4.冒険者の現実

 俺は協会裏手、路地裏に倒れていた。


 頬は大きく腫れ、えげつない痛みをジンジンと感じる。

 そして目の前には倒れる俺をじっと見ている、ガタイの良い男が立っている。

 俺が散々煽って覚醒の糧にしようとした喧嘩相手だ。


 俺は路地裏に到着するなり威勢よく魔法を発動しようとした。

 勿論相手が死なない程度の威力の低い魔法を。


 だが、魔法は使えなかった。


 またしても発動しない事に戸惑っているところに、ガタイの良い男は俺に拳を叩き込んできた。


 強烈な一撃だった。


 メガネは割れはしなかったが飛んでいく。

 俺は拳を受けた衝撃でそのまま倒れた。

 体は動かなく起き上がることもできない。


 俺は一撃でノックアウトされた。




 ガタイの良い男はパンッパンッと手を払う。


「なぁ兄ちゃんよ、何が気に障ったのかわからねーがこれで気は済んだか?」


 男はどこまでも性格が良かった。

 あんな煽ってた奴なんて、俺だったらタコ殴りにしてる。

 そんな力ないけど。


「仲間の手前、あそこまで喧嘩売られちゃあ買わねーと仲間まで舐められる。1発ぶん殴りはしたが、相手が俺で良かったな。他の奴らに喧嘩売ってたらもっとひでー目に遭ってたぞ」

「なぁ...一つ言っていい.........?」

「ん、なんだ?」


 俺は空を見ながら大きく息を吸い。



「思ってたのと違ーーーうッ!!!!!!!!」



「は?」


 夢にまで見た異世界転生、せっかくのチート能力も魔法は使えないうえ、それ以外では無双するには役に立つものでもない。

 溜まりに溜まった不満が爆発した。


「なんでせっかく『賢者の知識』なんてチート能力貰ったのに...肝心の魔法が使えないんだよ!これじゃ俺何にもできないじゃん!!」


「おいおい落ち着けって!」


「こんな使えない能力じゃなくて...強力な武器とか寄越せよ!!ここはゲームの世界じゃないんだ!!いきなりこんな世界に...力もなーんにもない状態で放り出されて何しろってんだ!!せめて魔法かスキルをしっかり使える状態にしてくれよ女神ーーーー!!!!!!!」


 自分でも、なんて情けない男だろうかと思う。

 自分ができない事を全て女神のせいにしようとしている。


 もはや俺の中に異世界でのワクワクやドキドキなんてものは消えてきていた。



 俺はその後も男に向かって叫び続け、気付けばもう空はオレンジ色、夕方になっていた。


 一通り叫び終え、喉から血が出るんじゃないかと思えるくらい喉が痛い。

 男はまだ倒れている俺の横に座り、持っていた水を「飲むか?」と俺にくれた。

 男は俺の叫びを黙って聞き続けてくれた。


「なぁ兄ちゃん、まだ若ぇんだからいくらでも道はあんだろ、なんで冒険者になろうとしてんだ?まぁ大方手軽に金が手に入るからか。言っとくが冒険者ってのはそう甘くねーぞ。」


 男はどこか悲しい目をし語り続ける。


「俺には4人の仲間がいるが、もう1人『フーシュ』って仲間がいたんだ。そいつは俺たちの誰よりも若くて剣の才能があった。きっとあと2年もすれば俺らを超えて立派な冒険者になってたはずなんだ。けどある時、依頼でエルフの森に存在する薬草採取をしてたんだがよ、エルフの戦士に見つかっちまったんだ。俺は仲間を逃すために囮になるつもりだったんだが、フーシュがよ『リーダーが死んでどうすんだ』って俺の静止も聞かずにエルフに向かって走り出したんだ。エルフはフーシュに気を取られ、その隙に俺らは命からがら森から抜けられた。だがフーシュは戻ってこなかった。その後も俺らはエルフに見つからないよう森を捜索するが、フーシュの遺体も装備品も見つからなかった。もしエルフに捕えられたんなら......恐らくフーシュは...もう.........」


 男の語った話を俺は黙って聞いた。

 話を聞き、自身の情けなさに唇を噛み締め、腫れ上がっている顔面を殴りたくなった。


 そうだ、わかっていたが実感が足りなかった。

 ここはゲームとは違う、危険な異世界だ。

 冒険者は危険なモンスターや、人を敵視する亜人を相手にしなければいけない時もある。

 俺のように遊び半分で冒険者になろうとしてる奴はいない。


「...だからよ兄ちゃん、若ぇんだから冒険者になんてならずに別の生き方を見つけたらどうだ、最近皇帝が進めてる...文明向上政策っつたか。あれで帝国内に劇場だの学校施設だのができてんだ。俺みたいなおっさんにはよくわからんが若い兄ちゃんならそこに就くってのも悪くねーだろ?それでも冒険者になりたいってんなら『剣士』を目指せ。さっき言ってたが魔法が使えないらしいな、なら剣を振れ。見たところ兄ちゃん、木剣で訓練してた事あるだろ?2年くらい前か....筋肉のつき方的にかなり間はある様だが、体は覚えてるはずだ」


 確かに中学の頃は剣道をやっていたが.....それが一目でわかるのか。

 洞察力もかなり高いらしい。


「毎日毎日、腕が熱く千切れそうになるまで剣を振ればブランクも無くなる。もし『剣士』として冒険者になったんなら俺のパーティーに迎えてやるよ。仲間たちの兄ちゃんに対する印象は...まぁ今は最悪だが、謝ればきっと許してくれる奴らだ」


 この人はどこまで良い人なのだろうか。

 なんか...涙が出てきた。


「なんで...俺にそこまで......」


 散々叫んだせいか、か細い声で俺は聞いた。


「...んなの、今の兄ちゃんの目が...助けを求めてる様に見えたからだが」


 男はそれが当たり前かのように言い放つ。

 当たり前......昔、“それ”ができなかった俺には、男があまりにも眩しく見えた。


 きっとこの人はあの時あの場所にいたら、迷いなくあいつを助けていたはずだ。

 俺とは人間の出来が違う、尊敬まで覚えてくる。


「じゃあ俺はそろそろ仲間の所に戻るとするが......兄ちゃんはどうすんだ、というか兄ちゃん見覚えのない服を着てるがこの国の人間か?金は持ってんのか?」


 男は立ち上がり、そう言いながら俺の方を心配そうに見つめた。

 そういえば俺も後のことは全然考えてなかったがご飯はどうしよう。

 金なんて当然持っていない。

 異世界にまで母が料理を持ってきてくれるわけもないし......こんな時まで母親に頼る考えをするとは俺はどこまで情けないんだろう...。


 俺が黙り込んでいると、「しょうがねーな......ほら、ひとまず今日と明日の飯代だ」


 男はこの世界のお金と思われる硬貨を渡してきた。

 俺はその硬貨を受け取り。


「あ...ありがとう......ございます...!」


 涙と鼻水を垂らし、きっと今鏡で見たら自分でも思うほど不細工な顔で俺はお礼を言い、男は手を振りながら去っていった。


 俺は硬貨握りしめ、そのままそこで眠ってしまった。

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