第6話


「祭りの後、後の祭り」

      (第六話)


        堀川士朗



死霊祭り。

この村唯一の商店街。

ゾンビたちはみな和柄や、目がチカチカする原色のアロハシャツを着て歩いていた。

ボロボロの衣裳ではかわいそうと思い、村の人たちがゾンビに派手な衣裳を着せているのだ。

命懸けの作業で。


沿道の観光客らはにわかにウキウキと賑わいを見せ、彼らゾンビに拍手や歓声を惜しみ無く送っていた。

外国人観光客の姿もあり、カメラで写真を撮っていた。

祭りの一部始終がとても見やすい有料観覧席も設けられている。

宝たち三人はフェンスが組まれている沿道から祭りを見ている。


「これ!これ何?弘子!」

「死霊祭り。死者を偲んで感謝して、生きる喜びを分かち合うことを目的としているお祭りよ。慶長年間から続いてる。こうやって私のふるさと志出村では死を身近に見つめて来たんだよ。二人を旅に誘ったのは、この死霊祭りをどうしても見せたかったからだよ」

「お、お、お……」

「ここの死霊祭りは祇園と一緒で、おいで、おかえりと声をかけるの。死者に」

「そうなんだ。怖いな」

「怖くないよ。不用意に近づかなければ平気。噛まれないわ」



ゾンビの群れ。

生前、近所でも仲の悪さで有名だった加賀谷と村井のじいさんゾンビが肩が当たったかで掴み合いのケンカをしている。

村井の長く伸びたドス黒い爪が加賀谷の腐った肌に食い込んでいる。


「ぐお~」

「ぐえ~」


加賀谷は村井の胸ぐらを掴んだ。

ビリビリと音を立てて村井のアロハシャツが破れ、腐った胸元があらわになったのが非常に生々しかった。

他のゾンビたちは我関せず無関心でぞろぞろと通り過ぎて行く。


加賀谷と村井はお互いの頭を手で掴んでシェイクシェイクしてブルブルと脳を揺らし、ブレインダメージを与えているようだった。

本質的にゾンビの脳が弱点という事をも、彼らゾンビ自身が自覚しているのだろうか。


「くえっけ」

「くかお」


加賀谷と村井はバターンと倒れて痙攣し、しばらく起き上がって来なかった。

有料観覧席からはそのユーモラスな姿に笑いが漏れていた……。



            続く


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