第15話 選択の夜

夜の交差点。

赤信号が点滅を繰り返し、ヘッドライトの群れが遠くで瞬いていた。

その場に立っただけで、胸が潰れそうになる。

――あの日の光景を思い出すから。


「本当にやるの?」

未來の声が震える。

制服の袖を握りしめる手も冷たかった。


僕は頷いた。

「これが最後のチャンスだ。……囮作戦を完遂する」


羽村が少し離れた場所でスマホを構え、信号機の動きを解析している。

「準備はできてる。……でも、本当に大丈夫か?」


「大丈夫じゃないさ」

笑おうとしたが、声は掠れていた。



信号が赤に変わる。

時計の秒針が逆に回りはじめる。

その瞬間、背後でノイズ混じりの声が流れた。


『これで終わりだ。犠牲は避けられない』


御影の声。

どこからともなく響く。


未來が必死に僕の手を握った。

「やめて! 犠牲なんて……いらない!」


でも、答えは分かっていた。

交差点に立つのは僕しかいない。


「未來。もし俺が――」

言いかけたとき、彼女が叫ぶ。

「やめて! そんなこと言わないで!」


次の瞬間、轟音。

ヘッドライトが迫る。

赤信号の中、トラックが突っ込んでくる。


心臓が止まりそうになる。

――また同じだ。

俺は死ぬ。


未來が飛び出した。

「やめろ!」

彼女の体を抱き寄せ、必死に押し戻す。

「俺が囮になる! お前は生きろ!」


ヘッドライトが目前に迫る。

時間がゆっくりになる。

未來の瞳が涙で濡れていた。


「違う……! 今度は私が君を守る!」


彼女が叫ぶ瞬間、世界が閃光に包まれた。


――トラックが急停止したのだ。


運転席を見上げる。

誰もいない。

ハンドルは自動で動き、ライトだけが虚しく点灯している。


羽村が駆け寄ってきた。

「遠隔操作だ……! 車自体が“操られてる”!」


御影の声がまた響く。

「犠牲は避けられない。お前が死ななければ、彼女が死ぬ」


未來が僕にしがみつく。

「そんなの、選べない……!」


赤信号が夜を染める。

心臓の鼓動が痛いほど響く。

――愛か、真実か。


僕は決めなければならない。

この夜が、“選択の夜”だから。

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