6-2 ゲームならバランス上ここで金をとられるが、この世界では無料だ

「なあ、セドナ? 方角は合っているか?」

「ああ、間違いないよ。もう少しだな」



俺たちは魔王城の南に位置する盆地に向かっていた。

ここには、魔王ロナを打倒するべく王国軍が終結しているとニルバナから聴いたからだ。


ブラックパークの村が壊滅したことで十分な補給が出来なかった俺たちは、一度王国軍と合流したほうがいいと判断したからだ。


「それにしても、随分タイミングがいいな……これもニルバナがそうなるように仕組んだんだろうな」

「だろうね……あ、見えてきたよ」


そうセドナが指さすと、いくつもの天幕が見えた。

間違いない、あそこに王国軍は駐屯しているのだろう。俺たちはそこに向けて足を早めた。





「お久しぶりです、シイル様、マルティナ様!」

「あれ、エイリスとヒューラ?」


天幕の近くに行くと、そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。

彼らはエイリスとヒューラ。以前四天王のリア・バニアと戦ったときに助けた面々だ。

数カ月ぶりの再会に、二人は嬉しそうな表情を見せてくれた。



「もう、ケガのほうはいいんですか?」

「ええ、おかげさまで。……二人は、お元気でしたか?」

「あ、はい……」


エイリスたちは少し興奮したように口を開く。


「それにしても、お二人の活躍は聴いておりますよ。フロア・デックとルナを倒したという話、驚きました!」

「ですよね! ……もう誰も、お二人を『元勇者』なんて言ってませんよ!」

「あれ……知ってるの、その話?」

「ええ! 酒場ではその話で持ちきりですよ! 流石ですよね、皆さま!」



……なるほど。

恐らくだが、ニルバナの息のかかったものが王国にいたのだろう。

状況から察するに、恐らくは酒場のマスターか。



「国王陛下も皆さんをお待ちです。さあ、どうぞ!」

「いいんですか?」


元より、陛下には一度色々と話をしなければと思っていたが、あまりにもスムーズすぎる。俺はそう尋ねると、二人は顔を見合わせて意外そうな表情を見せる。



「あれ? 先日伝令のものから、本日こちらに向かうとの書簡をいただいているとのことですが……」

「……そう、ですか……」

(きっとさ、ニルバナの奴が連絡したんだよ)



そうセドナが耳打ちした。

まあ、それしか考えられないだろう。そう考えながらも俺たちは陛下のもとに向かう。





「陛下、お久しぶりです」

「久しぶり!」

「おお、勇者マルティナに、魔導士シイル。それに……格闘家のセドナ殿だな」

「ああ、私のことも聞いてるんだね」


ニルバナは、セドナのことまで伝えていたのか。

そう考えながらも俺たちは頭を下げる。



「陛下は、すでにここに軍を集め、魔王城への侵攻を考えておられるのですか?」

「無論。その際にはワシ自らが陣頭指揮を行うつもりだ」



陛下はかつて、軍の中でも有数の指揮官として名を馳せていたと聞いている。

それ自体には俺は疑問は感じなかった。



「は……ですが……」


俺が陛下に頼みたかったことは、ロナのことだ。

だが、陛下は俺の考えを見透かすように微笑みながら答える。



「……案ずるな。おぬしの考えていることは分かっておる。……自らの手で、魔王ロナとの決着を付けたいのであろう?」

「……ええ」

「であれば、こうしよう。我々が、城門前の敵を蹴散らし、橋頭保を作る。次に、わが軍の精兵たちが城内の敵をぶつけよう。そなたたちは彼らに守られながら、玉座を目指し、そこでロナを討て」


