第4話 戦国マッスル無双 ~竹中半兵衛編~

■■■■ NOTICE ■■■■

※この話は「ウェブ小説霊安室」に保管された供養断片です。

本編化の予定はありません。

もし「まだ生きてる!」と思う方は――

「ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ」

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第1話「絶望の病床、筋肉という名の希望」


薄暗い部屋の天井を、俺はぼんやりと見つめていた。カビの生えた木目。微かに聞こえる雨音。そして、熱と倦怠感で鉛のように重い身体。


(……ああ、またか)


俺――佐々木健吾は、前世で激務に追われるエリート官僚だった。だが、気づけば俺は、病弱な若武者、竹中半兵衛としてこの世に転生していた。

前世でも、俺の身体は俺のものではなかった。会社の命令、上司の指示、データという名の無数の鎖に縛られ、ただ言われた通りに動くだけの道具。その結果、過労で倒れ、死んだ。


そして今、この身体もまた、俺のものではなかった。


「半兵衛様……いかがなさいましたか?」


傍に控える家臣が、心配そうに声をかけてくる。その声には、憐憫の色がにじみ出ていた。

熱で霞む視界の端に映る、己の痩せ細った腕。その腕は、前世で毎日鍛え上げていた俺の腕とは似ても似つかない、頼りないものだった。


この身体は、俺の人生の敗北を象徴しているのか。


そんな思いが、心の奥底から湧き上がってくる。どれだけ知略を巡らせても、どれだけ論理的に考え抜いても、この身体が言うことを聞かなければ、何も成し遂げられない。他人の道具として生きる人生を、俺はもう二度と繰り返したくなかった。


だが、この身体では、何も変わらない。


「フン……」


俺は静かに、熱にうなされる身体を起こした。そして、痛みを堪えながら、家の奥にある蔵へと向かった。埃っぽい蔵の片隅に、重そうな石が転がっている。俺はそれを掴んだ。


重い。あまりにも重い。


それでも、俺は石を持ち上げた。身体中の筋肉が悲鳴を上げ、脳が警報を鳴らす。だが、俺はそれを無視して、石を何度も持ち上げた。


(大丈夫だ……大丈夫だ……)


前世で培った筋トレの知識が、俺の頭の中で蘇ってくる。どこの筋肉に負荷をかけ、どう呼吸をすれば良いのか。俺の頭の中では、すべてのデータが完璧に揃っていた。


「論理もデータも、この身体がなければ意味がない」


汗が滴り落ち、地面に小さな染みを作る。痛みに震える身体とは裏腹に、俺の心は、これまでにないほど澄み切っていた。この痛みは、俺が確かに生きている証。そして、この身体を、俺自身のものにするための、唯一の道だ。


(……この一回一回が、未来を変えるための布石だ)


夜が明ける頃、俺は鏡の前に立っていた。そこに映る自分の姿を見て、俺は思わず息をのんだ。

たった一晩の鍛錬で、腕の筋肉が微かに隆起し、硬質な岩のように盛り上がっていた。


「……ッ!」


俺は、その変化を、熱に浮かされた夢などではないと悟った。この身体は、俺の努力に、確実に、そして正直に、応えてくれている。


「これならば……」


乾いた唇から、掠れた声が漏れた。


「これならば、この美濃も……そして俺の運命も変えられるかもしれん」


病弱な天才軍師、竹中半兵衛が、自らの手で運命を切り開く。

その静かな、しかし確固たる決意を、朝日は優しく照らしていた。





【診断結果】

脳まで筋肉になって心肺停止。

霊安室に安置しました。

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