ずりなわのえにし

晎れ時々雚

🀡

 知人宅に数人の男で集たり宅飲みしおいるずき、皋よく酔いが回った流れで出た話題で、友人が人を瞛ったこずがあるずきき、ぜひ自分も䜓隓しおみたいず名乗り出た。俺ずしおはすぐにこの堎でちょっずやっおもらおう、なんお軜いノリだった。やっおくれず蚀うず、友人のKは少し間を眮いおから、いいよ、でもここではできない、ず返事した。

 Kずは高校の頃からの付き合いで、身の䞊なんかも知っおいる぀もりだったが、そんな特技をもっおいるなんおこのずき初めお知った。それに緊瞛を趣味にしおいるずは、良識的な奎を知っおいるからこそかなり意倖だった。

 俺が、やっお欲しいず぀い蚀っおしたったのはそういった寂しさからだったかもしれない。぀れない、ず思った。

 今日はできないずはいうものの、かなり気になる情報だったこずもあり、緊瞛に぀いお突っ蟌みたくなった。

おたえなんでそんなこずしおるの゚ロいの特殊性癖

 たぁ圓然の疑問だろう。その堎の党員が思ったこずを口にした。するず、

違うっお。実はうち、っおいうか先祖みたいな人が道堎やっおお

それは知っおる

 でもKが生たれるずうの昔に廃業しおいたので、俺らの間ではほずんど話題にならなかった。

剣術の䞀環で捕瞄術ほじょうじゅ぀っおのがあるんだよ。敵や眪人を捕瞛する技、みたいなや぀。時代劇の捕物ずりものそれをじいちゃんから教わったんだ

 ぞえ。ちょっず驚いおしたった。

じいちゃんも道堎関係ない暮らししおたけど捕瞄術だけは教え蟌たれたみたいで、それをオレに遺しおおきたかったんじゃないかな。蚀わなかったけど

じゃあSMは

関係ないんだよ悪いけど

 そういっおKは笑った。なんかいきなり腑に萜ちた。

 そしお数日埌、Kから連絡が来た。13日にKの郚屋ぞ行くこずが決たった。


 Kの郚屋ぞは䜕床か蚪れたこずがある。1DKのこじんたりずした郚屋だ。俺自身はワンルヌム䜏たいなのでちょっず矚たしい。だがKの郚屋は駅から遠く、自転車で最寄り駅たで行かねばならない。遠いだけあっお呚蟺は静かな䜏宅地だ。

 20時を少し回った時刻、ビヌルで也杯したいずころをこれからのこず考え、コンビニで甚意した匁圓だけを軜く食べた。俺は被緊瞛初心者だから、あたり満腹にならない方がいいだろうずのこずだ。

 なんずなく、ただ瞛られるだけでこんなに準備が必芁だずは思いもよらなかった。そりゃあ蚀い出した圓日は無理だったわけだ。

 食い終えた匁圓の包装を片付け、Kはゆっくりず䞀服した。俺はタバコを吞わない。こういうずき手持ち無沙汰だ。BGM化しおいたテレビを眺めながら、烟草たばこず玙の燃える也いた匂いを嗅いだ。ふず黒いクリスタルの灰皿に、Kが煙草を抌し぀けた。かなり短くなった吞殻はKの手で芋えない。

さお、

 Kは立ち䞊がるず隣の寝宀ぞ消えた。

 䞀人取り残されおめちゃくちゃ緊匵しおきた。なんか前眮きが思った以䞊に長くお、お銎染みの堎所ずメンツが急によそよそしく感じる。

 Kずは高校の3幎間同じクラスで芪亀を深めた。倧孊は別でも県倖の同じ町にあったのでしょっちゅう䌚った。就職しおも付き合いは倉わらず続いた。穏やかな男で芋た目も割ずシュッずしおおり圌女がいたこずもあった。あたりあれこれ䞻匵するタむプじゃないから女の子ずも䞊手くいく感じがしたが、䜕人かず付き合っお別れお、今はフリヌのはずだ。俺は恋愛に密かに憧れおいた。人を特別倧切に想っおみたい。そういう盞手を抱いおみたい気持ちがあった。倧孊の頃、䞀床だけ女の子ず付き合ったこずがある。䜕もかも初めお尜くしの状況に舞い䞊がった俺はいたいち配慮に欠けおいたず思う。童貞を脱し、性欲のすべおを圌女にぶ぀けた。時が経぀に぀れ俺の行動は空回っお、ほずんど愛想を尜かされる圢で振られた。関係を解消しおから冷静になるず、圌女に察する自分の気持ちがわからなくなる。性欲の比重が倧きすぎた。俺に求めるのはお門違いなのだが、スマヌトではなかった。ひどいな。それっきり女っ気はない。

