いきなり召喚されてどうしろと

夢見楽土

第1話 いきなり決戦

 高校1年生のなかあつしは、窓側の席で学年末テストの英語の試験を受けていた。


 中間テストでは散々な結果だったため、ここでなんとか挽回したいところだ。


 しかし、昨晩はお気に入りの深夜アニメをついつい観てしまい、結局あまり勉強が出来なかったこともあり、全然解答が進まなかった。


 昨晩のアニメのように、異世界に召喚されて勇者となり、チートスキルを手に入れて、仲間と共に魔王を倒す、何てことがあったら楽しいんだろうなあ……


 などと筆記用具片手にぼんやりと考えながら、ふと視線を左側の窓の方へ向けると、手すりに1羽のスズメがまっていた。


 この1年、弁当のご飯を与え続けたところ、手乗りでご飯を食べるようになった「チュン子」だ。この試験が終われば昼休みなので、早めにやって来たようだ。


 チュン子は自由でいいよなあ……などと敦が現実逃避していると、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。


「魔王よ、覚悟! これがお前を倒す切り札よ」


 何かのアニメのセリフだろうか。誰かがスマホで動画を再生しっぱなしにしているのかもしれない。早く先生が注意してくれないかな……


 敦はそう思ったが、どうやら先生もクラスメイトも気づいていないようだ。


 女性の声が続いた。


「出でよ、神獣、ナクァツァーシよ!」


 その時、敦の周りが真っ白になった。



 † † †



「え……え?!」


 敦は、いつの間にか学生服姿で筆記用具を持ったまま、広い執務室のような場所に立っていた。


 敦の正面には立派な執務机があり、その向こうでは、黒いマントに身を包み、2本のツノの飾りを頭につけた人物が重厚な椅子から立ち上がっていた。


 見た目は20代くらい。長い黒髪に整った顔立ちで、どうやら女性のようだ。


 その女性は、驚いた顔で敦を見ていた。


 敦が足下を見ると、女性と同じような2本のツノの飾りをつけた、軍人のような服装をした赤髪の若い男が仰向けで倒れていた。


「ひっ!」


 敦は後退あとずさりした。後ろを振り返ると、尖った耳に美しい顔立ちの3人が立っていた。髪型や服装からすると、2人が男性で1人が女性、いずれも軍人のようだ。


 3人とも、よくアニメでみるエルフにそっくりだった。


 その3人も、驚いた顔で敦を見ていた。


 3人のうち女性のエルフが敦に何かを叫んだ。


 先ほどのテスト中に聞こえてきた声と同じようだったが、外国語のようで何を言っているのか分からなかった。


 「ナクァツァーシ」という単語だけ聞きとれたので、とりあえず、敦は女性のエルフに日本語で答えた。


「え? ナクァツァーシ? あの、中津敦です。ナ・カ・ツ、ア・ツ・シ」


 女性のエルフが信じられないという顔でまた何か叫んだ。


 それを聞いたリーダーっぽい男のエルフが何か言うと、もう1人の男のエルフが何やら呪文を唱えた。その直後、エルフの3人は光に包まれ、敦の目の前から消えてしまった。


「え、ちょっと……」


 静まり返った執務室。敦はどうしていいか分からず、執務机の方を向いた。


 執務机の女性は呆気にとられている様子だった。よく見ると、2本のツノは飾りではなく、女性の頭から直接生えているようだった。


 女性が何やら敦に言った。こちらも外国語のようで分からなかった。


 敦が必死に英語で話す。


「え、えっと、アイ、ドント、アンダースダンド、イングリッシュ!」


 女性は「?」という顔をした。敦の下手な英語が通じていないだけかもしれないが。


「そ、そうだ! この人は大丈夫なんですか?!」


 敦は、足下で倒れたままの若者を指差して執務机の向こうの女性に日本語で聞いたが、やはり通じなかった。


 会話を諦めた敦は、その場にひざまずくと、倒れたままの若者に声をかけた。反応はなかった。よく見ると、この人のツノも頭から直接生えていた。


 敦は、少し前に学校の救急救命講習で学んだ救命処置の手順を思い出しながら、必死に若者の心拍や呼吸を確認し、最低限の気道確保等の処置をした。


 若者は息をしておらず、心拍も感じられなかった。敦は、半ばパニックになりながら、必死に心臓マッサージの仕方を思い出した。


「こ、ここでいいんだよな……」


 敦は、両手を若者の胸に置いた。勇気を振り絞って、力強く若者の胸を圧迫した。


 敦の行動を見た女性が警戒しながら近くまでやってきた。心配そうに若者と敦を見守る。


 敦が何度か心臓マッサージを続けていると、若者がうめき声を上げた。息を吹き返したようだ。


 真面目に講習を受けといて良かった……敦がその場にへたりこむと、すぐ横にチュン子が寝転んでいることに気づいた。


 敦はチュン子をそっと両手で持ち上げた。どうやら、チュン子は気絶しているだけのようだ。


 その直後、突然、執務室後方のドアが開き、よくゲームで出てくる獣人等のモンスターが何人も走り込んできた。


 それを見た敦は、チュン子を手に持ったまま叫んだ。


「ば、バケモノ?!」


 モンスター達は、女性から何やら指示を受けると、手分けして、床に倒れた若者を担ぎ起こすとともに、敦を執務室の外へ連れ出した。


 敦は、訳が分からないまま、チュン子と一緒に牢屋と思われる場所へ放り込まれてしまった。

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