STORY 5  1枚の写真と1センチの浮遊

//SE(高地の夏風:葉を揺らすような柔らかさ。遠くで登山靴が岩を踏む音が断続的に響く)


夏になった。

3年生は恒例の夏山登山。

3000m級の山を、2組合同で登る。


1組と12組。

2組と11組。

3組と10組。


(10組? 渡辺君と一緒に登るの?)


//SE(登山靴が砂利道を踏む音「ザッ…ザッ…」が連続。リズムは一定)


3組と10組が並んだ。

男子にしては背が低い渡辺君の背中を、

女子としては背が高い私は、後ろから見つめていた。


(ドキドキ……)


渡辺君は、加藤君と話しながら登っていた。

私は、ただ黙って、後ろから見ていた。


//SE(廊下のざわめき:話し声と足音が混ざる。掲示板の紙が風で「パサッ」と揺れる)


後日、廊下に登山の写真が張り出されていて、

自由に注文できるようになっていた。


私は、自分が映っている写真を探していた。


(え?)


//SE(心音「どきんっ」:鋭く一拍。定位は胸元から耳の奥へ)


1枚の写真に、眼が止まった。

昼食の時の写真だった。


私がクラスメイトと昼食を摂っている。

その斜め後ろに……渡辺君がいた。

加藤君と一緒に。


(こんなに近くにいたの?

渡辺君と一緒に写ってる……)


//SE(高音のベルがゆっくり上昇するような「ふわぁ〜ん」。空間が軽くなる演出)


私には、宝物に思えた。

ツーショットじゃないけれど……

それでも、1枚の写真に一緒に写っている。


(ふわぁ~ん……)


身体と心が、床から1センチ、浮き上がった気がした。


でも……

とても恥ずかしくて、番号を書けずに見つめていた。


(何を迷ってるの?

これは、自分が昼食を摂ってる写真じゃない。

渡辺君が写ってるから買おうとしてるなんて……

誰にも、知られっこないじゃん)


//SE(鉛筆を握る音:指が震えながら紙に触れる。書く音は細かく、筆跡が重なる)


私は、鉛筆を握った。

震える指。

心臓が、激しく胸を打っていた。


(どきっ……どきっ……どきっ……)


(ええい!)


//SE(紙が箱に触れる音「カサッ」。軽く乾いた音が空間に残る)


私は、写真を注文した。

気恥ずかしいけれど……

すごく、うれしかった。


そそくさと箱へ注文票を入れて、

その場を走り去った。


//SE(足音:軽く跳ねるような「トン…トン…」。心音「どくん…どくん…」が重なる)


(渡辺君と一緒に写っている写真。

きっと、最初で最後だ……

これを、奇跡っていうんだろうな……)


飛び跳ねる心臓の音と同じくらい、

私の足取りも、飛び跳ねていた。

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