第22話「残された少女」
三人と別れた後、黒白はそのまま国道を目指して歩いていた、道中ヤツらの姿は無かったというよりは、自重を支えられないヤツらは坂道を上り下りすることが出来ない、ゆるい坂ならいけるのかも知れないが、今黒白が歩いている坂は少しだけ急になっていて、そこで行動しようとするヤツらはもれなく下まで落ちて行く……という事は。
「まぁそうだよな」
あと少しで国道に出る事が出来ると思っていた黒白だったのだが、坂道のその先を見て見ると、上る事が出来なかったヤツらや上ったは良いが、落ちた際に当たり所が悪く両足あるいは片足を負傷したヤツらの姿もそこにはあった。
「どうするか…」
今の状態だとどこを進んでもヤツらの姿がある、後ろに戻ればさっきの三人組とヤツら、下に降りて行ってもヤツら…どちらに進んでも戦わざるを得ない状況だ、何か手段がないかと黒白は周囲を見渡すと、小学校の頃に使っていた裏道があった事を思い出した。
「たしか…この辺にあったよな」
周囲を探していると一台の車が狭い小道を塞いでいる事に気が付いた、車に近づき塞いでいるその先を見て見ると。
「あった」
小学校時代に使っていた裏道を見付ける事が出来た、車の車高は低く容易く上に乗る事が出来た、そのまま降りようとすると、先ほどの三人が黒白の事を追ってくる。その事に気が付いた黒白は急いで車の上から降り、裏道を走った
「おいっあいつはどこに⁉」
「何で居ないんだ!」
眼鏡を掛けていた男も予想外の事態に冷静さを失い、周囲を細かく見る事が出来ずにいた
「二人とも待ってよ、置いてかないで」
「こいつはヤバいな、どうするか…」
寛太は自分達の状況が悪い事を感じ、このままでは三人とも命を落とす事も分かっていた、寛太と香奈の間に居るのは彼らの友人が一人、しかしこのままでは三人とも生き残る事は困難、そこで寛太は護身用にナイフを持って来ていた香奈に目配せをした、そのサインが意味する事はただ一つ、ヤツらと戦う事でも、ここから三人で抜け出す事でもない
「
寛太は静かに眼鏡を掛けている男…いや、古くからの友人である茂に声を掛けた
「なんだよ、こんな時に」
茂は周囲を警戒しながらも返事をし、一度寛太に背を向けたその時に寛太は、ポケットに隠していた折り畳みナイフを取り出し、茂の喉元にナイフの先端を付けた
「何の冗談…さすがに笑えないって」
先端で刺した場所からは、そっと血が流れ落ちて来た
「冗談なわけないだろ」
寛太は静かにそして冷酷にそう告げ、首にナイフを突き刺した、それと同時にその光景を見ていた香奈は叫び声を上げそれが周囲に響き渡る
寛太のサインに彼女は、ヤツらとここで応戦すると捉えていたからだ、そしてその声に反応したヤツらが残った香奈と寛太の二人に襲い掛かるが、ショックのあまり立ち尽くす香奈を見た寛太は彼女をその場に残し、逃げ出すのだった。
「なんだ今の声は」
走っていた黒白は香奈の悲鳴を聞き足を止めた
「まさか…」
嫌な予感がした黒白は急ぎ来た道を引き返すと、そこに居たのは血を流し倒れこんでいる茂の遺体とショックのあまり、呆然としている香奈がそこにいた
「もう一人は…」
周囲を見渡してみたが寛太の姿はどこにもない、ヤツらの中にいる訳でも、すれ違ったわけでもない
「ああっくそ!」
一人残された香奈を見捨てる事が出来なかった黒白は再び車の上に乗った
「おいっ捕まれ!」
香奈は手を伸ばせば届く位置にいる為、黒白は精一杯手を伸ばしたが、放心状態となっている彼女は動けずにいた、警棒で道を開こうにも限界があると感じて黒白は腰に手を回して覚悟を決めた