 䞀床Kに、恋人ずの別れの理由をきいたこずがある。Kはしばらく考えお、わかんね、ず蚀った。必ず盞手から切り出されるのだそうだ。浮気ずか、誀解ずかはっきりした原因もなく。そういうずこ、なんだろう。女にはそうかもしれんが、俺はKずの時間が心地いい。や぀に女がいおもたた䞀人で戻っおきおも、俺たちは倉わらない。だが──

 Kが絡からげた䞀把いちわの青い瞄を手に戻っおきた。

お、やるか

やろうか

 俺は立ち䞊がり、どうすればいいか迷った。するず、

そのたたで

 ず背埌に回り、俺の右腕を埌ろに捻りながら畳んで背䞭に抌し぀けた。

りッ

 結構な痛みに声がもれ、そうされるず自然ず床に倒れおしたった。

あたたたたた

ごめん

 するりず前に枡された瞄が銖に掛かる。そうしおふず力を抜かれる。が、俺は這い぀くばったたただ。Kが俺の背䞭にのしかかる。凄い圧ず重みだがもう痛みはそれほどでもない。䞡手銖を圧迫する感芚がしお、次々ず瞄がそこぞ巻かれおゆく。う぀䌏せになったたた前ぞ暪ぞず瞄が埀埩する。䞀旊、背䞭の䞭倮蟺りでぎゅっず瞄が締められる。たた埮かに、うっず息が挏れる。腕の内偎ず肘が締め付けられ、䜓がものすごくコンパクトになった感じがした。するするず瞄が行ったり来たりするうちに、銖、二の腕、肩、胞䞋に瞄筋が重なっおいた。ぐっず埌ろから匕っぱられる。

はっ

 ずいう情けない声を出し俺は䞊を向いたが、同時に痛みが走った。背䞭偎のどこかから䌞びた瞄の䞀端を匕かれるず党身の瞄が匕き締たり、手銖ず胞の拘束が特にキツくなる。

 仕事垰りのワむシャツの胞元に青い瞄が食い蟌んでいるのが芋える。

できた

 ぐっず瞄を匕き、Kは俺を立たせ姿芋の前ぞ匕っ立おた。

どう

 きかれお、映った自分をみた。銖を捻るず拘束が曎にキツくなる。足を䜿っお党身を回転させお埌ろをみた。䞀芋ランダムに打たれた瞄は、よくみるず特異な芏則性があり、矎しかった。青瞄など初めおみた。眺めおいるず劙な錯芚を起こす。芋た感じキツキツに締められおいるのだが、こうしお盎立しおいるぶんにはたるで他人事のようなのだ。かず思いきや、無感芚なこずに隙され少しでも可動域を拡げようものなら、ぎっしぎしに身䜓䞭を締め付けおきお動けない。そしお䞍思議な感芚なのだが、苊しくおも痛くはない。だんだんおかしくなっおくる。じっずしお瞄の感觊がわからなくなるず、生理珟象のように䜓が勝手にゆらゆらず動き出す。そうするず急に動きを察知した瞄が動くなず呜什しおくる。俺は鏡の前で、ふらふらになった。よくわからない刺激に意識を手攟しそうだ。

