うちの喫茶店のウザい後輩~いつの間にか後輩が魔法少女契約していた件~

高月夢叶

1章 後輩は魔法少女

第1話 後輩とサシ飲み

『喫茶なないろ』での一日の全ての業務が終了して時刻は一六時。 

 

 終礼も終わり、あとは帰るだけだ。 

 

「ふぅ......」 

 

疲れた......本当に。早く家に帰ってゲームがしたい。 

 あ、その前に晩飯か。腹減ったな...... 

 

タイムカードを切り、談話室を出ようかというところで後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。 

 

 よし、面倒臭いし無視しよう。 

 

 

『せんぱーい!佐藤先輩!!待ってくださいよー!』 

 

仕事終わりだというのに無駄に元気な声にイラっとし後ろを振り向き声の主を確認する。 

 

「なんだ、春風か」 

ライトブラウンのミディアムヘアーを揺らして俺を呼ぶ美女がそこにいた。

後ろでポニーテールにしているその髪型がスポーティで可愛い。

 

「なんだとはあんまりじゃないっスかー!金曜の仕事終わりですしこれから一緒に飲みに行きましょうよーw」 

 

春風は、仕事終わりの疲れなんか感じさせない元気ハツラツなテンションで言ってくる。 

 

栄養ドリンクでも飲んだのか?言いたくなるがグッと堪えた。! 

 

「ねえ、先輩も行くでしょ?行きますよね?!」 

 

普通は『行きますか?どうしますか?』と訊くのが常識だと思うのだが。 

  こいつはこの春から大学の新卒で入社してきた春風咲。

表向きは、可愛い後輩を演じていて上司や先輩たちから可愛がられているが、何故か俺の前でだけ

ウザ絡みをしてくる。

 

 そんなコイツからの誘いの答えは決まっている。 

 

「えー。ヤダ、お家帰る......」 

正直、疲れているから酔っ払いの溜り場の居酒屋になんか行きたくない。 

 

 酒を飲むとしたら宅飲み一択なのだが...... 

 

 

「先輩、あまりに疲れて幼児退行ですかー?!可愛いでちゅねーww」 

 

「や、やめろ......子供扱いするなー」 

 

『喫茶なないろ』から仕事帰り、直帰するはずが俺は今春風に強引に飲みに誘われて 

断り切れず春風の攻めを受けていた。

 

 その結果、新潟駅前の和食創作居酒屋『やすらぎ』に来ていた。どうしてこうなった!? 

 

早く家に帰ってゲームがしたい!そう思うのも無理はない店内は酒を飲み出来上がった大学生や社会人のオッサンたちで溢れ返っていた。 

 

 『先輩、じゃ、トリアエズ生と枝豆でかんぱーい!!』春風は盛大な掛け声と共にビールを呷る。 

 

 コイツ、もう出来上がっていないか?! 

 

「先輩も乾杯しま」しょうよー」と春風はビールジョッキを近づける。 

 

「じゃあ、俺はノンアルビールで......」 

 

『えー!?居酒屋に来て、ノンアルとかなにしに来ているんですかー?!』大声を出す。 

 

「うるさいなー。俺は無理やり連れてこられただけなんだけど!本当なら今頃、家出ゲームをしてたはずなんだがー!?」 

 

「えー、可愛い後輩と飲みに来れるの嬉しくないですかー?!」

「嬉しくねー!俺の貴重なフライデーナイトを返せ!!」

 

「先輩、プレミアムフライデーってことで、どうか機嫌を直してください」


「ウザすぎるフライデーの間違いだろ」


「うまい!座布団一枚!」


「ディスってるんだけどな......」


春風とのサシ飲みが始まり、ビールジョッキを若鶏の唐揚げをつまみに飲み干した。 

 

春風が二杯目に注文したのは梅酒ソーダだった。チーズの盛り合わせを食べながら飲み進めていた彼女の手が止まった。 

 

 急に口数も減り、モジモジしだした。なんだ?トイレにでもいきたいのか? 

