第26話 醜い私
「なによ、それ……」
せいぜい、幸せになれ?
――そんなこと。
『お前の望みは元よりあの男を、生き返らせることだろう。――そして、それは果たされた』
悪魔は静かな声で話を続ける。
『おまけに、互いが想い合っている。なんの問題もないではないか』
……そうかもしれない。
でも。
「あなたは?」
『……は』
真紅の瞳を見つめ返す。
「神になるって息巻いてたクセに、すごすごと自分の国に帰って大丈夫なの?」
『……』
悪魔は、ゆっくりと瞳を瞬かせた。
「なに?」
『なにがそこまでお前を躊躇わせる?』
「っ!」
ほんとなら幸運なこと、で済ませれば丸く収まることはわかってる。
悪魔の贄にならなくてすむなら、それに越したことはない。リッカルド様も私のことを想ってくださってる。
でも……。
『……ふ』
押し黙り俯いて、手を握りしめると、悪魔が笑う気配がした。
『要するに、お前は、自分の中の罪悪感を消したいのだろう?』
「!!」
悪魔は、手で私の顎を持ち上げた。
『我の贄になることで、罪を帳消しに出来ると考えていたな?』
「……」
そんなこと、ない、とはいえない。
だって、だって、やり直す前、私のせいでリッカルド様は死んだのだ。
もう、あのリッカルド様には二度と会えないけれど。
リッカルド様が今度こそ笑ってくれたら。
それで、私が破滅すれば、少しはこの気持ちが軽くなるんじゃないかって。
そう想ってた、私がいる。
「醜い……」
『…………そうだな』
悪魔は、ゆっくりと頷いた。
こんな醜い私を、贄として悪魔が欲しくないと思うのも当然かもしれない。
「っ!?」
思わず唇を噛もうとすると、悪魔の細くて長い指が、私の口の中に入ってきた。
「なにして……」
『跡が付く』
まるで、心配するような言葉に、力が抜ける。
『ソフィア』
悪魔は、私の名前を呼んだ。
『お前は、醜い』
「2回も言わないでよ」
『だが、醜くないものなどいない。誰しも罪悪感とずるさと醜さを心のうちに飼っている』
遠い目をした悪魔は、何かを思い出しているようだった。
「悪魔も……あなたも、抱えているものがある?」
私は悪魔の胸にそっと触れた。
心臓の脈打つ鼓動を感じる。
……悪魔も、生きているのね。
まるで当たり前のことを、今更ながらに感じながら、目を閉じる。
『……ああ。言っただろう、成し遂げられなかったことがあると。結局のところ、――も』
「え?」
途中聞き取れなくて、目を開ける。
『いや。我も――お前を利用していた』
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