第13話 エレナという少女
エレナ=アーレンクロイツ。アインの腹違いの妹であり、レベッカという名の母がいるただの少女である。レベッカはエレナと似て燃えるような赤色の髪を持ち、黄金に輝く特殊な瞳を持っている。
レベッカは燃えるような赤い髪とは対照的におしとやかな女性であり、落ち着いた雰囲気は知的な印象を抱かせるだろう。昔はやんちゃをしていたなんて話もあるが、今のレベッカを見ると嘘に思えて仕方がないだろう。
「……。」
エレナは目を覚ました後もベットから起き上がることもせず、身体を包む倦怠感に身を任せて、じっと天井を見ている。
エレナが思い起こすのは先日の出来事である。アドルと共に魔力操作を教えられ、その時に気絶したこと。すぐ最近に起きたことに恥ずかしい気持ちも、忘れたい気持ちも胸にあったが、それよりも夢の内容が忘れることが出来ない。
ぼんやりと霧がかった景色の先でアドルとアインが対峙している。それを見守るエレナは二人ともと同じ距離で、必死に伸ばす手はかき消えた。その次の瞬間にはアドルとアインの影が重なっており、その先は見えなかった。
「……本当にただの夢?あまりにもおかしい。こんなに飛躍的に魔力の扱いが上手くなるなんて……。」
そう呟くエレナの魔力操作はアドルよりもずっと精錬されており、執事服とも遜色がない。あまりに精錬された魔力はエレナの意識を介することがなくとも、心臓から中心に身体の隅々まで循環している。
エレナの身体に宿る強大な魔力は余すことなく肉体強度を引き上げるのに使われており、大人と同等程度の身体能力を発揮できるだろう。今この瞬間においてアドルとアインの両者と比べて、戦闘能力が優れているだろう。
エレナが魔力を身体の中で巡らせていると魔力が火の粉になって、身体を覆う。赤く発光する己の身体をまじまじと見つめるエレナの瞳は魔力を正確に分析して、状態を把握していた。
「……っ。ぐっ……。夢の内容も鮮明でないし。ただの夢よね。」
エレナがぱっと魔力を散らせると火の粉は宙に溶けるように消えていく。彼女の周りをふわふわと漂う残留魔力をその瞳で見ながら、夢の内容へと思いをはせていく。
が、夢の内容は詳しいことを伝えてはくれない。そればかりか頭をずきずきと痛めて踏み込めないように思考を阻害する。鮮明でない夢程不確かなものはなく、得体のしれない違和感を胸に抱きながらも、夢であると断ずるほかない。
夢であると思考がシフトするにつれて頭の痛みが引いていき、エレナはこれ以上夢のことを考えるのを止めた。
「それより私は肉体を鍛えるのがよいのかしら?」
夢。そんなことよりも今は魔法のことだ。折角魔法というものに触れる機会があり、魔力操作も相当のレベルにあるのだ。今から鍛えればきっと面白いことになるだろう。
エレナは自分が形作る魔力を思い出す。攻撃性能に特化し、魔力の質も無属性に偏っている。淡い赤色の魔力を。その肉体強度を上げろと言わんばかりの魔力は随分と分かりやすく、直情的なエレナの性質には合致していた。
拳を二度、三度と握りしめるとエレナはベットから立ち上がり、ぐっと背伸びをした。魔力操作が出来るようになった影響か、頭からつま先まで一本の芯が通ったように美しい姿勢で隙なく歩き出す。
「ふふふ。少し楽しくなって来たわね。若い肉体に身体強化向きの魔力。伸びしろしかないわね。って、何言ってるのかしらね。」
今でも大人に並ぶ程度の実力を持つエレナが才能のままに視聴したらどうなるだろうか。きっとアドルやアインでさえ近接戦闘で敵わなくなるであろう未来がよくよく見えた。
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