 

だけど、こんなことを男の俺から訊くのは野暮というものだろう。 

 

 「先輩って女の子とこういうところ来たりするんですか?」 

 

「いや、春風と来るのが初めてだけど」考えるまでもなく即答で応える。 

 

そもそも居酒屋事態が行こうとは思わないし、飲むならスーパーで買って宅飲みするしな。 

 

 それに、身近な女友達もいないから必然的に春風と来るのが初めてになる。 

 

「そっか、わたしが初めての女なんですね......」 

 

「言い方は気に食わないけどまあ、そうだな」 

 

「ところで先輩って、彼女とか...いるんですか?」春風はトロンとした目で頬を朱色に染めて訊いてきた。 

 

「なんだ?やぶからぼうに?!彼女はいないけど、それがどうした?」 

 

「え、じゃあ彼女はいないけど、彼氏はいるんですか?」 

 

「いや、いないから!なんでそんな発想になるんだ!?」 

 

「誤解のないように言っておくが、俺はアブノーマルじゃない!ノーマルだ」 

 

「それが聞けて安心しました。良かったです、先輩がソッチ系の人じゃないくて」 

 

「お前はなんの心配をしているんだ......」 

 

女性には免疫がなくて付き合いがないだけで一般の男性並みには女性に興味はある。 


彼女ができたらこんな感じなのだろうか?でも、春風が相手とか考えられないな。 

 

「改めて尋ねますが、先輩。わたしじゃダメですか?」 

 

「......いや、なにがだ?春風、お前酔っているな」 

 

春風とのサシ飲みはお開きにして、店の外に出る。 

 

「仕事帰りの飲み会、楽しかったですね!また行きましょうよ」 

 

「俺は散々だったけどな。もう勘弁してくれ......」 

 

仕事終わりに居酒屋だなんて苦行以外のなにものでもなかった。 

 

 俺は、アルコールを飲んでいないから尚更、周りがうるさく感じた。 

 

「可愛い後輩と飲んだ感想がソレですか?あんなりな言い方ですね。先輩って男の子と遊んだほうが楽しい人ですか?」 

 

「まあ、春風よりは気が楽かもなー」 

 

皮肉のつもりで言ってやった。でも、春風は一瞬表情を曇らせてからぷくーっと頬を膨らませた。 

 

「もう、先輩のいけずー。じゃあ、これから先輩のことはプレイボーイって呼びますね!」 

 

「変な呼び方するな!職場で変な噂が流れたらどうする!?」 

 

「冗談ですよー。真に受けないでください」 

 

「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ......」 

 

「え?もしかしてマジでですか?!イヤーww」 

 

「おい、ふざけるなよ。まあ、休日の非番になら遊んでやってもいいがな」 

 

「わーい!今度、デートしましょうよー」春風は満面の笑みで言ってくる。 

 

「いいだろう」 

 一緒に居て騒がしいヤツだが相手を楽しい気持ちにさせてくれるそんなヤツだと思った。

 きっと、一人で家に居たら陰鬱な気持ちになっていたことだろう。

 さっきは軽口でああ言ったが間違いなく今夜はプレミアムフライデーだった。


「あと、さっきからなんで上から目線なんですか?」 

 

「そこ、ツッコむか......」 

 

「じゃあな春風。気をつけてね帰れよ」俺は弁天商店街を歩き出そうとしたところで春風に呼び止められる。 

 

「せんぱーい、もう帰っちゃうんですかー?二件目行きましょうよーw」 

 

「もう、べろんべろんじゃないか!?酔っ払いのオッサンみたいないこと言うな!ほら、水でも飲んで酔いを覚ませ」と『いろやす』を渡す。 

 

「!?......すいません、先輩。急用が入ってしまったのでやっぱり帰ります。お水、ありがとうございました」 

 

「??......ああ、そうか気を付けて帰れよ」 

 

どうしたんだ?春風のヤツ。観たい深夜アニメでも思い出したのかな?俺も早く帰ってゲームしよっ! 

 

春風は、佐藤と別れてビルの物陰に隠れてスマホアプリを起動する。 

 

さっき、怪人アラートを受信してしまったから早く行かないと!先輩は気付いていないようだし。 

 

 周りに誰も居ないことを確認するとスマホ画面をタップする。 

 

『変・身!』高らかに声を上げる。ヤバいバレたら危ない! 

 

みるみるうちに私服から、フワフワな衣装にフリフリのスカートを身に纏う十代前半の少女が立っていた。 

 

ペットボトルの水の代わりに魔法のステッキを持ち、佇むそんな彼女を人はこう呼ぶ。 魔法少女と!! 


               ***

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