第15話 子猫
楽しかった(?)夏季休暇も、そろそろ終わりだ。
……だから、といってなにかあるわけでもないけれど。今日も魔獣の心臓を集めるだけだものね。
今日は、毒を持った魔獣に噛まれないように気を付けよう。
そう思いながら制服に着替えていると、ふと、昨日の光景が頭の中に蘇る。
『君を閉じ込めてしまおうか』
それから、睫が触れそうなほど近い距離と吐息も。
途端に、頬が熱くなるのがわかる。
──でも。私の目的はリッカルド様とどうにかなることじゃない。
リッカルド様を今度こそ死なせないことだ。そのためだったらなんでもする。
なんでも、する、けど……。
鏡を見る。
そこにいるのは、三年前の私だ。
そう、私は三年間この学園で過ごした。そしてずっとリッカルド様をただ、見つめていた。
そして、なにも行動を起こさないまま、三年が過ぎ、女神は私とリッカルド様を女神の使いとして選んだ。
そうして、──リッカルド様は死んだ。
時間を戻したところで、一度死んだという事実がなくなったわけじゃない。
リッカルド様は、死んだ。
もう、あのときのリッカルド様には二度と会えない。メリア様の香水の香りを纏わせながら、私と義務の夫婦関係を続けていたリッカルド様には。
だから、二度とあのリッカルド様に懺悔もできないのだ。
そのことを私は、忘れちゃ駄目だわ。
そう言い聞かせながら、頬を叩いて気合いをいれる。
よし、頑張ろう。
◇◇◇
……そう気合いをいれてはみたものの。
女子寮を出た私は早速、挫けそうになった。
「やぁ」
門前で、手をひらひらと振っている顔も声も見覚えがありすぎる。
「……おはよう、ございます」
私は、極力目を合わせないように気を付けながら、門前を通り過ぎようと──
「まあ、待ってよ。ソフィア嬢」
ですよねー。やっぱり、声をかけられちゃいますよね。
私は、ぎぎ、と音が立ちそうなほどゆっくりと、彼を見た。
「昨日、子猫に頭突きをされてね」
そういうリッカルド様の瞳は、全くもって笑っていない。
要件は賠償金の請求かしら。
「……そうなのですね」
小さな伯爵家が公爵家に賠償金を請求されて、きっちり払えるほどの経済力があるかと聞かれると、いいえだ。
相槌を打ちながら、すたすたと歩こうとしたその腕をつかまれる。
「でもね、とっても可愛い子猫なんだ。閉じ込めてしまいたいくらい」
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