消えた弁当箱
@yujis
第1話 事件
10月1日 水曜日 午前8時50分
彩中学校 1年1組教室
俺の名前は道大助。1年1組に所属している。趣味は謎解きだ。
1限目は体育の授業で、教室から移動し、校庭のグランドに移動する必要がある。
10月1日 水曜日 午前9時
彩中学校 グランド
10月13日には体育祭の開催が予定されており、それまで体育の授業では各個人が体育祭で出場する種目に合わせて練習など自由に行うことができる。俺は100m走に出場するため、同じ種目に出場する3人の男子メンバーで一緒に走る練習をすることにしていた。
「よーい、ドン‼︎」
「うらぁあああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
大きな声を荒げながら走り出したのは、陸上部の竹井爽だった。俺と一緒に100m走に出場する予定だ。こいつは兎にも角にも声を張り上げる熱血で時に周囲を煩わせる奴だ。
「よっしゃぁーーー、俺が一番だぁー‼︎‼︎‼︎」
「お前、本当に、はえぇーなぁ…。はぁはぁ」
俺は改めて感心した。陸上部って本当に足が速いと。しかもぶっちぎりだ。俺との差は30mは離れていたと感じる。
「っで、爽は何秒で走ったんだ?」
もう1人一緒に走った色鳥豊が計測してくれたクラスメイトに質問した。
「爽すげーよ‼︎ お前11秒80だ‼︎」
「11秒80だって⁉︎ 自己新記録かもしれねぇぜぇ‼︎‼︎」
「ちなみに俺たちはどうだったんだー?」
「お前ら…、同着で13秒90だ。まぁまぁ速いんじゃねーの?」
まぁ、悪くない気がするが、爽が速すぎるだけに頗るタイムが悪く感じる。
ただ運動部と比較するとあまり速くないかもだけど、逆に言えば、運動部の人と当たらなければ、いい勝負はできる気がしている。
「当日は頼むぞ、お前ら‼︎ 俺は1位取れるとして、できるだけ上位目指してくれよ?」
「ちっ、頑張らせていただきますよ…」
残り2週間を切っている体育祭に向けて、3人で走り込みとトレーニングを続けた。
10月1日 水曜日 正午
彩中学校 1年1組教室
体育の授業が終わった後は教室に戻り、授業を受けていた。
正午になり、お昼ご飯の時間になった。俺はいつもこの時間、仲の良いクラスメイトと食べることにしている。
「豊ー、今日も飯食おーぜー」
「おーう。ちょっと待ってくれケロぉ〜」
豊の家の弁当は彩が非常に豊かで、いつも美味しそうなおかずが並んでいる。
栄養バランスが考えられているため、健康意識の高い親御さんを持ったようだ。
「あれ?」
「どうした、豊?」
「弁当持ってきたはずなんだけど、鞄に入ってなくて…」
「持ってくるの忘れたんじゃなくて?」
「いや、朝父ちゃんが俺に直接渡してくれたんだ。その場で鞄に入れたから流石に忘れたとか考えられないな」
「お前の弁当いつもお父さんが作ってくれてんだよな」
「そうそう。母さんはいつも茶色い食べ物ばっかり好んで食べるから、緑色の食べ物を増やすために父ちゃんが作るって」
「いいパパだな」
「もう家政父って感じだよなぁ」
「時代を感じるってやつか」
「あれ〜、やっぱないなぁ〜。んー、仕方ない。腹減ったし、購買で買ってくるわ」
「いいね。俺も久々に購買行きたいからついて行くわ」
「おっけぇ、行くかぁ」
俺たちはすぐさま席を立ち、購買を目指すことにした。
購買での販売はお昼時間中はやっているものの、他の生徒が目新しい食べ物や飲み物を求めてやって来たりもする。
豊の弁当が買えなくなってしまう前に、足早に購買に向かう。
10月1日 水曜日 午後12時20分
彩中学校 購買部売店
「うわぁー、結構人いるなぁ」
