第48話 アドルVSアイン
「アドルっ!!」
最初はあの日の焼き直し。まず、最初に動くのは徒手空拳のアイン。対するアドルはシミター。セオリー通り超近距離戦に持ち込むために接近する。
冥属性と天属性の魔纏い同士がぶつかり燐光が弾き合って瞬いて消える。
「アイン!!」
木刀より重く、若干リーチが長いシミターで牽制するアドルの動きは最初の対峙よりも断然に動きがよく、アインは簡単に近づくことが出来ずに攻めあぐねていた。
無理に突破しようとすれば薙ぎ払いで距離を開けさせられ、シミターを振るのにちょうどいい間合いの時には剣による連撃がアインを襲う。剣に切られればアインと言えど無事では済まず慎重に立ち回らなければならない。
「くっ……。」
「“ウィンドアロー”」
「っ……“ダークシールド”。」
近接戦闘から魔法戦闘へと移り変わる。アドルの風で作られた矢はアインの作り出した闇の盾で防がれるが、アインの足を止めることには成功した。
「“夜の帳”、“ディストラクト”。」
「“ウィンドバースト”。」
「強引すぎだろ!!」
だが、魔法戦闘でもアドルよりもアインの方が先に習っているため有利なのは違いない。
エレナ戦でも作られた辺り周辺を夜闇にする魔法は朝でも問題なく効力を発揮する。そして、攪乱魔法が発動されアドルは五感でのアインの場所の把握が難しくなった。
だが、強引にも自分の周囲全部に攻撃するという行動で対処する。闇の帳の中でアドルの方へ踏み込もうとしていたアインは二の足を踏むしかなく、本格的な魔法戦闘へと移行した。
「そうかな?“ウィンドブロウ”。」
「“ダークアロー”。」
アドルはアインの声のした方へと風での殴打を繰り出すが、そこには当然アインはいない。すかった攻撃は闇の帳に消えて、その闇からアインの放った矢が帰ってくる。
「“ウィンドシールド”。」
だが、風の盾で守られたアドルには攻撃が届くことはない。戦闘の推移を見守るようにアドルは闇夜に目線を向けながらも反応できるように身体を構えている。
「“ダークエンチャント”」
「……。」
「ダークアロー。」
闇の粒子がアインの身体を包み込み闇属性の魔法攻撃を強化する。さらには攻撃に闇属性を付与する。
未だに身体を構え続けるアドルにアインは魔法を発動せず、言葉だけで魔法名を口にした。そして、その身をアドルの方へと駆けさせると殴りかかろうとして、アドルの持つ刃が煌く。
「ふっ……!!」
「くっ、やっぱりか!!」
アドルの振り抜いたシミターでの一撃はアインの身体に当たることはなく、後方へと飛びのいていたアインはアドルへと苦々しい表情で言葉を吐いた。
「当たらなかったか。」
「どうやって動きを見ているんだ?」
ダークアローと口にしたときにアドルはウィンドシールドを発動せず、アインが接近するとピクリと一瞬身体を動かした。それを見たアインは直観的にアドルがどういう手段か闇の帳内でも自分の動向を見ているのに気が付いた。
それに気が付いた瞬間に身体を後方へと飛びのかせていたが、もし気が付かなかったら今の時点で決着がついていただろう。
「さぁ?それより、魔法名だけ叫ぶとはね。」
「くくく、しっかりと対処されたがな。」
お互いのブラフは意味をなさず、戦況はイーブンと言ったところだろうか。二人はニヤリと顔に笑みを浮かばせると、闘志をさらに漲らせた。
「“ウィンドアロー”。」
「“ダークアロー”。」
「“ウィンドブロウ”。」
「“ダークウェーブ”」
風の矢は闇の矢で、風の殴打は闇の波動で。同じ系統の魔法同士がぶつけられ、鯛消滅を繰り返す。そして、ついに闇の帳の効果時間が切れて、朝が訪れた。
「……きりがないね。」
「くくく、強くなってるなぁ。」
二人は目を合わせると、お互いに笑っていることに気が付き、努めて無表情を作った。
そして、アドルは剣をアインに向けて、アインはその場で拳を構えた。二人は無言でお互いのことを見て、一挙一動を見逃さないようにお互いに観察する。
「……。」
「……。」
じりじりとお互いの間合いを測るように膠着状態が続く。だが、それも長くは続かない。どこかから獣が吠える音が聞こえると二人は同時に踏み込み、その距離を瞬く間になくした。
「はぁああ!!」
「ふっ、らぁああ!!」
斬撃と打撃の応酬。どちらもお互いの攻撃を先読みしているように有効打を当てることが出来ない。
アドルが曲刀を振るえばその軌道からアインは身を避けて、反撃しようと足を踏み込む。しかし、それを読んでいたようにアドルが振った曲刀を切り返してアインの動きを牽制する。
「効かないよ。」
「こっちもな。」
お互いに有効だが与えられない状況に二人は内心焦りを感じながらも、余裕そうに笑みを浮かべて軽口をたたく。その間も攻撃は続いており、アインが足を滑らせて態勢をわずかに崩れさせた。
そしてついにアドルの曲刀の刃先がアインの喉元に添えられた。つーとアインの首筋から血が垂れてきており、誰がどう見てもこのアドルVSアインの戦いはアインの勝利であった。
「僕の勝ちだ。」
「……。ふっ、ああ俺の負けだな。……だが。」
アインの続く言葉の前に二人の上空からアドル目掛けて火の球が降り注ぐ。上空には一話の鳥が羽ばたいており、そのくちばしからさらに二、三と火の玉を撃ちだしている。
それをアドルは避けるためにアインから曲刀を遠ざけるしかない。
「くっ!!」
「俺には仲間がいるからな。勝負はまだこれからだ。」
火の玉を避けるために遠ざかったアドルとアインには四歩程度の距離があり、そこでアインは悠々とした態度でアドルへと立ち塞がった。
まだ、勝負を続けるつもりらしく、その身体をより濃密に魔力が渦巻いている。
「アインっ!!」
「くくく、“ダークボム”。」
「“ウィンドシールド”。」
アドルがアインへと近づこうとするとアインが魔法を発動して、アドルはそれを防ぐために自身も魔法を使うしかない。
アドルが防御魔法で対抗している隙にアインの隣には二体の狼が控えており、上空にはいまだ一羽の鳥が羽ばたいていた。
「さぁ、続きをしよう。」
「……くっ。」
地と空を征服されている圧倒的に不利な状況にアドルは顔を歪めて、アインを力いっぱい睨みつけた。
そんなアドルを迎え撃つアインは先よりも笑みを深めており、これではどちらが勝者なのか分かったものではない。
まだ、二人の戦いは続く。
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