第26話 へー、春人はカップルになら見えると思ってるんだ

 一夜が明けて土曜日に突入した現在、俺は朝から紗奈と一緒に勉強をしている。特に遊んだり雑談をしたりすることなく二人で黙々と勉強をしている感じだ。


「そろそろお昼ね」


「あっ、もうそんな時間か」


 紗奈の声を聞いて机の上に置いていたデジタル時計を見た俺は、いつの間にか長い時間が経過していたことにようやく気付いた。


「お昼ごはんはどうする? どこかへ食べに行くか、デリバリーを頼むのもありとは思うけど」


「せっかくだからお昼ごはんは私が作ってあげるわ」


「えっ、それは結構手間じゃないか?」


「別に大丈夫よ、勉強を手伝って貰ってるお礼もしたかったし」


「じゃあお言葉に甘えることにしようかな」


 悪いとは思いつつも紗奈の作ったお弁当の試食係をしているうちに完全に胃袋を掴まれつつあったため魅力には勝てなかったのだ。


「……あっ、でも冷蔵庫の中に食材とかが全然なかった気がするぞ」


「それなら今から買いに行きましょう、春人もついてきなさいよね」


「ああ、勿論」


 俺達は家の戸締りをしてから外に出る。五月も後半戦に突入したこともあって一ヶ月前よりも明らかに暑くなっていた。来月からは夏服の制服に衣替えをするため、もっと暑くなっているに違いない。


「それで昼は何を作る予定なんだ?」


「オムライスとかどうかしら? 昔からあんたの大好物だったと思うけど」


「マジか、めちゃくちゃ嬉しい」


「春人のために作ってあげるんだから喜びなさい」


 紗奈は自信満々な様子なためクオリティはきっと期待できるはずだ。ますます紗奈から胃袋を掴まれてしまう気しかしない。

 それからスーパーに到着した俺達は二人で店内を歩き始める。土曜日の倉敷駅前のスーパーということで店内はかなりごった返している様子だ。

 普段はコンビニで買い物をするパターンが多くスーパーにはあまり来ないためどの辺りに何があるのかいまいち分からない俺だったが、紗奈が全部知っていたので特に問題はなかった。


「こうして二人で食材を買いながら歩いていると新婚夫婦って感じがしない?」


「年齢的に新婚夫婦にしては明らかに若すぎるし、せいぜいカップルだろ」


「へー、春人はカップルになら見えると思ってるんだ」


「あ、あくまで新婚夫婦よりはカップルに見えるって意味で言っただけだから」


「そういうことにしておいてあげるわ」


 何も考えずに口にした言葉に対して盛大にツッコミを入れられて恥ずかしくなってしまった俺は思わずそっぽを向いた。以前の傍若無人だった頃よりも優しくなったが、時々こんなふうに揶揄ってくるため、ある意味攻撃力はめちゃくちゃ高くなった気がする。


「そう言えば今日は春人のパパとママはいないのよね?」


「ああ、父さんは出張で母さんは大学時代の友達に会うとかで京都に行ってるから二人とも帰ってくるのは明日の夕方とかだ」


 俺が小学生くらいであれば二人同時に一日家を空けるようなことはしなかったと思うが、もう高校生なので数日いないくらいは全く問題ない。


「それなら今日の晩御飯も私が作るわよ」


「えっ、いいのか?」


「そのくらいお安い御用よ、カレーライスにしようと思うからついでに材料を買って帰るわね」


 紗奈はオムライスの材料と一緒にカレーライスの材料も買い物かごの中に入れていく。野菜や肉などを手に取り状態などを素早く見極めている姿は明らかに慣れた様子だったため、やはり紗奈も成長しているんだなと改めて思わされた。

 どんどん魅力的になっていく紗奈を見て嬉しさを感じる俺がいる一方で、だんだんと遠い存在になっていくのではと寂しさも感じている。

 つい最近も告白されていたし、こうやって二人で過ごす時間は減っていくに違いない。そこまで考えるとちょっと胸が痛くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る