「数発撃ったら、彼女を抱えて逃げるか」
小声でそう呟き、手引書に書かれていた事を思い出した
【両腕を伸ばし、グリップを両手で握り、力を抜き、体感を意識して銃口を安定させる】
体感を意識して銃口を安定させる、グリップを両手で握り、両腕を伸ばす、そして力を抜き、最後に照準を見定め…引き金を…引く…周囲には発砲する事で生じる轟音が響き渡った、黒白も始めての事で驚いていたが、銃弾は香奈の近くに居た複数のヤツらに命中した、その後も数発撃ち、数体のヤツらを倒すと香奈は銃撃音により何とか意識を取り戻していた、銃を下ろし香奈に気が付いた黒白は
「生き延びたいなら来い!」
香奈に声を掛け、香奈は何も言わずに黒白の伸ばす手を取った、それを確認した黒白は勢いよく彼女を引き寄せ、無事を確認してから歩き出すのだった。
黒白は香奈の数歩先を歩き、その後ろを申し訳なさそうにしながら香奈は着いて行く、何度か黒白は後ろを振り返り、着いて来ているのか、問題はないかと確認しながら歩いている。
「あっ…」
黒白が振り向いた時にお礼を伝えたいと思い声を上げようとするのだが、申し訳なさと直ぐに正面を向いてしまうから何も言えずにいた………長い沈黙が続く中で、黒白は立ち止った。
「あそこで一休みしよう」
黒白は香奈の方を見た上で一つのアパートを指差した、香奈の事は見ているが本人が頷く前に再び歩き出した。
「まっ…待って」
歩き出す黒白に必死に追いつこうと走り出すが、その声は恐怖が色濃く感じられた、それでも黒白は彼女の事を信じられずにいた、少し前に話していた内容や何とも言えない不快感が存在する、その感覚は黒白に昔からある感覚だが、その感覚は絶対と言うほど当たる、第六感とも言うべきものなのだろうか。
進んで行く中でヤツらと出くわす事もあるが、黒白は気にも止めず倒して行く、倒れるヤツらと黒白の動きを見て、少し前の香奈とは違い
「ヤツらの姿なんて何度も見て来たろ、さっきもそうだし今もだし、世界がこんなことになってから何日も経っているのだから」
黒白は冷たく言い放ち、それを聞いている香奈は涙ぐんでいた、その様子を見た黒白は溜め息を吐き、そのまま歩き出すと上から雫が落ちて来た。
「雨か…」
空を見上げると、さっきまで晴れていた空に雨雲が広がっていた
「本格的に降ってきそうだな」
スマホで時間を確認すると時刻は14時、スマホをすぐにしまった後に振り返り。
「少し走るぞ」
香奈に声を掛け走り出し向かった先はアパートではなくガソリンスタンドだった、そこに着くころには雨も本格的に降り始め、今の状態では身動きが取れる状態ではなく、雨の音で付近にいるヤツらは外に行く事を
幸い休憩室への扉は
「とりあえず中は大丈夫そうだから休もう」
そう声を掛けると香奈は静かの頷き、休憩室に入るのだった、互いの衣服は少し濡れていたが、直ぐに乾くと判断した黒白は濡れた服を椅子に掛け、建物内を確認する為にその場を離れた、香奈も自身の服を乾かすために一度脱ぐのだったが、冷たい空気を肌で感じた瞬間に茂が死んだ事を思い出してしまい、声にならない悲鳴があり、その場に
「大丈夫だ、今は安全だから」
周囲の安全を確認して来た黒白は香奈を落ち着かせるために声を掛け続けた。
「ゆっくりで良いから息を吐くんだ」
黒白の言葉に少しだけ首を縦に動かした後に、少しずつ息を吐いて行く。
「吸って…吐いて、ゆっくりで良い、ゆっくりで」
黒白は何度も落ち着いた様子で声を掛け続けた、少し時間が経つと大分呼吸が落ち着いて来たらしく、何とか声を出す事が出来た。