「購買って賑やかで良いよな。偶にしか来ないけど、購買でしか見かけない弁当とか何か懐かしの雰囲気を感じる飲み物とか見つけられるから楽しいんだよな」
「あ、豊じゃん。今日は弁当買ってくの?」
声を掛けて来たのは、購買の売り子をしているおばちゃんだった。
「おばちゃん、聞いてよ。朝弁当を鞄に入れたはずなんだけど、失くなっててさ。ほんとびっくりだよ」
「あらぁ、それは残念ね。豊パパの作る弁当は、あんたの名前にぴったりの彩り豊かだもんね‼︎」
「やめてよ、おばちゃん…。いつもそれ言われると恥ずかしんだけど、その通りなんだよな」
「照れちゃって、良いわねぇ〜〜〜」
「それよりおばちゃん、残ってる弁当ある?」
「あるわよ。豚肉の生姜焼き弁当とかいかがかしら?」
「それ良いね‼︎ めっちゃ美味しそうじゃん‼︎」
「300円で買えるから、経済的にも優しいよ〜」
「300円…、安いね、おばちゃん‼︎‼︎‼︎」
「おばちゃんはねぇ、学生の味方なんだよ。知ってた?」
「よく理解したぁ‼︎‼︎‼︎」
「いいねぇ、おばちゃん、お茶もセットで渡しちゃうからしっかり食べてね〜」
「わ〜い、ありがとうおばちゃん‼︎」
「はいよ、また来てねぇ‼︎」
豊は無事に弁当を入手することができた。おばちゃんの学生に対する意気に燃える姿は、さすが購買の売り子というわけだ。
生姜焼き弁当には、ご飯・生姜焼き・高菜の漬物・少量のキャベツが入っているため、バランスが良さそうだ。近いうちに俺も売店を使って、弁当を買ってみることにしよう。
おばちゃんと喋ったり、目新しいものを探している間にお昼ご飯の時間が過ぎていった。
「やべ、豊‼︎ もう12時50分だぞ‼︎ 早く戻って飯食うぞ‼︎」
「うぉ‼︎ マジか‼︎ 戻るぞ大助‼︎」
俺たちは急いで教室に戻って、弁当をかき込んで食べた。
10月1日 水曜日 午後5時
彩中学校 昇降口
下校時刻になり、俺と豊は帰路に着こうとしていた。
ホームルームが若干長めではあったが、問題ない。
玄関までやって来て、豊が下駄箱を開けると突然驚いた。
「うわ‼︎ なんで俺の弁当箱がここにあるんだ⁉︎」
「お前、弁当箱見つかったのか?」
「なんか下駄箱に入ってやがる。なんでだ」
消えた弁当箱が下駄箱に入っている。何か事件性を感じると俺の直感がアンテナを貼り始めた。
「何かその弁当箱に気になる変化はないか?」
「んー、どうかな。弁当袋の中開けてみるよ」
巾着袋の口を広げ、弁当箱の状態を確認してみると、少し気になることがあったようだ。
「あれ、弁当箱のゴムバンドがないぞ」
「ゴムバンドってなんだ?」
「ほら、弁当箱の蓋が勝手に開いてこないようにゴムバンドなどで留めるだろう? この弁当箱はバンドがないと開いて来ちゃうから毎回つけてるんだ」
「なるほどな」
「中身も見てみるか。なんか軽いな」
「もしかして…、食べられてる?」
「当たり。中身は綺麗に空っぽだ。美味しく食べてもらったみたいだね」
「これはこれは」
案の定、弁当は空っぽだった。綺麗に食べられた痕跡があり、それ以外特に気になるところはなさそうだ。
「なんで俺の弁当が盗まれて、しかも綺麗に食べられたんだろうな」
「そうだな。『豊の弁当、彩り豊か』ってよく言われているでしょ?」
「なんかね。そんなイメージあるみたいだよね」
「食べてみたかったとか?」
「それは声を掛けてくれ」
「そりゃそうだな」
「まぁ、とりあえず弁当箱は戻って来たから良かったよ」
「そうだな。んじゃ、俺の家で逆境裁判やろうぜ」
「おう」
誰が豊の弁当を盗んで食べたのか。
疑問としては残るが、弁当箱は返って来たため、それほど問題視せずに二人で俺の家に帰った。
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