第18話 ふたりの未来を形にする準備

両親への挨拶を終えてから数日。

春樹と小夜は次の大きな一歩に踏み出していた。


「新居、どうする? 会社への通勤考えると……やっぱり真ん中あたりかな」

春樹が広げた地図を覗き込みながら言う。


「そうだね……春樹は出張もあるから、駅近のほうがいいよね。私は電車通勤だから……急行が止まる駅だと助かるかも」

「じゃあ、この辺りがいいかもしれないな」


休日の午後。二人は不動産会社の応接室に座り、担当者が出してきた物件資料を真剣に眺めていた。


部屋に案内されると、小夜の目が輝いた。

「わぁ……明るいね。リビング広い」

「ソファを置いて、こっちにダイニングテーブルかな」

春樹は間取り図を指でなぞりながら、自然に生活のイメージを語る。


キッチンに立った小夜が振り返る。

「ねぇ、ここで料理作って、春樹さんが帰ってきたら『おかえり』って言うの……ちょっと想像できちゃった」

「……すぐにでも見たいな、それ」

不意に春樹が真剣な眼差しで言うので、小夜は顔を赤くしながら笑った。


収納や駅からの距離、周辺の雰囲気を見比べながら、二人は何軒も回った。

疲れた足取りでカフェに入ると、自然と笑みがこぼれる。

「こうして一緒に悩むの、楽しいね」

「俺も。小夜と一緒に住むんだって実感がどんどん湧いてくる」

テーブルの下で、そっと手を握り合った。


翌週末。今度はウェディングフェアへ足を運んだ。

チャペルの扉が開き、光が差し込む瞬間、小夜は思わず息をのんだ。

「……すごい。ここで歩くの?」

「小夜がここに立ったら、きっと誰よりも綺麗だろうな」

春樹の言葉に、小夜の頬が一気に熱くなる。


披露宴会場では試食もあった。

春樹がナイフで肉を切りながら「これはゲストも喜ぶだろうな」と真剣に味を確かめる姿に、小夜は胸が温かくなる。

(春樹さん、ほんとに結婚を“ふたりのこと”として考えてくれてるんだ……)


見積もりを前に「思ったより高いね」と苦笑いしながらも、二人で相談を重ねる。

「でも、来てくれる人に喜んでもらいたいから」

「うん。無理のない範囲で、一番いい形にしよう」

未来を語り合う時間が、なによりも幸せだった。


そして最後は、婚約指輪に続く「結婚指輪」。

宝石店のショーケースに並ぶシンプルなリングを前に、小夜の瞳はきらめいた。


「どれも素敵……迷っちゃう」

「小夜に似合うのがいいな。派手すぎないやつ」

春樹が店員に案内されながら、いくつか試着させる。

指にはめた瞬間、小夜の胸が高鳴る。

「……どう?」

「すごくいい。これを一生つけるんだと思うと嬉しい」


春樹は自分の指にリングを通して、小夜に微笑んだ。

「これで、どこにいても“夫婦”って証になるな」

その言葉に、小夜は胸が熱くなり、思わず涙を浮かべてしまう。

「……もう、泣かせないでよ」

笑いながら涙を拭く小夜に、春樹は優しくキスを落とした。


夜の街を並んで歩く。

「新居も、式場も、指輪も……ほんとに現実なんだね」

「これから、もっと忙しくなるぞ。だけど、全部一緒に決めていける」

「うん……春樹とだから、きっと楽しい」


肩が触れ合う距離で歩きながら、二人は未来へと歩みを進めていった。

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