第二十九話 合宿最終日 ― 成長の証

朝の空気


 三泊四日の合宿も、ついに最終日を迎えた。

 早朝のグラウンドに立つと、昨日までの疲れが嘘のように体が軽い。

 「今日は紅白戦だ。自分の課題が克服できたか、試してみろ」

 監督の声に、全員の表情が引き締まった。


 俺はグラブを握りしめる。

 (昨日は崩れた。でも、山根が見抜いた“一球”があった。今日こそ、掴む)


紅白戦開始


 紅白戦は上級生組と下級生組に分かれて行われた。

 俺は下級生チームの先発。打線には佐伯、小坂、篠原ら上級生が並ぶ。


 「如月、お前の球を試すにはちょうどいい相手だな」

 佐伯が笑みを浮かべ、バットを肩に担いだ。

 (逃げるな……ここで勝負する!)


一回表 ― 小坂の挑戦


 先頭打者は小坂。俊足のショート。

 俺の初球、直球を小坂はすかさずセーフティバント。

 コロコロと三塁線へ転がり、一塁へ全力疾走。

 「セーフ!」

 小坂がガッツポーズを見せた。


 「ようやく形になったな」篠原が笑う。

 小坂は息を切らしながらも真剣な眼差しで言った。

 「これを試合で決める!」


一回裏 ― 如月の立ち上がり


 マウンドに立つと、心臓が高鳴った。

 (今日は迷わない。体全体を使うんだ)


 バッターは篠原。キャプテンの重みが乗る一球目。

 思い切り腕を振り抜いた。


 ——ミットに収まった瞬間、球場全体がどよめいた。

 「ただいまの球速……140キロ!」


 (出た……! 本当に出たんだ!)


 篠原は打ち損じてショートゴロ。

 俺の胸の奥で、熱い炎が燃え上がった。


三回表 ― 佐伯との対決


 ツーアウト、ランナー一塁。打席に佐伯が立つ。

 「如月、俺は四番だ。ここで打たなきゃ意味がない」

 その瞳は真剣だった。


 初球、スライダー。佐伯は泳ぎながらも逆方向へファウル。

 (逆方向を意識してる……!)


 二球目、直球。佐伯は強振せず、コンパクトに右方向へ。

 打球は一、二塁間を破った。

 「ヒット!」


 ベンチが沸いた。

 佐伯は一塁上で拳を握る。

 「これが俺の新しい打撃だ!」


四回裏 ― 山根のリード


 今度は紅組のバッテリー。キャッチャー山根がリードを振る。

 「ここで真ん中直球」

 投手が首をかしげながらも投げる。

 打者役の小坂が完全に置き去りにされ、見逃し三振。


 篠原がベンチで頷く。

 「大胆になったな、山根」

 山根は静かにマスクを外し、汗を拭った。

 「配球の幅を広げないと、全国では勝てない」


五回裏 ― 如月、再び


 ランナー二塁、バッターは佐伯。

 俺は全身の力を込め、渾身の直球を投げ込んだ。

 「141キロ!」

 佐伯のスイングが空を切る。


 「やるな、隼人……!」

 その言葉が悔しそうで、同時に嬉しそうでもあった。


紅白戦終了


 試合は3−3の引き分けで終わった。

 それぞれが課題に挑み、新たな力を見せた紅白戦だった。


 監督は総括した。

 「お前ら、よくやった。まだ粗削りだが、この短期間でこれだけ伸びたのは本物だ。秋までに、さらに磨け」


 篠原は全員を集め、声を張った。

 「俺たちは、この夏を超えるチームになる!」

 「おおおおおっ!」


夜の決意


 寮に戻り、布団に入っても胸の高鳴りは収まらなかった。

 (140を超えた。でも、まだ夢の入り口だ。160なんて遠いかもしれない。……けど、俺は行く)


 窓の外には、もう秋の虫の声が聞こえていた。

 新しい季節が、確かに始まっていた。


現在の能力表(如月 隼人)


球速:141km/h(上限更新!)


コントロール:B+(フォーム安定度回復)


スタミナ:B


変化球:スライダー6/シュート3


特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/低め○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○/球持ち○


備考:合宿最終日で球速140超え/佐伯が逆方向打撃に手応え/小坂がセーフティ習得/山根のリード幅が拡大

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