第30話 エレナの憂鬱
エレナは暗い部屋の中で一人頭を抱えて、現状を嘆いていた。憂鬱そうにため息を吐き、うなだれる姿はまるで断罪される前の罪人のようで、お余りにも普段の彼女とはかけ離れている。
「はぁ、どうしようかしら。」
エレナはまた一つ憂鬱そうにため息を吐き、ぽつりと言葉を漏らした。長く暗い夜にすっかりと気が滅入ってしまっており、夢見の悪さがより一層彼女を憂鬱にさせた。
彼女の夢はいつも現実のようで夢と現実の境目が曖昧になる。同じ日を二度過ごしたように感じることはよくよくあり、話してもない会話をした気にさえなっている。どれが現実でどれが夢か、それが分からなくなってしまう。
だからだろうか。夢見が悪いとそれが本当に現実に起きてしまうと考えて、どうにか良い未来に変えられないか足掻く。しかし、夢の悪い部分は到底変化させられず、心の奥底には汚泥がたまっていく。村が燃えた時もそうだった。
「どうしても二人は対立してしまうのかしら。」
彼女が一番心配しているのはアドルとアインが対峙しないかであった。魔力操作の習得のために気絶したあの日、彼女の夢の中ではアドルとアインがお互いに向き合い対立していた。それをただ茫然と眺めているエレナ。そして二人の影と影が交差する。
アドルの手に持っていた剣はどうなったのか、アインはその後どうなったのか。それが見えることはなく夢は覚めた。しかし、そのあまりにも衝撃な夢は確かにエレナの心に影を落とした。
そして今日のことである。二人の口論。二人に何らかの確執があるのは村にいた時から分かっていたエレナだが、それが彼女の前で表面化することはほぼほぼなかった。なのに今日はそれがありありと彼女の目の前に浮かび上がった。
馬車の中の最悪な空気はエレナに忘れられない記憶として残り続け、二人が対立する可能性の示唆として彼女の心の中を燻り続ける。今日という日に憂鬱にため息を吐くのはこれが原因だ。
「いえ、きっと協力して生きていけるはずだわ。」
エレナにも明かりもなく、暗い夜に一人で部屋にいるのがよくないと分かっている。でも、彼女に頼れるものはなく、夢なんて信憑性のないものに手を貸してくれるものなどいるはずもないと思ってしまう。
エレナは夢想するようにアドルとアインの二人の手が握られる未来を想像する。固く結ばれた二人の手は確かな絆を感じさせ、はたと気づいてしまう。その手がぎりぎりと引きちぎらんとばかりに強く、強く握られていることに。
夢想。都合の良い妄想なのにも関わらず、エレナの頭の中に二人が仲良くするなんて未来は見えてこない。仲良くするための方法を考えるのに出てくるのはいがみ合う二人の姿だけ。
「今のままではそれこそ、夢のよう。」
エレナはついに自分の方法こそ夢であると認めてしまう。仲良くなる未来などなく、対立する未来が確定しているようで、エレナの気はますます滅入ってしまい、もっと深い暗闇の底へ行くことを望んでしまう。
一人暗闇の中でエレナの身体を黒い魔力が蝕むように纏わりついて蠢いている。蠢く魔力に彼女本人は気が付いている様子はなく、ただ二人が仲良くなる可能性を思考し続けている。
そんな彼女の頭の中にふとプリマの姿が映る。美しく、気高い貴族の子。商家とは比べ物にならないほど選択肢が多く、ヘレンという駒一つだけでも盤面を動かせるほどに強力だ。他の手札をすべて使ったらいかほどの力になるだろうか。
「プリマ……。いえ、ダメね。あの子はもう十分頑張っているわ。」
だが、エレナの頭からは意識的にプリマのことが省かれる。多少なりともプリマの事情を知るエレナである。これ以上の心労を抱えさせるなど出来はしないし、そもそも夢の話なのだ。頼ることなど以ての外だ。
しかし、そうなると二人の手を繋げることが出来る人間などd子にもいないことになる。数多の解決方法を頭に浮辺手は消して、堂々巡りになる思考を、益にもならない思考をそれでも懸命に巡らせる。
すべては夢と同じ景色を実現させないため。三人で掴む最善んお未来を目指して思考し続ける。
「やっぱり、私が何とかしなければいけないわね。」
エレナは暗い部屋の中で一人頭を抱えて、現状を嘆いていた。憂鬱そうにため息を吐き、うなだれる姿はまるで断罪される前の罪人のようで、お余りにも普段の彼女とはかけ離れている。
「はぁ、どうしようかしら。」
エレナはまた一つ憂鬱そうにため息を吐き、ぽつりと言葉を漏らした。長く暗い夜にすっかりと気が滅入ってしまっており、夢見の悪さがより一層彼女を憂鬱にさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます