第29話 全部
この国では、女神の力がなければ作物が育たない。
だからこそ、【女神の使い】が必要なのだ。
恋が好きな女神に去られてしまわぬように。
「すごい……!! すごいです、リッカルド様!!!」
今までの複雑な感情もどこかに吹き飛び、思わずリッカルド様の手を握る。
「……よかった」
リッカルド様は、照れたようにまつ毛を伏せた。
「本当はね、少し怖かった。……ここのことは、誰にも教えたことがないから」
「そう……だったんですね」
なるほど、だから、リッカルド様を森で何度か見かけたのね。
「でも、どうして私に……」
誰にも言っていない秘密を、話してくれたんだろう。
リッカルド様は、黒の瞳で私を見つめた。
その瞳には私だけが映っている。
「ソフィアが僕にとって、大切なひとだから」
「!!!」
は、と息が止まりそうになる。
胸が、苦しい。
嬉しさと申し訳なさでいっぱいになる。
「どうして……」
「昨日も言ったけど。ソフィア、君が好きだよ」
リッカルド様は、私の名前を呼んだ。
「……でも」
「ふふ、申し訳なさそうな目をしているね」
リッカルド様は私の頬に触れた。
「ねぇ、教えて? 何が、君をそこまで悩ませるのかな」
「私は……でも」
心の中で、ずるい私が暴れ出そうになる。
リッカルド様に全てを話してしまえと。
そうすれば、楽になれるって。
でも、そもそも、私は……、リッカルド様にもう関わるべきじゃないし、理由を言うわけにはいかない。
私の罪は、私が背負うべきもので、楽になろうだなんて……。
「ソフィア」
リッカルド様が私を呼ぶ。
そして、しっかりと私の手を掴んだ。
「君は、僕が嫌い?」
「……っ」
昨日も聞かれた質問。
嫌いって言わなきゃ。それで、今度こそもうおしまいにするんだ。
「……きらいなわけ、ないです」
涙が、溢れる。
あぁ。私は、また、間違えた。
「うん。僕も君が好きだよ」
今日は、好きだなんて一言も言っていないのに、嬉しそうに笑ってリッカルド様は続けた。
「……可哀想なソフィア」
可哀想?
誰が?
私が?
「こんな僕に囚われるなんて、可哀想だね」
「そんなこと……! 可哀想なのは、私じゃなくて、リッカルド様のほうで――」
口に出してからしまった、と気づいた。
「そっか、なるほど。君を困らせているのは、僕、なんだね」
リッカルド様が微笑む。
「全部、教えて、ソフィア」
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