第22話 再会
「皆さん、助けてくれて本当にありがとうございました!」
敦が救出された日の夜。ブーヴが用意してくれていた兵士の服を着た敦は、焚き火で体を温めながら、皆にお礼を言った。皆が笑顔で
場所は、中央山脈東側の麓の森の中。エゼルスィギルが周囲に結界を張り巡らして警戒する中、近くの川で汲んだ水を携帯ケトルで沸かし、コップで白湯を飲みながら干し肉を分け合って食べることにした。今夜はここで野宿する予定だ。
幸い、ブーヴと老鬼神の傷は浅く、エゼルスィギルの治癒魔法でほぼ完治した。
敦も、肩の擦り傷をエゼルスィギルに治癒魔法で治してもらった。温かみのある光の中、みるみると擦り傷が消えていくのは、不思議な体験だった。
「普通の体よりも治癒魔法の効きが良いみたいね」
エゼルスィギルが興味深そうに
治療が終わり、白湯入りのコップと干し肉が全員に行き渡ると、老鬼神が敦に深々と頭を下げた。
「ナカアツ殿が無事で本当に良かった。救出が遅れて申し訳ない!」
慌てて頭を下げ返す敦に、老鬼神が今までの状況を説明してくれた。
老鬼神によれば、敦が城の地下牢に閉じ込められてから、すでに20日以上が経過していた。
老鬼神達は、敦を救出する機会を窺っていたものの、中々機会がなく、最後のチャンスということで、中央山脈の峠道で敦を乗せた荷車を襲ったということだった。
「この数日間、ナカアツ殿が閉じ込められた荷車へ向かって飛び出そうとするブーヴを、何度制止したことか」
老鬼神がそう言って笑った。ブーヴが照れ笑いしながら干し肉を食べた。
その後、老鬼神は、ナクァツァーシの魔力が敦とチュン子の魂に宿っていること、ブーヴと敦を襲った賊を倒したのはチュン子だったこと、ブーヴの自宅でエゼルスィギルと出会ったことなどを説明した。
「ブーヴさんと僕は、チュン子に助けらたんですね……チュン子、ありがとう! 服を吹き飛ばされたのは恥ずかしかったけど」
敦のすぐ隣の地面で木の実を
「私はエゼルスィギル。あなたを誤って召喚した張本人よ。ごめんなさい。本当にごめんなさい!」
「いえいえ、あなたに悪気はないんですし、そんなに謝らないでください」
申し訳なさそうに謝罪するエゼルスィギルに、敦は優しく声を掛けた。
「ナカアツ殿、スィーを赦してくれてありがとう!」
エゼルスィギルの横に寄り添う紅炎童子が、嬉しそうに言った。「スィー」とは、エゼルスィギルの
寄り添って座る紅炎童子とエゼルスィギルを見て、敦は、ふと「夢」で見た光景を思い出した。
敦は、自分が見た不思議な「夢」の話を皆にした。ちなみに、夢の中で紅炎童子とエゼルスィギルが死ぬ間際に手を取り見つめ合っていたことは、話さないでおくことにした。
† † †
「なるほど……チュン子の魂に宿ったナクァツァーシの意識が、ナカアツ殿に語りかけたのだろうか」
敦の「夢」の話を聞いて、老鬼神が腕組みをしながら
「荷車を破壊したり、兵士の腕を潰してすぐに再生したりしたのは、ナクァツァーシの魔力ということかな」
ブーヴが続けて言った。敦が首を
「そうかもしれません。ですが、先ほどお聞きした話を踏まえると、もしかするとチュン子の魔法だったのかもしれません。僕自身、どうやってナクァツァーシの魔力を使えるのかサッパリ分かりませんし」
敦は昼間の光景を思い出した。両腕がねじ切れて絶叫する兵士。もしあれが自分の力だとすると……敦は怖くなってきた。
「ちょっと試してみましょうか」
エゼルスィギルがそう言うと、敦のすぐ隣の地面で木の実を
「チュン子ちゃん、そこの木の枝を魔法で折ってくれる?」
チュン子は「チュン!」と鳴いたが、再び木の実を啄み始めた。
「まあ、そうだろうな」
ブーヴが苦笑して言った。
「それじゃあ、ナカアツさん、そこの木の枝を見て、指を鳴らして『折れろ』と言ってみてもらってもいいですか? 指を鳴らす必要は本当はないんですが、魔法使いが意識の集中・解放を行うテクニックですので、試してみてください」
エゼルスィギルに言われ、敦はそのとおりにしてみた。何も起こらなかった。
「じゃあ、最後に、ナカアツさん、チュン子ちゃんと一緒にそこの木の枝を折るイメージで、指を鳴らして『折れろ』と言ってもらえますか?」
エゼルスィギルが敦とチュン子を見て言った。
「分かりました。チュン子、おいで。一緒にあの木の枝を折ろう」
敦はチュン子を呼ぶと、チュン子が敦の肩に乗った。敦がチュン子と一緒に木の枝を折るイメージを心に浮かべてから指を鳴らした。
「折れろ」
突然、目の前の大木が根元から折れて倒れ始めた。
「あ、あ……元に戻って!」
慌てて敦が叫ぶと、大木が一瞬で元に戻った。
「なるほど……」
老鬼神が関心した様子で
「まあ、ナカアツさんを失った魔王軍は撤退するでしょうし、そうなればエルフ軍も撤退するでしょう。後はナカアツさんとチュン子ちゃんがどうやって元の世界に戻れるかを考える感じですかね」
エゼルスィギルは笑顔で言った。
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