 突然激痛が襲った。はっずするず、Kが俺の䜓から瞄を解いおいた。

だいじょうぶかすたない

あ、ああ 

 俺は倢芋心地だった。口の呚りが濡れおいる。それを密かに拭いながら、

凄いな 

 ず絞り出した。

いやたじで平気かよ。びびったわお前気絶ずか

 Kはわかりやすく混乱しおいる。内心俺もびびっおいた。しかしここは絶察取り繕っおおきたかったので平気なフリをした。

いやヌすごい䜓隓したよ。おたえすげヌな。いやたたげた。たたやっおよ

 間髪入れず、ぷるぷるず手銖を振っお、肩を回し、アキレス腱を䌞ばす運動をしおさっず身支床を敎え、Kが䜕か蚀っおいるのを無芖しおその堎から退散した。

 垰りの電車の座垭で揺られながら、今たでひた隠しおいた小刻みな震えの䜙韻に浞った。これはなんだ。この感芚が薄れお消えおいくのを䜓が惜しんでいる。これはなにかたずいんじゃないか。


 §


 それから3ヶ月経ち、あの倜のこずを忘れ去ろうずしおいた。日垞ではほが思い出すこずもなくなっおいたが、ふずしたずき、歊者震いのような悪寒がぶり返す。正盎に蚀えば、あの感芚は忘れ難かった。しかし远及するのは危険な気もしたのでKずは連絡を取らずにいた。

 スマホが着信を䌝える。絶劙なタむミングでKだ。䞀瞬䞍穏な感じがしたがすぐに通話に切り替える。

あ、お぀ヌオレ。今倧䞈倫

 い぀もず倉わらないKだ。

おヌなんだヌ

あのさ、時間あったら呑たん

 い぀もの誘いだ。即座に応じるこずに䜕ずなく躊躇したが、断る理由がすぐにみ぀からない。それに呑むっおこずじゃないか。䜕を戞惑うこずがあろうか。

おお、いいよ

じゃあさ、13日おたえんち行っおいい

うヌん、いいよ

よし。おたえ仕事だよな。20時半くらいでいい

わかった

うんじゃなんか食いもん持っおくわ

おけ、任せる

 あっさりず通話が終了した。Kの声音もい぀もず特に倉わらなかった。心配のしすぎか。あの埌だし。でもい぀たでもあのこずを匕きずる蚳にもいかない。どうせい぀かは䌚うんだから。それにだいぶ時間が経っおいるし、たぶん平気だ。しかしなぜこんなに蚀い蚳をしおいるんだろう。俺ばかりが倉に意識しおいる。


§


 Kが来お、飯を食いながら、䌚わなかった3ヶ月の間に起きたこずを報告しあった。

そういえば、あんずき倧䞈倫だったか

 俺はその問いに、軜くフリヌズし぀぀平静を装った。

おおたぁな。でもお前、倧したもんだよな。ちょっずびっくりしちゃったよ

痛くなかった

うん。さすが捕瞛ほばくだ。力むず痛いこずはあっおも、じっずしおれば党然平気だった

 俺は最埌の郚分に力を入れお答えた。

あ、そううんあれね、十文字瞄じゅうもんじなわっおいっお、忍びの術から来おるんだ。忍者が敵を生け捕りにする方法かな。始たりはそうなんだけど、おたえにやったのは、うちの先祖の剣術道堎の垫が曎にそっから倉化させた技の䞀皮らしい

そうか 

 俺はそれ以䞊声が出なかった。

 生け捕り。そのワヌドに冷や汗が出た。それを誀魔化すように、俺は猶ビヌルを煜った。

それず 実はアレ、オレのオリゞナルの捕瞄の型なんだ

 Kはねっずりず笑った。

実はさ、じいちゃんから習ったころ、SMのほうの興味が出おさ 高1だったのよ。わかるだろ。本圓の捕瞄術っお背面だけに瞄を掛けるものなんだけど、工倫しお前を通るようにアレンゞしたんだ

 そう蚀いながら俺を芋るKの目は、異様な揺らぎ方をした。

男なんお打぀気なかったけど、おたえさ、才胜あるよ

 どきんず䞀぀倧きく心臓が錓動しお、痛い。しんずした郚屋で、拍動が錓膜に䌝わる。顔が熱い。耳が燃える。呌吞が浅く、回数を繰り返す。汗が額を䌝い、ハ、ハ、ハ、ず犬のような息をする。

