第20話 Scene:颯「これで、にーにーになる、でしょー?」

 光はいつも通りだ。と、みんなには見えているはずだ。俺以外には、な。


「おはよう」


 光の笑顔が自然であればあるほど、俺は気持ちがザラつく。


「おはよう」


 もう、見栄というか意地というか……俺だって、平静を保つさ。


「おーはーよー」

「望も一緒に来たのか?」

「あのね、私たち一緒に住むことになったんだよー」


 そう言って、光の腕に手を通す望……


「まじで?」

「まじ、まじー」

「なんで?」

「撮影遅いし、翼がぁ、お姫様抱っこするためー」


 よく分かんないが、羨ましい。

 光と一緒の生活かぁ。


「光は俺と一緒に住んだらいいんじゃ……」


 こっ!怖っ!すっげぇー顔で睨まれた。

 はい。はい。分かってますよ。どうせ俺なんて、所詮、友達の前で彼氏認定すらしてもらえない、駄目な元カレなんだろ。


「どうかしたのか?」


 普段なら何とも思わない翼が、やけに憎らしく感じる。


「望が一緒に暮らすらしいじゃん」

「あ、もう聞いたの?撮影が夜中まで押したら、家で寝かせるってだけだよ」

「それだけ?じゃ、お姫様抱っこってなんだよ」

「あいつ……」


 やっぱ、何かあんじゃんかよ。


「呼んでもさっぱり動かねえから、仕方なく運んだんだよ」

「ありえるな」


 想像できて、ちょっと吹き出した。


「分かるだろ?面倒なんだよ、あのお姫様は」

「ああ、分かる」


 だよな。わざと俺だけのけ者にする奴らじゃないよな。


「望の撮影は順調なのか?」

「ああ、芝居上手いよ。いつもとは違う、役になりきった望は別人で、見ていて楽しいよ。オンエアー楽しみにしてろよ」

「おお、楽しみだな」


 こんなに、望の近くにいるんだから、もうお前ら付き合っちゃえばいいんだよ。ぶっちゃけお似合いだと思うよ。そうなれば俺と光だって、正々堂々と付き合えるんだからよ。


「おい、望」


 双子の目を盗んで、話しかける。


「おまえ、月岡家にお世話になるんだろ?」

「おう」

「翼となんか無いの?」

「なんかってー?」


 あ、この顔。なんも無いな……チーン……


「颯、私になんか期待してんのー?」

「期待……して……なくはない……」

「言ってみぃ」


 なんて言う?翼と付き合えって?いや……それは……友達としてどうかと……


「光を追い出したら?」

「へ?」

「おまえと翼が住んで、光と俺が一緒に住んだら、にーにーでいいじゃね?」

「にーにー?」

「そう、にーにー」


 目をくりくりと、空を見上げて右左と動かす望、こいつのこうゆうとこ、ほんと、可愛いよな。


「悪くなーい」

「だろ?」

「やってみるから、ちょっと待ってなー」


 てやんでぇ、みたいな手の平で鼻の頭をこするふりして望は居なくなった。


「なに話してたの?」

「げ、光!あ、えっと。それは、さ、俺と、望にも、ほら、いろいろあるような、ないような、だからさ、光こそ、何してんの?」

「一緒に帰ろうって……言おうと思ってさ」

「お、おう!行こう、行こう」


 無意識に光の手を取ろうとして、咄嗟に引っ込める。


「ごめん。間違えた」

「うん。大丈夫」


 この拷問、いつまで続くんだよ。俺さ、光と手繋ぎたいし、一緒にご飯作って、キスもしたいし、抱きしめたいし、ずっと一緒にいたいのにさ、どうして駄目なんだよ。望には隠し事じゃなくなったのに、なんで彼氏認定すら……納得いかねえよ。


 言いたいことはいっぱいあるのに、たったの一つも言えないまま帰ってきてしまった。


「じゃ、また、学校でね」

「ああ、またな」





 くそっ!

 家に着くなり、鞄を床に投げ捨てる。

 飛び出した携帯のランプが点灯している。


『今から行ってもいい?』


 望からだった。


『いいよ』


 と送ったら、すぐにチャイムが鳴った。


「もしかして、もう来てた?」

「うん。来てたー。走って来たよー」

「上がれよ」


 望は勝手に上がって、冷蔵庫からジュースを取って、飲もうとしていた。


「光にね、家出てって、言ったのー」

「はあ?もう?」

「うん。今さっきー」

「そんで?」

「怒ったー!」


 そりゃあ、怒るだろうよ。


「あの光が……怒ったんだよー?」

「言い方がマズかったんじゃないか?」

「だよねー。そんでね、作戦考えてたんだけど……」


 先に作戦を考えてから言えよ、って思ったけど、望には無理か。


「で、なんか思いついたのか?」

「いち、ケンカするー」


 望は人差指を立てた。


「それは駄目だ!ケンカは駄目!おかしくなる、修復方法が分かんない!」

「私もそう思うー。で、に、私がここに引っ越すー」


 望はピースをしている。


「は?」

「これで、にーにーになる、でしょー?」


 望はダブルピースをしている。


「でしょ?じゃねえよ。望がこっちに越してきても意味ねえじゃんよ」

「意味、ねーか……」


 なに、しょんぼりしてんだよ。当たり前だろ。


「でも、嫉妬するかもよー?」

「しっと?」

「そうだよ。颯を望に取られちゃうぅーって、光が取り返しに来るかもよー?」

「それは……いい作戦だな」

「ホントー?」

「だけど俺とお前が一緒に住むのは駄目だ」

「えー」


 確かに光が望に嫉妬して、俺を独占したくなる。これはあり得るな。


「よし。この線で、作戦詰めるぞ!」

「おー!」



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