第41話 VS小鬼種

 アドルらが各々行動する中、村ではと言うとアーレンクロイツ家の護衛達が敵襲の対応をしていた。それはアドル達の旅路にも着いてきた4人と他に大剣を背負った短髪の赤毛、腰に短剣と短弓を携えている青髪のロン毛の二人だ。

 森から襲撃してきた魔物は小鬼族、ゴブリンである。体長は約140㎝程度で頭の上に二本の角が生えている。ゴブリンの肌はその全てが深い緑色をしており、特にフォレストゴブリンと呼ばれるものだった。

 襲撃に来ているゴブリンの数は村から見えるもので25体弱。森に潜んでいる個体を含めると優に50は超えるだろう。ゴブリンたちと護衛はお互いを睨み合うようにその場で立ち止まっている。


「ゴブリンだ!!」

「今だけでも25いるぞ!!」

「上位種は?」


 上位種とは通常の個体が時を重ね、魔力をその身に蓄えることで進化した個体のことである。主に戦闘能力の向上があげられるが、特異な能力を得たり、そもそもの形態が変化したりなど多種多様な変化が訪れる。

 上位種がいるかどうかは戦闘面での勝率に多くかかわってくるため、村を防衛する立場の護衛達は何処にいるか、何体いるか、どんな進化をたどったかなどを把握しておきたいものだった。


「おそらく居るだろうが、まだ目視できない!!」

「森に入るか?」

「自殺行為だぞっ!!」


 ゴブリンは魔物の中でも頭の良い魔物であり、武器を用いることや罠を用いること、独自の言語を話すこともある。それに反して肉体強度は他の魔物よりも大きく劣っており、それはさながら魔物側の人族のようである。


「とりあえず、殺すか。」

「うへぇ、リーダー物騒ですねぇ。」

「仕方ないだろ。森には入れないが、ゴブリンをこのまま放置するわけにはいかない。とりあえず、目の前の奴らを殺すべきだろ。」

「脳筋?」

「脳筋ちゃうわっ!!」


 戦闘に入る前でものんきにお喋りをしているのは例によって4人である。4人はゴブリン程度の弱い魔物なら幾度も討伐してきた経験もあり、25という数は多いものの戦闘力だけで言うなら4人の方が断然強いだろう。


「武器持ちは半分くらいか。逆に厄介だな。」


 武器持ちのゴブリンはほとんどが短剣をその手に持っており、それ以外のゴブリンが素手であった。武器持ちのゴブリンは攻撃手段がその手の武器ぐらいしかないが、素手のものは投石や格闘、魔法まで攻撃手段が多く特定ができない。

 武器持ちも同じでは?と思われるかもしれないが、何故か武器持ちのゴブリンはその武器でしか攻撃をしてこない。愚直なまでに攻撃手段を限定させているのは、種族の特性だろうか、それとも創造主の設計か。誰にも分からない。


「ここから牽制する。」

「俺もここで。」

「分かった。おいっ、行くぞ。それとお前、教官を呼んできてくれ。」

「二人でぇ?」


 当然、牽制するのは中衛と後衛、突っ込むのが前衛の二人である。中衛はその手に持つ弓で素手のゴブリンを打ち、後衛の魔術師が魔術での攻撃担当である。そして、リーダーの男は剣一本で突っ込み、もう一方の男が盾と剣を用いる。

 リーダーの男は青髪のロン毛を指さすと教官を呼ぶように指示すると、嘆くように言葉を漏らす前衛盾を無視してゴブリンへと突っ込んでいく。


「ぎぃぎぃ。」

「ぎぃ!!」

「“ウォークライ”、“風烈斬”。」


 ゴブリンたちが浮足立つように前衛剣の方を指さすと、前方にいた3体ほどがばたばたと足を鳴らしながら前衛剣へと突っ込んでいく。

 前衛剣が気術を発動すると身体へ黄色の光が纏わりつき吸い込まれるように消えた。その後、すぐに戦技を発動する。発動された戦技は風を切る音と共に少し距離のあった3体のゴブリンの首を切り落として、辺りに緑の血とその身体をまき散らした。


「ぎっ、ぎぃ。」

「うげぇ。“挑発”。」

「ぎぎぎ!!」

「ぎぃ!!」


 ゴブリンは下手に頭が回るために一瞬で刈り取られた仲間の姿に恐怖心を感じてしまい二の足を踏んでしまう。だが、前衛盾の気術により理性を失わされて、目を赤くしたゴブリンは我先にと身体を前に飛び出させる。


「“風烈斬”、“風烈斬”。」


 が、我先にと飛び出したゴブリンはたちまち前衛剣の戦技によってその首を刈り取られてしまう。今の時点で10体以上のゴブリンの躯が戦場に落ちており、そのすぐ後に中衛の弓矢によりさらに数を減らされた。


「“ロックブラスト”」


 そして、魔術師が魔法を放つと放物線を描きゴブリンの上へと土で出来た球体が迫る。それはゴブリンに一定距離まで近づくと爆発して、その中に入っていた鋭く尖った土の破片が下方向へと降り注ぐ。

 真下にいたゴブリンは即死して、そのそばにいたゴブリンには破片が突き刺さり身体からはだらだらと血が流れ出ている。ぐちゃぐちゃに抉れた傷にゴブリンはその身体からゆっくりと力を奪っていき、のたうち回ったと殺した。


「えぐっ。」

「うげぇ。」


 その光景に前衛の二人はドン引きしながらも残った数体のゴブリンをその剣で切り殺して、少しずつ魔物の数を減らしていきゴブリンはとうとう村の見える位置からはいなくなった。




 魔術師がゴブリンの死体を燃やしていると、教官ダンテがリーダーである前衛剣の肩を叩いた。


「ゴブリンの襲撃だって?」

「教官。この後4人で森に入ります。教官にはここの見張りをお願いします。」

「分かった。上位種もいるだろうから、気を付けろよ。」


 ダンテは森の中に罠があるが、このパーティーなら乗り越えられると判断した。戦績だけ見てもケガもなく余裕の圧勝である。余力も十分に残しており、ゴブリンならいくらかかってきても4人を打ち取ることなど出来ないだろう。


「はい。」

「……それにしてもアレ、えぐいな。」

「……ええ、怒らせたらいけませんね。」


 ダンテはいまだに燃やされていない土の破片でぐちゃぐちゃのゴブリンを指さして、顔を歪めると前衛剣へとこっそりと耳打ちをした。

 それに前衛剣も鼻をつまみながらうへぇと顔の前で反対の手で振り払う仕草をして、ダンテに聞こえるくらいの声でこそこそと話した。


「聞こえてるぞー。」

「冗談だよー。」

「ここの護りは任せておけー。」


 魔術師に話を聞かれていた二人は揃ってびくりと身体を震わせて、にこやかな笑みを作って魔術師の方へ向くと、変に棒読みになった言葉をそれぞれ吐いた。

 それをじとっとした目で魔術師が見つめて、今までで一際大きな炎がゴブリンの身体を包み込んで、瞬く間に死体を焼き尽くした。


「いいですけどね。」

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