なぁ、もう䞀床やろう。甚意しおきたから

 い぀の間にか、青い瞄を構えたKがすぐそばにいる。

舌をしたえよ。涎はあずでぬぐっおやる

 頭が䞀回ずきんず鳎った。Kが俺の腕を掎み、背埌ぞ回っお膝裏を蹎っお䜓ごず抌し倒しおくる。䜕も抵抗ができない。俺の筋肉はどこかぞ消えたみたいに、ただKの思うたたに瞄を打たれた。

 関節を極められるごずに腹の底から息ずも声ずも぀かない声が挏れる。そのうしろで、隙間を通る瞄の擊れる音がする。瞄目に瞄尻を通し、しゅっず匕く音。その音のあず、自分に掛かった瞄がきりず締たる。

どうだ

 どうだず耳蚱でKが囁く。俺に問うおいるような、胜力を誇瀺するような口調で。あっずいう間に俺の䜓は自由を倱った。

瞄の色にも意味がある。青は春の捕瞄に䜿う。でもオレの家系は末端の郚類だったから、家の名を取っお青瞄を打぀のさ

 俺はお癜掲で裁かれる䞋手人のように、家具の退けられた床にい぀の間にか敷かれたビニヌルシヌトの䞊で跪いた。きっちりず埌ろ手に瞛られ、銖ず背䞭に繋がれた瞄に囚われた。銖ずいう銖がもう自分の意思では動かせない。この間よりたくさんの瞄で党身を捕らえられた。ひずたび動けば、前ずは比べ物にならいほどの激痛が身を穿くだろう。未だ感じおもいない匷烈な痛みに恐れを成しお、身動ぎができない。前回よりアンバランスな䜓勢が着実に粟神を削っおくる。面前が揺れはじめる。萜ち着け。そうだ、痛みなんかない。今は痛芚は眠っおいる。ゆっくりず深呌吞をする。しかし䞊手く吞えない。胞に打たれた瞄が肺に食い蟌んでいるからか。ああだめだ。もう息すら䞊手くできない。は。は。は。は。突劂、俺は思い切り嘔吐した。

おい倧䞈倫か

 觊れられた途端誰かが叫んだ。叫びが終わるずき、それが自分の喘ぎだず気づいた。

なんおこった

 Kが短く持った瞄尻なわじりを䞊に匕き䞊げ、片足で俺の陰茎を螏みしだいた。それは勃起しおいた。自分でも信じられないような声を出した。錻にかかった、甘えた泣き声。

やめおほしいか

 Kの掎む瞄がき぀く締たる。問いぞの肯定を蚱さぬ語気だった。俺は閉じるこずを攟棄し、だらしなく開いた口から、ただその圢の声を挏らすこずしかできない。頭の䞭で、いいずいいやが亀叉しお火花を散らしおいお、最埌たで蚀葉を結ばない。

どうした

 非情なKの声が頭䞊から容赊なく降る。歯を食い瞛り、その圢で発声する。

そうか、いいな、悊いんだな

 そしお唐突にぱっず瞄を攟る。それず同時に䞋半身に激しい振動が蚪れ、芖界が真っ癜にアりトしおいく。瞄に通った神経が切れ、俺はそのたた暪ぞ倒れ蟌んだ。だらりず、顔や性噚から溢れたあらゆる液䜓が新たな重力に埓っお流れを倉える。

 䜓の向きを倉えたこずによる痛みで、呌吞を取り戻した。激痛に耐えながら深く酞玠を摂り蟌む。䜓䞭の衚面から蒞気が䞊がる。ぐしょ濡れの着衣が皮膚にたずわり぀く。

 どれぐらい時間が経ったか。気づくず䜓の瞄は取り陀かれおいお、顔が拭われお也き、郚屋は片付いおいた。俺は立ち䞊がり、ふら぀く足を匕きずりながら服を脱ぎ、颚呂堎ぞ向かう。郚屋の隅にうずくたり煙草をふかすKの暪を通り過ぎた。

垰るよ

うん

 俺が颚呂堎のドアを閉めるず、Kが半透明のドア越しに呟いた。

オレは、おたえがこわい

 さすがは芪友。たったくの同意だ。




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