「さっきはありがとう」
か細い声でお礼を言っている彼女はとてもじゃないが
「少し早いけど今日はここで朝を待とうと思うけど」
「一緒に居ても…」
「別に追い出す事はしないさ、それでも互いに交代で見張りはしよう、そうでもしないと休む事も出来無さそうだし」
「わかった」
黒白と香奈はまるで業務連絡かの様に静かな会話をしていた、黒白は助けてくれたとは言え、銃と言う名の力を持っているが故に香奈は怖くて仕方ない部分があった、そして黒白は過ぎた事とは言え、あの時の三人の会話があり、不快感は最初より感じられないがそれでも油断する事は無かった。
二人が逃げ込んでから時間が流れ外は完全に暗くなっている、そして雨が止む様子も未だに感じられない、
「ねぇあなたは、あいつらと戦って、人を喰っている瞬間を見て何も思わないの?」
香奈は知らないとは言え、意地悪な質問をしていると自分でも分かっていた、しかし黒白は。
「何も思わないわけじゃない…俺たちはあんたがあいつらと言う存在をヤツらと呼んでいる…俺が最初に居たのは学校だったし、そこから逃げ出すのにはヤツらと戦う必要がどうしてもあった、先生も同級性も喰われ、そしてヤツらに変わる瞬間も見ていた…それを見ても、生きたいと思える意思がそこにはあったそれだけだ…」
黒白はあの時の事を思いだし、返答してから
「それに…ヤツらと戦う事に感情を持って来てしまったら、いつか完全に壊れるぞ…俺は既に壊れかけているけどな」
「最後はなんて?」
「何でもない…」
最初の言葉は香奈に聞こえていたが最後の言葉は小さく言っていた為、香奈の耳に届く事は無かった。
「これやるよ、後はこれも、さっき奥で自動販売機を見付けて買っておいたやつも」
黒白はカロリーブロックとお茶を渡して奥の方に姿を消すのだった
「ありがとう」
香奈は聞こえる様にお礼を伝えると、黒白は軽く手を振り返事をするのだった。
奥のスペースに来た黒白は出発前に結月から貰ったお握りを食べていた。
「やっぱ…美味いな」
黒白はその味を噛みしめ、何とか今日を乗り越える事が出来そうだと感じていた、姿は違えど、結月は黒白にとって守りたい存在に確かに変化していた、だけど黒白はまだその感情に気が付かないでいた。毎日戦って行く中で体も心は疲弊し少しずつ余裕が無くなってきているのだから、それでも何とかして生きようとしている。今は確かに安全そうな場所で休んでいるが警戒は怠らずにいる、今のところは外にヤツらの影は確認出来ずに居るが数分後、数時間後には何が起こっているか分からないのだから。
食事を終えた黒白は武器を拭き、銃や警棒の構造を少しでも覚え、使う事に少しでも早く慣れる為に…ふと時計を見て見ると時刻は22時を回っていた。
「そろそろ、休むか」
黒白は静かに呟き香奈の居る場所へと向かった。
「スー、スー」
香奈は疲れもあったのか食事を終えた後に眠っていた。
「まぁ寝れるうちに寝とかないとな」
今の場所だと、何かあった時に対処しづらいと判断した黒白は、香奈の事を起こさない様に先ほど自分が休んでいたスペースに運び込んだ、そこであれば窓ガラスも無い為、ヤツらが押し寄せて来た時に身を守れるから、そしてその部屋から出た黒白は入口や周辺にある窓ガラスの近くに椅子やテーブルを、音を出さない様に慎重に運び、バリケード作成した。
「一様これくらいしておけば何とかなるだろ…」
一息着いた後に黒白は座り込み自分も物陰で休息を取るのだった。
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