それは、正直俺たちにとって都合が良すぎる。

思わず俺は尋ねた。


「……いいのですか? 俺たちがその役目をいただいて……」

「無論だ。まず、おぬしらは我が国の恩人だからな。ディラックからもそう聞いておる。……リア・ヴァニアを倒したのは、僕じゃなくてシイル君たちだ、とな」

「そうだったのですか……」



あの『持ち逃げのディラック』が、手柄を横取りしなかったことは、正直意外だった。

だが、そのおかげで陛下からの信頼を得られたのだから、御の字だ。


そういった後に、陛下は少し考えるような表情を見せた。



「それに、おぬしらは……レベル1であるにも関わらず、四天王を三人も屠った実績もある。話によると、複数のアイテムを使いこなしたとのことだな?」

「はい。レベルが1でも、アイテムやアクセサリーの効果は、平等に人に力を与えてくれますから」



俺はそういいながら、元の世界のことを思い出した。

今思うと、銃火器の発展は、その『誰でも同じ力を与えられる』というコンセプトから生まれたものだったな。


ある意味、俺の戦い方は現代人の戦い方に近いのだと思い、苦笑した。



「因みに、どのように倒したか、話を聞かせてくれぬか?」

「勿論です。……セドナ、頼む」

「あいよ」


そういうと、セドナはここに来るまでどのように戦い抜いてきたかを説明してくれた。

やはり衛生兵ロボのセドナは、こういう戦果報告は得意だ。一切の主観を除いた客観的な情報を分かりやすく伝えてくれる。



しばらくして陛下は納得したような表情を見せた。



「なるほど……。状態異常にデバフ、それに同士討ち……どれも、聞いてみれば簡単だが……実際に行うとなると難しそうだな……」

「まあ、正直運が良かったというのはあるでしょう」

「だが、そういうことなら、分かった。……兵!」

「は!」



そう陛下が叫ぶと、兵士がいくつものアイテムや装飾品を持ってきた。



「こ、これは……」


それを見て俺は言葉を失った。

そこには、いくつものレアアイテムや貴重な装備品がずらりと並んだからだ。



「必要なものを持って行ってくれ。……あの魔王ロナを倒すために、各国が拠出してくれたのだ」

「い、いいのですか? こんな貴重な品……」

「うむ。……おぬしらなら、一番魔道具を使いこなせるであろう。それに、おぬしらにロナを討つ役を任せるのは、単に恩に報いるためではない」



そういうと、兵士たちに対して少し申し訳なさそうな顔をしながらも、陛下は続けた。



「どのみち、我が国の軍には、在りし日のそなたらを超えるもの……即ち、地力でロナを倒せる腕のものはおらぬのだ。レベルが1だろうが100だろうが、彼女に正攻法で打ち勝てぬのであれば、おなじことであろう?」

「それは……」


その通りだが、流石に彼ら兵士の前で首を縦に振るのは気が引けた。

だが、兵士たちは苦笑しながらもそれを甘んじて聞き入れる様子を見せたので、俺も頷いた。



「無論、これも合議の上の話だ。であれば、これらの魔道具をお主に託し、ロナに万全の状態でぶつけるのが一番可能性があると考えたのだ。……期待して済まぬがな」

「いえ! ……ありがとうございます!」



正直、これは本当にありがたい。

単に店売り品を補充するだけでなく、貴重なアイテムとアクセサリーが手に入るのであれば、ロナとの戦いの勝率は大幅に上昇する。


……もし、これがゲームの世界ならバランス崩壊となるだろうから、高額の金銭を要求されるところだろう。



「ねえ、シイル? ここにあるアイテムってそんなにすごいの?」



だが、あまりアイテムに詳しくないマルティナはピンと来ないのか、俺に尋ねてきた。



「ああ。……いわゆるモンスター……それも上級の敵の落とすアイテムが沢山あるからな」

「こないだ使った、身かわしのマントみたいなやつ?」

「そうだ。後で、どのアイテムを持っていくかは俺がきめておくな」



そういいながら俺は陛下に向き直る。


「それでは陛下。……アイテムの確認を行いたいのですが、時刻はもう夕方です。この作業は俺だけでやるので、マルティナとセドナは、帰ってもらっていいですか?」

「む……そうか?」



それを聴いて、陛下は少し不思議そうな表情を見せた。

アイテムやアクセサリーで何を持っていくかを考えるなら、二人を下がらせる必要はない。そこで、俺が本当は、二人とは秘密で別の話をしたいのだと察してくれたようだ。



「なるほど、承知した。……では、マルティナとセドナよ。向こうの天幕に、そなたらの宿を用意してある。今夜はゆっくり休んでくれ」

「え? あたしたちも手伝うのに……」


マルティナも少し意外そうな顔を見せたので、俺は耳打ちする。



(悪い、ちょっとどのアイテムが役に立つか、確認に時間がかかるからさ。夕食の支度してくれないか? 決戦前はお前の料理を食いたくてな)


これは方便だが、本心でもある。

マルティナは、そういわれてようやく納得したような表情を見せてくれた。



「え? ……そういうことなら、分かった! それじゃまたね、王様!」

「吉報を待ってな。絶対にやり遂げて見せるからさ」



そういうと、マルティナとセドナは陛下にいる天幕から出ていった。

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