STORY 10  凍結された渡辺君と、心の中の永遠

//SE(冬の風:乾いた葉を巻き上げる「ヒュウ…」。遠くの足音:コートの裾が揺れる「コッ…コッ…」)


高校に入っても、渡辺君を忘れることはなかった。

家の前を通る道を下れば、N高校がある。

渡辺君が通っている高校。


でも……それが、なんだというのだ。


わかっていても、

意識せずにはいられなかった。


(こんなに近い場所にあるのに……

やっぱり渡辺君と会うことは、二度とない)


//SE(ガラス越しの風音:「ゴォ…」と鈍く響く。窓に当たる風が、内側の静けさを際立たせる)


N高の前を通るたびに、

道から見える体育館の2階の窓を見つめていた。


(渡辺君……

バスケット、続けてるかな?)


//SE(新聞紙:手元で「パサ…パサ…」とめくる音。教室のざわめき:笑い声と囁きが混じる)


ある日、校内新聞のコメント欄を読んでいた。


「お姉さまが、黄色いトレーナーとジーンズで……

とても素敵なお姿に、私たちはちょっと騒いでしまったのよ」


同級生が、私を見てニヤッと笑った。


「これ、あなたのことだって知ってた?」


(えっ……? こんな眼で見られてんの?)


「宝塚歌劇団みたいなもんよ」


(気持ち悪い……

私は、男の子じゃないし……

タカラジェンヌでもない!

そんな眼で、私を見ないで!)


//SE(囁き:「きゃわっ」「きらっ」と耳元で弾ける。視線のざわめき:複数の視線が交差する「スッ…スッ…」)


耐えられない……。


//SE(山道の風:「サァ…」と木々を撫でる。足音:砂利を踏む「ジャリ…ジャリ…」)


私は、人通りのない観光道路を通って、

N西女子高の裏口へと通学するようになった。


その道を東へ下ると、N高校がある。

運動部のランニングコース。


夕方、道路を降りていると、

N高校の男子生徒とすれ違うようになった。


//SE(葉の音:「カサ…カサ…」。果実:「プチッ」ともぎ取る音。騒ぐ声:笑いと小さな叫び)


秋になった。

私の家は道の下に建っているので、2階が玄関だ。

我が家のプラムの樹は背が高く、一番おいしい部分が上の道からもぎ取れるので、失敬していく輩が多い。


たまたま1階から2階へ続く外の道を登り始めると、プラムの樹に男子生徒たちが群がっていた。


//SE(ため息:「ふぅぅ…」と長く、重く)


「この樹は自生してるんじゃなくて、わが家のものなんですよ?」


言った瞬間……

私は眼を見開いた。


(えっ……?)


しゃがんでいた男子が、プラムを半分かじったまま、

私をびっくり眼で見下ろしていた。


(わ……渡辺君?)


彼だ。

少年の顔つきじゃなくなってる。

でも……まぎれもなく、渡辺君だ。


(どっきん……どっきん……どっきん……

まさか……自宅で会っちゃうなんて)


いち。

に。

さん。


(この間合い……水場で見つめ合った時間と同じ)


渡辺君は、立ち上がって逃げ出した。


(私……渡辺君に……怒った声で注意しちゃった……)


//SE(心音:連続する「ドクン! ドクン! ドクン!」。定位は頭内、テンポは加速)


心臓が、破裂しそうだった。


//SE(足音:近づいてすれ違う「コッ…コッ…」が交差。視線:空気が揺れるような「スッ…」)


それから私は、N高校の生徒が登ってくると、

渡辺君を探すようになった。


(あっ……登ってきた)


お互いに、気がついてからすれ違う直前まで、眼が合う。

でも……すれ違う瞬間、視線は絶対に交わらない。


(どきんっ……どきんっ……どきんっ……)


本能的に、心臓の音が重なっていると知っていた。


それでも……

私たちは、歩み寄ることはなかった。


「なんとも思ってません……」


(そんな素振り……私、上手すぎるよ)


//SE(雪:空気に溶ける「サラ…サラ…」。無音に近い静けさ)


冬になり、観光道路にも根雪が積もった。

運動部員が登ってくることもなくなった。


(これで本当にもう……

渡辺君と……

二度と会うことはないだろう)


//SE(静かな風:「スゥ…」と耳元を撫でる。記憶のざわめき:遠くで響く心音や囁きが混じる)


その後、ふたりの人生が接することはなかった。

でも、心の奥底に残っている彼の姿を、私は忘れなかった。


(渡辺君……渡辺君……渡辺君……)


この呟きを、辞めることはなかった。


彼は15歳のままだった。

17歳の姿も、鮮明に残っている。


でも……

その年齢で、私の中に住む渡辺君の姿は……


凍結したのだった。

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