のことは自分で決められるよ」

「分かってるけど、じゃなくてさ、ふたりに……」


 頭をくしゃってされて、翼は帰ってしまった。

 ごめん、颯、私、これ以上、なにが出来たかな。


「ありがとね、望、頑張ってくれて」

「えと、ちが、あのね……」

「お前も、もう帰れよ」


 間違えた。どうしよう、どこかで大きく間違えちゃった。光に聞きたい。どうしよう、私、どうしよう、光、私、どうしたらいい?




 次の日、教室に行ったら、光が知らない男の子と話していた。信じられない……


「あの人と知り合いなのー?」

「前に、一緒にお酒飲んだの」

「おさけー?」


 颯が驚き過ぎて、息が止まってる。

 息しなよ、って思って、颯の胸をトンっと叩いた。


「光、行こー?」


 光の手を掴んで、翼が取っててくれた席に移動する。

 なのに……翼の隣に光が座っちゃった。


「え、またー?」


 完全に入れ替わってしまった席順を元に戻す方法を必死に考える。


「光、私の隣に来てー?」

「ん、なんで?いいよ、ここで」


 あっさり断られた。


「颯!私と代わってよー!」

「お、おう」


 一番端っこの席を代わってもらって、光の隣に座れた。

 颯と肘がぶつかってノート書き辛いけど、そんなのどうでもいい。


「いつお酒、行ったのー?どうして言ってくれなかったのー?」

「翼に誘われて。いちいち全部、報告なんてしないでしょ?」


 ひどい!ひどいよ!光ってば、私に内緒がいっぱい!

 私は何でも光に話してるのに、なんで?光は私のこと、信用してないの?親友じゃないの?


「光のバカァ」

「それ、翼にもよく言われる」


 ツンとしちゃってさ、本当に光のバカ!バカ!バカ!!


 せっかく授業が終わったのに、いつの間にかいなくなっちゃった双子に置いてかれて、私たちは仕方なくトボトボと歩いた。


「どうしよう……颯、私さ、光と、ケンカみたいになっちゃった……」

「泣くなよ、俺まで泣きたくなるだろ?」



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